七月の土曜サロン報告――西口明弘さんをお迎えして
最初に告知しておきますと、土曜サロンは来年度より夏季の開催はなくなります。加納一朗先生主宰時代は、確か毎月開催のかわりに一年のかなりの時期がお休みになっていて、それは暑さ対策や事務局の繁忙期を避けたものでした。現在は冷房も発達し、会場も別に移したことから、それはもういいかなと思われたのですが、今回の当日の苛酷な暑熱と日射しに、到着の段階で参加者から生命の危険が指摘され、急遽衆議一決したものです。
さて七月二十日の土曜サロンのテーマは「横溝正史再発見と近年のブームについて」。横溝作品とりわけ金田一耕助の大ファンであり、早くからファンサイト開設や研究活動、イベント開催などで活動してこられ、去る二月には秘蔵の『犬神家の一族』映画化資料を引っ提げてテレビ出演も果たされた木魚庵こと西口明弘さんをゲストにお話をうかがいました。
あの角川文庫の横溝ブームのときには、まだ幼かったという西口さんですが、まもなくその面白さに魅了され、同時に中島河太郎先生が雑誌「野性時代」に掲載さた金田一事件簿に作品考察への興味に目覚めたとのこと。
当初はご自分のサイトで研究成果を発表していましたが、個人のインターネットが衰退した近年からは紙の本とツイッターでの情報発信に軸足を移され、その活動記録である「もっと!横溝正史」の年表が配布されましたが、その情報量はこの年末に没後四十三年を迎える今も、全く衰えを見せていません。
以前から、金田一ものの代表傑作だけではなく、本格ミステリを書き続ける作者の苦悩や時代と乖離する中での焦燥を引き受けたかのように、作中で疲弊や倦怠を見せる金田一探偵をこそ愛すると言っておられた西口さん。やがて若者たちの支持を受けて続々旧作が復刊、新作にも着手すると金田一もまた生き生きと甦っていったとの指摘には、思わず膝を打たされたことでした。
その他、とある金田一ものテレビドラマで果たした陰の役割などの秘話もあり、再び炎天下の戸外に出るのがうらめしい、楽しい二時間となりました。
(芦辺拓)