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平沼正樹

 最高傑作ができた! 控えめに言っても自分の代表作になるだろう。書き上がった頃にはすっかり年が明けていたが二〇二二年は最高のスタートが切れそうだと興奮していた。
 遅い正月を迎えた私は逸る気持ちを抑えて作品を推敲し、いつもお世話になっている編集の※さんに初稿を送った。
 普段から歯に衣着せぬ物言いで作品の痛いところを突いてくる※さんもこれを読めばきっと私に平伏するだろう。そしてこう言うのだ。「ぜひ、シリーズ作品にさせて下さい」と。
 何を隠そう、初めからシリーズにしようと思って書いた作品である。そんな想定内の感想をもらっても私は驚かないだろう。いや、逆に焦らしてみるのも面白いかもしれない。「これは大切にしたい作品なので出版は急いでません。もっと推敲を重ねて、発売するタイミングも続編のことを念頭において考えたいと思っています」そう言ってやるのだ。
 いつもは急かされる立場である。しかし今回ばかりは先手を打って自分がスケジュールをコントロールし、締切りというあの悍ましい魔物を支配下におくのだ。私はそんな妄想をしながら※さんからの返事を待っていた。作品に対するありとあらゆる賛辞を想像しながら、一時間おきにパソコンでメールソフトをチェックした。
 ところが、数日が過ぎても返信はなかった。一週間待っても送られて来るメールはアマゾンからのおすすめ商品やバイアグラを売りつけようとする謎のダイレクトメールばかりだった。もしかして差出人を間違えて送ってしまったのかと思い送信履歴を確認したが、正しく送られていた。
「そうか。あまりの感動に二度読み三度読みしているのか。確かにこの作品にはいくつもの伏線が序盤から張り巡らされている。その一つ一つを紐解くには時間が必要なのだ。さすがプロの編集さんだ」と私は関心し、今すぐにでも電話したい気持ちを堪えることにした……。
 初稿を送ってから二週間が経っていた。ドーナッツ屋でコーヒーを飲み終えた私はサウナへ行こうと思い立ち、その前にメールをチェックすることにした。すると、受信ボックスに※さんのアドレスが表示された。今読むべきか、いい汗をかいた後で読むべきか。逡巡したが、その返事を心待ちにしていた私は勇んでメールをクリックした。
『これは期待が膨らみますね!』
 返事は上々な滑り出しの文章から始まった。だがその後は目を疑うような文章ばかりが続いていた。要約すると、面白い作品だが第一章はまるまる捨てる必要があると書かれていた。認めたくないが、感覚的にも論理的にも的を射た意見だった。
『貴重なご意見をありがとうございました。ごもっともだと思いました。ご指摘の箇所、直してみますので少しだけお時間を下さい』
 私は敗北宣言のようなメールを送信してサウナへ向かった。体中から違う種類の汗が流れ落ちていくようだった。
 あらためまして平沼正樹と申します。小説を書いたのもゴルフを始めたのも四〇を過ぎてから。今さら青春を謳歌している駆け出しの作家ですがツイッターなどでお気軽に絡んで頂ければ幸いです。ゴルフ同好会に入る予定ですが未だ一〇〇の壁と戦っておりますため、どうぞお手柔らかに。今後ともよろしくお願い申し上げます。