土曜サロン

土曜サロンレポート
第二一七回土曜サロン 二〇一七年五月二十日

青井夏美

 ミステリドラマシリーズの歴史的名作「刑事コロンボ」は、第一作放映から五十年になろうとする今も根強い人気を誇っている。日本におけるコロンボ研究の第一人者・町田暁雄さんは、長い年月をかけて90冊に及ぶシナリオを入手し、改稿の過程やその背景などをつぶさに考察してきた。貴重な資料をもとに、オリジナルシナリオを読み解く楽しみを語っていただいた。

「刑事コロンボ」は全69作だが、入手シナリオ数がそれを上回るのは改稿が重ねられたため。確認できた中では「ハッサン・サラーの反逆」の12稿が最大。
 シナリオの表紙に初稿および改稿の年月日が記されているので、決定稿に至るまでの過程がわかる。タイトル、人物名などが変わっている例、尺(75分版、90分版)が変更された例、シナリオにある脚本家名が画面にはクレジットされていない例もある。
 画面のクレジットには法則がある。複数の脚本家名がA and Bと表記されていたら二人は別々の作業、A&Bと記号でつながれていたら共同作業で関わったことを示す。A、B and C&Dのような形で三人四人とクレジットされているものもあり、舞台裏をうかがう手がかりになる。
 シナリオのほかに原案を入手したエピソードもある。分量にしてシナリオの四分の一ほどもあり、原案の段階で物語はほとんどできていることがわかる。
 内容チェックの権限を持つストーリー監修という役職もある。クレジットではstory consultantなどと表される。

 コロンボの生みの親はリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク(以下L&L)だが、シリーズ化にあたっては多くのスタッフが原案、脚本、ストーリー監修に関わっていた。シリーズ初期は、L&Lの原案をもとに草稿を起こし、それを叩き台に集団で磨き上げるというスタイルで脚本が作られた。
 L&Lが番組を離れてからは、それまでと違ったことを試みる姿勢が見え始め、L&L時代にはないタイプの秀作も多く誕生した。
 初期のコロンボは、謎を解く過程が物語であり、謎が解けるとともに物語は終わった。動機は「欲得」、殺人はその手段だった。これに対し、旧シリーズ後期には「復讐」すなわち殺人自体が目的となるような動機を取り入れ、コロンボが狙われるなどドラマチックな要素が盛り込まれるようになった。
 その傾向は十年後の「新・刑事コロンボ」にも引き継がれた。しかし相次ぐプロデューサーの降板、死去で人材不足に陥りシナリオの調達にも苦慮。「87分署」に原作をとったり、主演ピーター・フォーク自ら脚本を執筆し豪華女優ゲストにコロンボを誘惑させるなど、過去にない試みが次々と行われた。
 コロンボの「甥っ子」が実際に登場するという掟破りが行われた「初夜に消えた花嫁」は、意外な秀作でもあった。画面にはクレジットされていないが、シナリオには、旧シリーズ「祝砲の挽歌」などで犯人を演じたパトリック・マクグーハンが製作総指揮として名を連ねている。「復讐を抱いて眠れ」では共同製作総指揮・監督とともに四度目の犯人役、「奪われた旋律」でも製作総指揮・監督・脚本を担当し、マクグーハンの存在が新シリーズに品格を加えたものと思われる。
 未撮影シナリオもいくつか見つかっている。コロンボ最後の事件として撮影予定だったものもあり、実現しなかったことが惜しまれる。

 オリジナルシナリオを集める楽しみは、シナリオを見なければわからない発見があること。カットされた台詞や場面などもわかる。「死者の身代金」のシナリオにはコロンボの「かみさん」が実在しないことを示唆する台詞があるが、完成作ではカットされている。あるエピソードからカットされた場面が別のエピソードに使われている例、90分版を75分版に作り直すにあたり伏線の場面がカットされてしまった例などもある。
 NHK放映時代のノヴェライズには、放映版とオリジナルシナリオの両方を参考に書かれたものもあり、ドラマにない場面は創作に見えたが、シナリオにはあった(が、カットされていた)ことが判明した例もあった。

 最後に、コロンボが日本の刑事ドラマに与えた影響などについてディスカッションが行われた。日本でコロンボが一世を風靡した時、服装や髪型など形だけが模倣され、ロジックで落とすドラマの流行には至らなかった。町田さんは、仕事に忠実で誰にでも公平なコロンボを「かっこいい」と感じ、冴えない外見を強調する風潮に違和感を抱いていたといい、出席者も賛同の声で一致。コロンボの人物像の魅力についても活発な意見が交わされた。