新入会員紹介

入会ご挨拶――それでも、小説は事実より奇なり

赤神諒

 はっきりとした締め切りがないと、遅筆もさらに遅くなるものです。多少は気の利いた内容でなければと思案するうち、ありがちな話ですが、無為に時を過ごしてしまいました。
 ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。昨年末、日経小説大賞を受賞し、歴史小説「大友二階崩れ」でデビューしました赤神諒と申します。このたびご縁を得まして、入会をお許しいただきました。
 不惑を前にやり残したことはないかと、思い立って小説を書き始めました。奇を衒わない正統派で行こうと、二十本ほど直球勝負の小説で数十回落選し、受賞まで約八年を要しました。第二作「大友の聖将」、最新刊「大友落月記」のいずれも歴史小説ですが、長い下積み生活で在庫も豊富なため、ありがたいことに、十二の出版社様からオリンピック年まで二十作以上、お話をいただいております。
 そんな新人作家がなぜ入会を?
 当面は戦国物で足元を固めて参る所存ですが、以前は現代物と交互に書いておりまして、司馬遼太郎以外にも、ホームズやペリー・メイスンなどに心を奪われた学生時代を過ごしました。エンタメ小説には大なり小なり謎があるべきだと愚考しておりますが、それほど遠くない未来に、必ずやミステリーを出版したいと切望しております。
 「事実は小説よりも奇なり」なる言説を耳にしますと、腹までは立ちませんが、せめて反駁したくなります。私は本業が法律家ですので、仕事で虚構は許されず(実は裁判所にも真実は見抜けなくて悔しい思いもするわけですが)、ここ二十年余りひたすら「事実」を追いかけて参りました。事実を立証するために証拠を探し、事実を裏付ける客観的、科学的意見を専門家に求めもしました。
 現実にはいくらでも生起する数々の「偶然」を、小説では原則として使用できないルールを了解しつつも、なお私は「小説は事実よりも奇なり」を立証すべく、本当のような虚構ばかり書きたいと思っています。
 出版不況はトンネルを抜ける様子も当面なさそうです。
 ですが、現代日本の小説家は有史以来、最高レベルではないでしょうか。厳しい中でしのぎを削るからこそ良作が生まれる。先輩方に続いて、業界活性化のため微力を尽くして参る所存です。
 本業で、本格的かつ急激な人口減少を迎える日本の「コミュニティの再生」に関心を持っております関係で、「小説による町おこしの可能性」なども考えております。
 業界を生き残って一定数の読者を獲得できたなら、ミステリーの舞台にすることで、元気のない日本の町おこしになどに一役買えないかなどと夢想しております。
 好みに属するでしょうが、衝撃の問題作!を読みますと、鬱々とした思いが後を引く場合が多いように感じます。これとは逆に、すがすがしさ、心地よさを日常までずっと引きずってしまうような、後味のよい読後感にこだわり、衝撃の正統派!の虚構を書くのが夢です。
 まだ少し垣間見ているだけですが、まったく新しい世界に足を踏み入れ、日々、緊張しつつも楽しんでおります。
 不勉強な新人でございますが、どうかよろしくお願い申し上げます。