日々是映画日和(147)――ミステリ映画時評
一昨年の秋に始まったジャン=ポール・ベルモンドの特集上映が、いよいよ〝3〟を迎える。昨年9月には本人の訃報(享年88)が届くという悲しい出来事もあったが、この春にはゴダールの『気狂いピエロ』と『勝手にしやがれ』もレストア版でリバイバルされるなど、往年を思わせるベルモンド人気の盛り上がりが嬉しい。今回のラインナップは、冒頭から45分近くも続く金庫破りとカーチェイスに息を呑む『華麗なる大泥棒』(’71)、詐欺師のあの手この手をコミカルに描いた『ベルモンドの怪盗二十面相』(’75)、さらには自作を映画化した『勝負をつけろ』(’62)が気に入らず、原作者のジョヴァンニ自らがリメイクに乗り出した『ラ・スクムーン』(’73)の新旧両作など、好事家向けの趣向もある。アクションとユーモア満載のベルモンド・ワールドをさらに堪能できるいい機会だろう。
英語圏に飛び出し、ル・カレ原作の『裏切りのサーカス』で成功を収めたものの、ジョー・ネスボ原作の『スノーマン 雪闇の殺人鬼』がなぜかコケたスウェーデンの監督トーマス・アルフレッドソン。その後何をしていたかというと、自国でこれを撮っていたんですね、『ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル』。金庫破りの達人シッカン(ヘンリック・ドーシン)とその仲間は、運命の悪戯から大量のコイン強奪計画をしくじってしまった。禁固刑を食らったシッカンは服役中に次のプランを練るが、三人の仲間は乗ってこない。やむなく、ワンオペのミッションに挑むが、ターゲットのフィンランドの王冠は隣国の体制を左右する代物で、シッカンは陰謀の渦に巻き込まれていく。
原典は北欧各国で人気を誇る「オルセン・ギャング」という連作のコメディらしく、暴力なし、市民を巻き込まないなど、シリーズには牧歌的なお約束があり、本作と同様に決まって主人公の出所から始まるという。というわけで、ミステリ的な興味を云々するのは野暮かもしれないが、強奪計画のケイパーものとしての面白さは、メインの部分よりも、プロローグ的に紹介される冒頭のエピソードの方が勝る。どこか憎めないユーモアは十分に楽しいのだが。(★★★)*9月2日公開
主演だけでなく、脚本チームに名を連ね、製作陣にも加わってしまうのだから、エイドリアン・ブロディにとって、『クリーン ある殺し屋の献身』の主人公は心からやりたい役だったのだろう。深夜のゴミ回収に従事する主人公のクリーンは、廃品を修理して小銭を稼ぐ手先の器用な男でもあった。毎朝顔を合わせる健気な少女チャンドラー・アリ・デュポンとのやりとりが数少ない楽しみだったが、ある日、彼女は不良たちの口車に乗せられ、囚われてしまう。クリーンは手荒な手段で彼女を救出するが、それが町のボスの逆鱗に触れることに。
既に邦題でネタバレしているが、実はクリーンは元殺し屋で、今は足を洗い堅気の生活を送っている。彼には自分の娘にまつわる悲しい過去があり、その思い出を少女に重ねていた。『レオン』直系の物語には意外性の欠片もないのだが、ブロディは優しさと殺戮の本能が表裏一体となった主人公像を見事に演じてみせる。少女とその祖母を守るため、元殺し屋は一点突破の行動に出るが、解き放たれた暴力に息を呑むが、その後に漂う哀感も印象的だ。(★★★)*9月16日公開
インディペンデント系の映画会社として活躍目覚ましいA24だが、関わった作品はアカデミー賞受賞作から箸にも棒にも掛からないものまでピンキリで、『ZOLA ゾラ』はどちらかといえば後者に近い。しかし斬新さという意味では、これまでにないタイプの犯罪映画であることに間違いはない。
テイラー・ペイジは、ウェイトレスのバイトも掛け持っているが、本業のダンスに誇りを抱くポールダンサーだ。ダイナーで知り合った同業のライリー・キーオから儲かるというフロリダの仕事に誘われ、張り切って同行するが、現地でマネージャーのコールマン・ドミンンゴはポン引きに変貌。地元のチンピラにも目を付けられ、厄介事に巻き込まれていく。
SNSに投稿された個人のツイートを取材した〈ローリング・ストーン〉誌の記事を元に映画化したものだそうだが、ヒロインを道連れにする同業者をはじめ、わんさと出てくる小悪党たちがいい味を出している。C級スレスレのチープなB級作ながら、ところどころに遊び心が発揮され、いい意味でのオプティミズムを奏でている。(★★1/2)*8月26日公開
長期にわたり旱魃が続くビクトリア州の田舎町に、エリック・バナ演じる連邦警察官のアーロン・フォークが里帰りしたのは、昔馴染みのルークの葬儀のためだった。旧友は妻と長男を殺し、自ら命を絶ったと目されていたが、彼の両親から息子の無実を証明してほしいと懇願され、休暇を取って滞在することに。しかし故郷には辛い思い出があった。高校生だった彼とルークは、仲の良かった少女を殺した容疑がかけられ、無罪放免されたが、未だ疑いの目を向ける町民もいた。居心地の悪さを感じながらも、当時の仲間グレッチェンや校長のホイットラムに支えられ、地元警官レイコーの捜査に手を貸すが。
『渇きと偽り』は、ジェイン・ハーパーの同題作品の映画化で、オーストラリアの過酷な気候条件と独特の風土を背景に収めつつ、現在と過去の二つの事件が並行する。同国出身のエリック・バナの探偵役も上々で、優秀な捜査官でありながら、故郷に複雑な思いを抱く主人公を巧みに演じている。原作の持ち味を活かした丁寧な作りで、進行中という次作への期待も高まる。(★★★1/2)*9月23日公開
※★の数は4つが最高です。
英語圏に飛び出し、ル・カレ原作の『裏切りのサーカス』で成功を収めたものの、ジョー・ネスボ原作の『スノーマン 雪闇の殺人鬼』がなぜかコケたスウェーデンの監督トーマス・アルフレッドソン。その後何をしていたかというと、自国でこれを撮っていたんですね、『ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル』。金庫破りの達人シッカン(ヘンリック・ドーシン)とその仲間は、運命の悪戯から大量のコイン強奪計画をしくじってしまった。禁固刑を食らったシッカンは服役中に次のプランを練るが、三人の仲間は乗ってこない。やむなく、ワンオペのミッションに挑むが、ターゲットのフィンランドの王冠は隣国の体制を左右する代物で、シッカンは陰謀の渦に巻き込まれていく。
原典は北欧各国で人気を誇る「オルセン・ギャング」という連作のコメディらしく、暴力なし、市民を巻き込まないなど、シリーズには牧歌的なお約束があり、本作と同様に決まって主人公の出所から始まるという。というわけで、ミステリ的な興味を云々するのは野暮かもしれないが、強奪計画のケイパーものとしての面白さは、メインの部分よりも、プロローグ的に紹介される冒頭のエピソードの方が勝る。どこか憎めないユーモアは十分に楽しいのだが。(★★★)*9月2日公開
主演だけでなく、脚本チームに名を連ね、製作陣にも加わってしまうのだから、エイドリアン・ブロディにとって、『クリーン ある殺し屋の献身』の主人公は心からやりたい役だったのだろう。深夜のゴミ回収に従事する主人公のクリーンは、廃品を修理して小銭を稼ぐ手先の器用な男でもあった。毎朝顔を合わせる健気な少女チャンドラー・アリ・デュポンとのやりとりが数少ない楽しみだったが、ある日、彼女は不良たちの口車に乗せられ、囚われてしまう。クリーンは手荒な手段で彼女を救出するが、それが町のボスの逆鱗に触れることに。
既に邦題でネタバレしているが、実はクリーンは元殺し屋で、今は足を洗い堅気の生活を送っている。彼には自分の娘にまつわる悲しい過去があり、その思い出を少女に重ねていた。『レオン』直系の物語には意外性の欠片もないのだが、ブロディは優しさと殺戮の本能が表裏一体となった主人公像を見事に演じてみせる。少女とその祖母を守るため、元殺し屋は一点突破の行動に出るが、解き放たれた暴力に息を呑むが、その後に漂う哀感も印象的だ。(★★★)*9月16日公開
インディペンデント系の映画会社として活躍目覚ましいA24だが、関わった作品はアカデミー賞受賞作から箸にも棒にも掛からないものまでピンキリで、『ZOLA ゾラ』はどちらかといえば後者に近い。しかし斬新さという意味では、これまでにないタイプの犯罪映画であることに間違いはない。
テイラー・ペイジは、ウェイトレスのバイトも掛け持っているが、本業のダンスに誇りを抱くポールダンサーだ。ダイナーで知り合った同業のライリー・キーオから儲かるというフロリダの仕事に誘われ、張り切って同行するが、現地でマネージャーのコールマン・ドミンンゴはポン引きに変貌。地元のチンピラにも目を付けられ、厄介事に巻き込まれていく。
SNSに投稿された個人のツイートを取材した〈ローリング・ストーン〉誌の記事を元に映画化したものだそうだが、ヒロインを道連れにする同業者をはじめ、わんさと出てくる小悪党たちがいい味を出している。C級スレスレのチープなB級作ながら、ところどころに遊び心が発揮され、いい意味でのオプティミズムを奏でている。(★★1/2)*8月26日公開
長期にわたり旱魃が続くビクトリア州の田舎町に、エリック・バナ演じる連邦警察官のアーロン・フォークが里帰りしたのは、昔馴染みのルークの葬儀のためだった。旧友は妻と長男を殺し、自ら命を絶ったと目されていたが、彼の両親から息子の無実を証明してほしいと懇願され、休暇を取って滞在することに。しかし故郷には辛い思い出があった。高校生だった彼とルークは、仲の良かった少女を殺した容疑がかけられ、無罪放免されたが、未だ疑いの目を向ける町民もいた。居心地の悪さを感じながらも、当時の仲間グレッチェンや校長のホイットラムに支えられ、地元警官レイコーの捜査に手を貸すが。
『渇きと偽り』は、ジェイン・ハーパーの同題作品の映画化で、オーストラリアの過酷な気候条件と独特の風土を背景に収めつつ、現在と過去の二つの事件が並行する。同国出身のエリック・バナの探偵役も上々で、優秀な捜査官でありながら、故郷に複雑な思いを抱く主人公を巧みに演じている。原作の持ち味を活かした丁寧な作りで、進行中という次作への期待も高まる。(★★★1/2)*9月23日公開
※★の数は4つが最高です。