新入会員紹介

新入会員挨拶

沢野いずみ

 この度、柴田よしき様と佐藤青南様のご推薦を賜り、日本推理作家協会に入会させていただきました、沢野いずみと申します。
 お忙しい中ご尽力いただいた、ご推薦者のお二方、理事の皆様、事務局の方々、この場を借りて感謝を述べさせていただきます。ありがとうございました。

 さて、ここから少しばかり自分語りになります。
 皆様が初めて本に触れたのはいつでしょうか?
 幼い頃に絵本というものに触れたのが初めてという方も多いのではないかと思います。
 私が『本』というものに触れたのは、おそらく皆様に比べると遅い時期です。
 実家には絵本どころか、本というものが兄弟の教科書以外存在しませんでした。漫画も辞書も図鑑もありません。
 親は本に対して興味がなく、あれは賢い人が読むものということを常々口にしていました。また、子供に言葉を教えるという考えもなく、そういったものは小学校で習うものという認識でした。
 そんな状況ですから、私も本というものはもちろんのこと、そもそも字をほぼ見たことがなく、幼稚園に置いてあった絵本も、親が「賢い人しか読まない」と言っていたので、自分には関係ないと思い、まったく手が伸びませんでした。
 私は兄弟が教えてくれた自分の名前をひらがなで書けるようになった程度のレベルで小学校に進学しました。
 そこで初めて『字』というもの、そして物語に触れます。
 小学校一年生の時ですから、初めて触れたのは教科書でしたが、そこで読み書きを覚え、教科書なので部分的でしたが物語を読むということを経験した私は、衝撃を受けました。
 言葉ってすごい!
 口で伝えなくても、字で伝えることができるのです。そして字はただ内容を伝える以外にも、物語というものを作って人を楽しませることもできる、私にとっては魔法も同じでした。
 私は字を学ぶのに夢中になりました。
 そしてもう少し成長したとき、ある夏休みの宿題が出たのです。
 そうです。読書感想文です。
 これは本を読まなければできない宿題です。家には本がなく、教科書しか読んだことがない私です。そして教科書は読むようになりましたが、相変わらず親から常々言われている「本は賢い人が読むもの」という考えがあった私は、図書館で本を借りるという考えにも至らず、親に相談しました。
 そして親は初めて私に本を買い与えてくれました。
 一冊に綴られた物語は、私に感動を与えてくれました。教科書の全体の一部分だけを抜き出した話とはまったく違います。一冊で構成された完璧な世界。
 文字で綴られたものが、脳内で映像化され、物語の中に吸い込まれる感覚。
 幼い私を虜にするには十分でした。
 私はそれから本に魅了され、友人から「本は賢い人以外も読むもの」と教わってからは、図書館に通いつめ、高校生になり、自分で稼げるようになると、本を買い漁るようになりました。
 高校生のときから家に生活費を入れていたので、自由になる金はあまりなかったのですが、その僅かな金を費やしてもまったく後悔しないどころか、とても満たされた気持ちになりました。
 そのうち、私は自分で物語が書きたくなりました。
 私が初めて物語を書いたのは高校生一年生のとき。すごく短い短編で、今見たらとても未熟な出来ですが、書き上げたときのあの充足感は忘れられません。
 そして、書いただけでは飽き足らず、私は自分の作った作品を誰かに読んでほしくなりました。
 しかし、知人に読んでもらうには恥ずかしい。
 ちょうどその頃、各家庭にパソコンが普及し始め、ホームページを自分で作れるようになっていました。そして私はなけなしの金を貯めて、パソコンを買ったのです。
 初めてホームページに載せた自分の作品の感想をいただいたとき、嬉しくて嬉しくて、私は小学校入学と同時に買ってもらった勉強机とセットの回転イスに座り、ずっとクルクル回っていました。ちなみに回りすぎて気持ち悪くなったのもいい思い出です。
 こうして私は物語を読む楽しさから、自分で作り出す快感を知ったのです。
 実はそれから忙しくなり、創作の世界から離れていたのですが、数年して少し時間ができたときに、真っ先にやろうと思ったのが小説作りでした。
 何年離れていたとしても、やはりあの感動を忘れることはできなかったのです。
 私が作家として活動を続けるのも、物語を作り出す面白さを知り、これがないと生きていけないからに他なりません。
 これからも、自分で楽しみながら、人にも面白いと思っていただける作品を書けるように精進していきたいと思います。
 まだまだ未熟者ですが、どうか皆様、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。