松坂健のミステリアス・イベント体験記

日々是映画日和――ミステリ映画時評(90)

三橋曉

 前回は年間回顧だったため、紹介したい作品が山積み。なので、いきなりいきます。ジェイムズ・サリスのノワールを下敷きにした『ドライヴ』、バンコクを舞台にエキゾチズム漂う『オンリー・ゴッド』と、暴力衝動に満ちた犯罪映画を連打したニコラス・ウィンディング・レフンだが、新作の『ネオン・デーモン』では、生き馬の目を抜くファッション界を舞台にしている。田舎町から都会のロスに出てきたモデルの卵エル・ファニングは、忽ちその美しさが売れっ子のカメラマンやデザイナーの目にとまる。チャンスを掴んだ彼女は、次第に業界の苛酷な生存競争に呑みこまれていくが。
ライバルやボーイフレンドも踏みつけにする負のスパイラルを描く成功の階段は、清順もかくやの極彩色と、ディ・パルマもびっくりのケレン味に彩られたものだ。開巻一番、これでもかと突きつけられる美しすぎる死体のモチーフが、やがて物語にシンクロしていく。スクリーン上に炸裂する監督の美意識には、映画の毒がたっぷり含まれているので、くれぐれもご注意を。(★★★)

 監督、主演作の『夜に生きる』(原作はルヘイン)も公開間近のベン・アフレックが、切れ者の会計コンサルタントとして登場するギャビン・オコナー監督の『ザ・コンサルタント』。前科者の過去に加え、彼には知られざる別の顔があった。シカゴ近郊の田舎町で会計事務所を営む彼のもとに、大手の電子機器会社から調査依頼が舞い込む。超人的な能力で経理の使途不明金の原因を突きとめるが、財務責任者の死で調査は打ち切りに。それに納得いかない彼を、何者かが付け狙い始める。
 主人公の別の顔とは、格闘技を武器とする異様に高い戦闘能力の持ち主であること。高機能自閉症で他者との関わりが極端に苦手な彼の将来を案じた父親は、生きる術としてそれを叩き込んだのだ。会計士の正体に迫ろうとする財務省の犯罪捜査官シンシア・アダイ=ロビンソンや、一方執拗に彼の命を狙う殺し屋のジョン・バーンサルが入り乱れる物語は錯綜するが、冒頭に置かれた主人公の少年時代のひと幕が、伏線となって浮上するクライマックスに大きなカタルシスがある。(★★★1/2)

 暴力も辞さない示談屋ラッセル・クロウと、シングル・ファーザーの私立探偵ライアン・ゴズリングが期せずしてコンビを組む『ナイスガイズ!』からは、懐かしいネオ・ハードボイルドの匂いがする。最悪の出会い方をした二人だが、そのきっかけを作った依頼人マーガレット・クアリーが姿を消し、二人三脚で行方を追うことに。ほどなく、出演していたポルノ映画が彼女の失踪に繋がり、関係者の身に不審事が次々ふりかかっていたことがわかってくる。
 西海岸という舞台やアンチヒーロー的な探偵役など、ピンチョン原作の映画『インヒアレント・ヴァイス』も思い出される。ベトナム戦争の終結や次々変わる大統領など、当時の世の中を映している点は共通するが、七十年代カルチャーのおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさが本作の特長だろう。私立探偵の娘で父親に辛口のアンガーリー・ライスがいい味で二人にからむ。私立探偵ものの面白さも十分で、シェーン・ブラック監督のオリジナル脚本らしいが、ロジャー・サイモン原作と言われても信じてしまいそうだ。※2月18日公開予定(★★★★)
 バディムービーは、ミステリ映画の定石のひとつだが、ジェームズ・ワトキンス監督の『フレンチ・ラン』の組み合わせはかなりユニーク。かたや、はみだし者のCIA局員イドリス・エルバ、その相棒はといえば、掏摸のリチャード・マッデン。爆弾テロ事件の濡れ衣で逮捕されたことがきっかけで、掏摸はやむなくCIAの捜査に協力することになる。
 普通に考えれば噛み合うわけのない凸凹コンビだが、無鉄砲なエージェントと手先の器用な掏摸の間には、やがて奇妙なチームワークが生まれ、テロリストを名乗る犯人を次第に追い詰めていく。しかし唸らされるのはそこからで、革命記念日に照準を合わせネットを使って大衆を扇動する真の目的が明らかになると、物語全体の構図が一転する。その手並みが鮮やかだ。脚本のアンドリュー・ボールドウィンは、ノンクレジットながら『フライト・ゲーム』にも参加している。なるほどね。※3月4日公開予定(★★★1/2)

 スペイン南部の町に集まった七人の男たち。彼らは四台の高級乗用車に大量の乾燥大麻を積み、パリを目指して車をスタートさせる。フレデリック・シェンデルフェール監督の『ファスト・コンボイ』は、輸送船団(コンボイ)を組む麻薬の運び屋たちの物語である。しかし、ほどなく予定外の事実が発覚する。依頼主は、見つかると罪の重いコカインを積み荷に加えていたのだ。さらに国境の検問で引っかかった一台は警官との銃撃戦になり、その結果、女性を人質にとって逃走せざるをえなくなる。
派手なカーアクションよりも、犯罪者たちの群像劇に重きをおいた犯罪映画で、彼らのやりとりを通して人間模様が濃やかに描かれていく。リーダー格を、ブノワ・マジエルがさすがの存在感で演じている。〈未体験ゾーンの映画たち2017〉での上映のほか、三月にWOWOWでもオンエアが予定されているようだ。(★★★)

※★は最高が4つ、公開日の記載なき作品は、すでに公開済みです。