土曜サロン

『泡坂妻夫展とその周辺』
第213回土曜サロン 二〇一六年十月十五日

 豊島区立図書館では二〇一二年から定期的に『地元の作家・泡坂妻夫展』を開催している。五回目になる今年は権田萬治氏の特別講演「ミステリー批評五五年 泡坂妻夫と雑誌『幻影城』」もあり、大勢のファンで賑わった。
 土曜サロンでは豊島区立中央図書館で泡坂妻夫展を担当されている田中正幸さんをお迎えして泡坂妻夫展と図書館について伺った。
 田中さんはもともと泡坂さんのファンだったが、生前にお会いする機会はなかった。たまたま同僚がマジック方面で泡坂さんとつながりがあり、その方から亡くなられた後の泡坂さんの資料の整理・管理を図書館ではという提案をされたので、ご遺族の方と連絡を取られた。提案された資料類はご家族で管理されるとのお話だった。その後、地元の作家として泡坂さんを紹介したいと思い、展示のお願いにあがったところ、直筆原稿や創作ノートなど貴重な資料をたくさん見せていただいた。多くの資料をお借りする中で少しずつ整理をさせていただきました。
 展示スペースは図書館の一角なので小さく、展示できる点数は限られている。しかし会期中に展示物を入れ替えたり、小冊子の作成など様々な工夫をして毎年開催を続けている。
 中央図書館は平成十九年オープン、田中さんは開館準備担当として通算十五年から関わった。もとは木造家屋の密集地だったところに再開発で建てられたビルの中にある。当初はすべてが図書館になる予定だったが、図書館だけでは国からの補助金が少ない。そこで同じ建物内に劇場も入ることになった。劇場も区の施設ではあるが、劇場への助成金は図書館の十倍以上だったそうだ。
 中央図書館は当時としては設備が整っていたが、十年経ち近隣には新しい設備を備えた新規図書館が数多く開館している。都内で一番初めにICタグで貸出管理をした規模の大きな図書館である。開館当時の本は見返しにICタグを貼っているが、いたずらされることもあるので新しく購入した本には外から見えないようカバーの内側に貼っている。
 都内図書館は区の職員だけで運営していた。財政難の中で、区職員は司書資格の有資格者も少なく、資格取得のため大学の夏季講座に通わせ、その間の補充としてアルバイトを入れるなど予算的に苦しくなる。職員は職場の異動が数年であり、司書資格を持つ図書館専門の非常勤職員の導入が増えるようになった。また、貸出などの窓口業務を業者に委託している図書館も増えている。
 図書館の業務・管理を区で行うことを自主管理、すべて業者に任せることを指定管理という。今まで図書館は指定管理に向かないと思われていた。図書館の業務は利益を生まないからだ。たとえば区の業務でもテニスコート、運動場などの貸し出しには利用料金が発生するので、そういうものは指定管理に向いている。しかし自治体の財政難のため図書館にも自主管理から指定管理になっていくところが出てきた。最近、話題のTUTAYA図書館などがそう。
 ただ指定管理でもいくつかのやり方がある。二三区内の図書館では文京区や新宿区が指定管理になっているが、新宿区は中央図書館だけは自主管理で運営している。それはTUTAYA図書館で問題になった選書を管理したいため。中央図書館で選書を管理し、それを区内の他の図書館へ配本している。
 豊島区の場合はまず業者が作成した図書館用のリストで本をチェックし、それらを持ってきてもらって現物を見てから購入を決めている。これを図書館の用語で「見計らい」という。業者としてはこの「見計らい」を止めてほしいようだが、こちらとしてはやはり現物を見て確認したい。見ないと判断できないことが多々あるからだ。ただし高額な本ほど見計らいにあがらないので判断が難しい。地域資料など書店にないものは古本屋で購入することもある。豊島区なので乱歩全集は揃えたいと思い、中央図書館がオープンする際に古本屋に頼んで探してもらった。
 選書会議では、一冊の本を四部買うより二冊の本を二部ずつ買うというように心掛けている。豊島区の予算はあまり多くなく、二十三区内でも下から数えた方がいいぐらいであるが、複本を減らし、多くの種類の本を各図書館に分散するためである。論創ミステリ叢書やミステリ珍本全集など出版部数の少ない本は図書館で所蔵するべき本と考えてできるだけ買うようにしている。
 図書館で一番大事な仕事は本を買うことと本を廃棄すること。本は毎日のように出版されているが、保管場所には限りがある。どうしてもある程度、本を捨てていかないとならない。しかしどの本を廃棄するか、これは大事な仕事でもあり難しい仕事でもある。
 なお、豊島区立中央図書館は平日だと午後十時まで開館していて、他の自治体の在勤在住者でも貸出は可能。ただし登録には身分証明書が必要ではあるが。ミステリの同人誌もいくつか購入している。貸出はしてないが、館内で閲覧はできる。「泡坂妻夫展」も今後も開催していくそうなので興味のある方は訪ねてはいかかでしょうか。

〔参加者〕
青井夏海、石井春生(文責)、新保博久、長谷川卓也、江口茂香、沢田安史、鍋谷伸一、野地嘉文、森下祐行