新入会員紹介

入会のご挨拶

矢樹純

 矢樹純と申します。このたびは入会を承認いただき、ありがとうございました。
 私は二〇〇一年から漫画原作者として活動していて、二〇一二年に小説家としてもデビューしました。漫画原作者としての代表作は「ビッグコミックオジリナル増刊」で連載され、テレビ朝日でドラマ化していただいた『あいの結婚相談所』、「週刊ヤングマガジン」で連載していた『バカレイドッグス』シリーズなどです。
 まだ小説家としてのキャリアも浅く、作品数も少ないので、歴史ある日本推理作家協会の会員に加えていただけたことに恐縮しています。
 小学校の中学年くらいから江戸川乱歩の少年探偵シリーズをきっかけにミステリーを好んで読むようになり、コナン・ドイル、エラリー・クイーン、アガサ・クリスティ、横溝正史と、気づけばミステリー以外の小説をほとんど読まずに成長しました。
 中学一年生の時にそんな自分に危機感を覚え、「体のためにバランス良く食事をするように、バランス良く読書をしたいです」という小賢しい作文を書いたのを覚えています。そしてミステリー以外の小説を読むことに挑戦しようと、父の書斎にあった日本文学全集を手に取ったのですが、確かに何冊かは読んだはずなのに、夏目漱石の『こころ』くらいしか記憶に残っていません。
 犯人が明かされた時の驚きや、思いもよらないトリックに出会った時の衝撃。そして自分に見えていた世界が、実は全然違うものだった―と知った時のあの目眩のする感じが、私にとっての読書の喜びと楽しみだったのだと思います。
 結局、読んでも楽しくない本は読まなくなり、その後は『十角館の殺人』、『月光ゲーム』、『占星術殺人事件』、『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』、『姑獲鳥の夏』、『ハサミ男』など(とても書き切れません)、大量のミステリーと漫画しか読んだことのない大人になってしまいました。
 そんなふうに本を読むことは好きでしたが、自分自身で小説や漫画を書きたいと、本気で思ったことはありませんでした。
 物語を考えることは大好きで、毎晩布団に入ったあと、眠りにつくまで延々と誰に聞かせるわけでもないお話を考えているような子供でしたが、それを形にしようとするとどうやっても上手くいかなくて、自分には無理だと諦めていたのです。
 そんな私が物語を書くことを仕事にしたきっかけは、結婚と出産でした。
 私も夫も実家が遠方で子育てに親の手を借りることができなかったため、外に働きに出るのは大変だろうと在宅でできる仕事をすることにしたのです。当初は校正のアルバイトをしながら漫画家である実の妹とコンビを組んで新人賞に投稿し、いくつもの出版社に持ち込みをして、ようやく漫画原作者として仕事をもらえるようになりました。
 そこからどうして小説を書くことになったのかといえば、デビューから数年が経った頃、一つの連載が終わったあとに、なかなか次の連載が決まらなくなってきたからです。
 描かせてもらっていた漫画雑誌が休刊になったりと作品を発表する場が減っていき、このまま漫画原作だけでやっていけるのか、という不安から、追い詰められて、小説家を目指してみようと決意しました。
 そう書くと夢のない話のようですが、これまでたくさんのミステリーを読みながら憧れてきた《推理小説家》という仕事に挑戦するんだと、追い詰められた状況とは裏腹に、とてもわくわくした気持ちになったのを覚えています。
 そのわくわくは、実際に書いてみると「全然思いどおりに書けない……」と、あっという間に萎んでいったのですが。
 それでも、なんでもすぐ諦めてしまっていた子供の時よりはいくらか成長したのと、生活がかかっていたこともあって、どうにか作品を書き上げ、小説家としてデビューすることができました。
 残念ながらデビュー作が売れず、なかなか次作を出せない、仕事の依頼をいただけない状況が続いていたのですが、昨年、表題作が第七十三回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した『夫の骨』で名前を知ってもらえたことから、作品を発表する場をいただけるようになりました。
 現在は光文社の電子ミステリー雑誌「ジャーロ」にて『Mother Murder マザー・マーダー』という連作短編の連載をさせていただき、他にも書き下ろしの長編を執筆中です。
 これまで自分の肩書きを《漫画原作者/小説家》としていたのですが、ありがたいことに今年は漫画原作よりも小説の仕事の方が多くなりそうです。
 刊行された小説はデビュー作を合わせてまだ四作と、まだまだ小説家としては駆け出しの私ですが、与えていただいた機会を大切に、これからたくさんの作品を書いて成長していきたいです。
 子供時代から今日まで、いくつもの素晴らしい推理小説に味わわせてもらった驚きと衝撃、目眩を読者の方にお届けできるように精進してまいります。
 どうか皆さま、今後ともご指導、ご鞭撻をお願いいたします。