新入会員紹介

入会のご挨拶

暁佳奈

 この度、佐藤青南様と知念実希人様のご推薦を賜り入会させていただきました、暁佳奈と申します。まずはお手続きにあたりご協力くださいました推薦者のお二方、理事会の皆様、事務局の方々にお礼申し上げます。お忙しい中お時間を割いていただきありがとうございました。
 こちらのご挨拶を皆様がご覧になっている頃、世の中はどういった動きになっているでしょうか。ここ数年は世界全体が不安感を抱き、傷つけ合い、同時に優しさや真心といったものを切望している時代でした。世の流れは今までとはまったく違った世界へと移り変わり、戻るところもあれど変化が定着し、まだ見ぬ未来になっていくのでしょう。
 北の大地でひっそりと生きている身の上ですが、この大きな変化の中で兼業作家から専業作家になると決断したことはとても勇気がいることでした。
 何か所属しているものがあるというのは心強さを与えてくれます。しかし専業作家ですと大海原にたった一人で舟を出したのと同じですから後ろ盾がありません。
「遭難するかも! 餓死しちゃうかも! どうしよう。一人だし誰も助けてくれないよ。このまま人生が終わるんだ! うわーん!」と想像してさめざめと泣く日々もありました。冷静に考えるとそんなにすぐに人生は終わりません。でも「うわーん!」と泣いてしまいます。
 私はひどい臆病者でかなり泣き虫なのです。
 同時に「怖い、怖い」と言って泣きべそをかくくせに新天地に冒険しようとする無謀なところもあります。怖いなら安全なところに居ればいいと思うのですが、留まっていることで出てくる弊害を恐れ、また退屈を嫌い、無計画に走りたがる良くない癖を持ちます。
 はたから見ると一体何がしたいのかわからない私に、国語教師であった父はよく格言を贈ってくれました。
 良い言葉を与え、落ち着きと教養を持たせたいという親心だったのだと思います。
 印象的だったものがいくつかあります。
 まずはラテン語の「Festina lente(ゆっくり急げ)」。
 色んな意味を受け取れる言葉です。人生を駆け足しすぎてしまえば、美しいものや素晴らしい人との出会いを失う可能性もあります。心を亡くすと書いて「忙しい」と読むと言いますし、悠々としながらも人生を楽しみ、しかし加速すべきところは走れといったような叱咤激励を感じました。
 前述しましたがとても怖がりで一人で勝手に不安がって泣いているような人間なので、あまり人生を楽しんだり、ほっと落ち着く瞬間を持たなかったりします。
 気がつけば四季を愛でることも忘れてただ回遊魚のようになってしまう私にとって「Festina lente(ゆっくり急げ)」は気を張り詰めている時こそ思い出したい言葉になりました。

 次に「実るほど頭を垂れる稲穂かな」。
 稲の穂は実が入ると重くなって頭が垂れ下がります。学徳が深まると、かえって他人に対し謙虚になるということわざです。
 これは年を重ねれば重ねるほど、栄誉を受ければ受けるほど身にしみる言葉だと思っています。私自身、身に余る栄誉を授かった時に使っていますし、とても共感出来るものです。
 自分で書いた本の数が増えていく内に、たくさんの読者様、また出版関係者様、書店様からありがたいお言葉をいただくことがあります。
 しかしその栄誉は私一人で受け取っていいものではないと、私個人としては思っています。
 小説や、漫画、映像作品、ゲーム、大きく名前が出る人は存在しますが、その裏側で作品を世に送り届ける為に尽力してくださっている方々がたくさん居るからです。
 私が書いただけで本は本屋さんに並びませんし、販売促進してくださっているのは別の方々です。そもそも表紙は装丁家様と装画家様が作ってますし、本屋さんで本を並べてくれるのは書店員様です。ポップも書いていません。印刷もしてません。
 ありがたいお言葉をいただくまでにたくさんの人々がそれぞれのストーリーを持って作品に接してくださっています。
 それを考えると「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉の深さ、そこから受け取れる意味合いを噛みしめることが出来ます。
 父から貰った格言の他に、自分の人生の中で座右の銘にしたいものがあります。
「人事を尽くして天命を待つ」です。
 やれるだけのことをやり、全力を出したら後は天に運命を任せる。この言葉で救われてきたことが何度もあります。
 臆病で泣き虫な人間にはどこかで気持ちをリセットするということが必要なのでしょう。
 未熟者だが頑張ったじゃないか、もう後は天に任せようと思わないと延々と「うわーん!」となるのです。「うわーん!」と泣いてばかりではいられません。明日も朝は来るし夜も来るし、原稿の締切は餅のように伸びないのです。文字を書かねばご飯も食べられません。長々と書きましたが要約しますと、私はけして立派な人間ではありませんが、入会させていただいた栄誉を胸に、会員として恥じぬ活動をしていけたらと思っています。
 皆様、どうぞよろしくお願い致します。