新入会員紹介

入会のご挨拶

松本英太郎

 この度、佐藤青南様と知念実希人様のご推薦を賜り、日本推理作家協会の末席に加えていただきました、松本英太郎と申します。
 ご推薦賜りましたお二方をはじめ、入会をご承認くださった理事会の皆様、事務手続きにお手数をおかけした事務局の方々に、この場をお借りし、あらためて心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
「小学四年生の時に抱いた夢が、六十才を過ぎてからかなう。……こういう事があるから、人生って本当に面白い!」
 これはこの三月に、現在勤務している高校で、卒業する生徒に向けて語ったビデオメッセージで私が言った言葉です。
 私の小説享受の歴史は、昭和四十年代、ポプラ社の「怪人二十面相」に始まる少年向け江戸川乱歩全集、光文社の月刊少年誌「少年」の付録冊子に収められた「幽霊ロボット」(矢野徹)、小学校の図書室にあった偕成社「火星のプリンセス」と講談社「だれも知らない小さな国」、駅前通りの書店で買った講談社「地球さいごの日」あたりから始まりました。
学校の教科書に載っている「教育的な作品」とは異なる、しかし「読んでいる間は時の経つのを忘れるほど夢中になれる作品群」が、私を「本好き」にし、人生に多大なる影響を与えてくれたのです。
 ただ、読書の嗜好は当時「一風変わった」とされたSF・探偵・幻想(今ならファンタジーと呼ぶべき)・怪奇(これもホラーと呼ぶべきですね)に集中しており、「本好きだけど文学少年ではない変な奴」と周囲の大人からは思われていたようです。
 当初から「自分もこうした小説を書く作家になりたい」と考えるようになった私は、早川書房のSFマガジンの記事で柴野拓美先生主宰の「宇宙塵」という同人誌を知り、中学生であるにもかかわらず、無謀にも会員となりました。
ただ、投稿したショートショートにいただいた柴野先生の「再考を願います」というコメントを、こうしたやり取りについて無知だったため、「ああ、これがボツになるということか」と勝手に思い込み、改稿して送らなかったのです。
 今にして思えば、「もう少し工夫すれば、『宇宙塵』掲載の可能性が出てくるかも知れませんよ」というご意向だったのだと思います。しかし私は当時毎号掲載されている、後に作家デビューする錚々たるメンバーの作品を読んで「この人たちとは太刀打ちできない」と、あっさり「読む側」に回ることにしたのでした。
「あの時勘違いせずに、改稿して柴野先生に読んでいただいていたら、自分の人生はどうなっていたのだろう」と今でもifの人生を想像する時があります。
 中学生時代には、仲間内で回し読みするエドガー・ライス・バロウズ風の小説を書き続けたことはありました。しかし、クラス担任で心から尊敬できる先生に出会ったこともあって、高校の国語教員になりました。創作の道を目指すことはなかったのです。
しかし、「自分の書いた本が出版されて誰かに読んでもらうようになりたい」という欲求は常にありました。
 たまたまSFを通じてコンピュータにも興味を持っており、その方面の知識も身につけていたおかげで、プログラミング言語の解説書や高校の情報関係教科書などを執筆する機会を頂戴し、その欲求は一応満たされて人生を送って来ました。
「このままで一生のゴールに向かって行くのだろうな」と予感し始めていた三年前、思いがけず青心社様のクトゥルー神話作品募集に入選したのです。それは小学生以来ずっと心奥にくすぶり続けていた「小説家になりたい」という夢がかなった瞬間でした。
以後、幸いにも三年に渡り作品を発表する機会に恵まれて来ました。これが先に挙げた生徒たちへのメッセージへと繋がります。
 私が書くものはいわば「SFホラー」に分類されるのでしょうが、推理小説的手法が色濃くあります。
 第一作は犯人が初めから分かっていて、その犯行の過程を追跡するプロットを含みますし、第二作は主人公の飼い犬が、ある朝「恐怖の表情を浮かべている」としか言えない様子で死んでいるのを発見され、その死の謎を追う形で話が進んでゆきます。
 どちらもホラーと推理が入り混じった作品であり、幼い頃から江戸川乱歩先生の作品群を読んでいた自分の読書嗜好がそのまま反映されています。だから(皆さんは失笑なさるでしょうが)自分で読んでも面白い。「自分が読んで面白くない小説は書いていても楽しくない」から、作家という仕事を「楽しい仕事」にし続けたい。
 これからも「こんな話が読みたかったのだ」と自分でも思えるような小説を書いて行ければと思っております。
 どうぞ皆様、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。