加納一朗さんの逝去をいたむ
推理作家協会が、探偵作家クラブから、名称変更してから、いくらも経っていない時代である。われわれSF作家志望者は、同人誌『宇宙塵』に参加していた。同人の中に、プロ作家は、二人しかいなかった。ひとりは、江戸川乱歩さんに認められて、いち早くデビューした星新一さんである。そして、もう一人のプロが、加納一朗さんだった。もっとも、加納さんは、SF作家として、登壇したわけではない。推理作家としてのデビューだった。平井和正やわたしは、自分の著書を持つ先輩作家を、仰ぎ見る気持ちだった。のちにSF作家クラブが成立してからも、仲良しクラブという性格から、職能団体としては機能しない。加納さん、山村正夫さんの肝いりで、われわれSF作家も、推理作家協会にそろって入会させていただいた。おかげで、文藝美術家協会の保険にも加入でき、安心して著作にいそしめる環境ができあがった。
加納さんとの付き合いは、平井和正原作の『エイトマン』がテレビ化されたことで、わたしがオリジナル・シナリオライターとして参加してから、やや遅れて加納さんも巻き込み、創世記のアニメの分野でも続くことになった。アイデアストーリーだけのわたしと比べると、加納さんのシナリオは、職人的な巧さだった。やがて、加納さんは、次回作の『スーパージェッター』では、基本設定にかかわる仕事を残す。日本最初のタイムトラベル・テーマのアニメである。
加納さんは、面倒見のいい方だったから、あれこれ公私ともに、お世話になった。わたしが結婚したときも、世知に疎いわたしに、結納の仕方から、結婚指輪の買い方まで、指導してくださった。
訃報に接して、あの頃の思い出が、よみがえった。加納一朗さん、安らかにお眠りください。