入会のご挨拶
この度、日本推理作家協会の末席に加えていただくことになりました、真下みことと申します。入会に際しまして佐藤青南様、和泉桂様のご推薦をいただきました。この場を借りて深く感謝を申し上げます。
入会のご挨拶ということで、自己紹介をさせていただきます。私は二〇一九年に「#柚莉愛とかくれんぼ」という小説で第六十一回メフィスト賞を受賞し、二〇二〇年に同作で小説家としてデビューいたしました。現在単著は5冊発売されておりまして、サスペンス寄りのミステリーや青春小説など、色々と書かせていただいています。
さてデビューから入会まで約三年もの間が空いているわけですが、これには理由がございます。デビュー当時、私は大きく二つの不安を抱えておりました。一つは多くの新人作家が抱える悩みかと思いますが、小説を書き続けられるかどうかです。そしてもう一つが、推理作家を名乗る資格が自分にはあるのだろうかというものです。
まず、小説を書き続けられるのかという不安についてお話ししますが、それには私がデビューした経緯について説明する必要がございます。私が小説を書き始めたのは大学二年の秋です。二本ほどの長編と数本の短編を書き、賞に応募したりしなかったりして一年ほどを過ごし、その次に書いた長編をメフィスト賞に応募し、受賞することになりました。つまり、メフィスト賞を受賞した当時、私には小説を書く経験というものが全く足りていなかったのです。
小説を書き慣れていない私にとって、二作目を出版していただくハードルはとても高いものでした。若くしてのデビューは運が良かったとも言えますが、私はプロになる水準を満たしていないままにデビューしてしまったのだ、二作目を出せずにこのまま作家人生が終わるのだろう、そう考えていた時期もありました。
デビュー当時は大学生だったということもあり、現役大学生デビュー(正確には現役女子大生デビュー)と帯に大きく書いていただいたことを覚えています。(実際は「#柚莉愛とかくれんぼ」が発売されたのが大学四年の二月でしたので、私が現役大学生作家だった時期というのはあまり長くはないのですが)
大学院に進学し、もう大学生作家ではなくなってしまったと自分の若さが失われることを恐れ、なんでも良いから書かなくてはと、私はエッセイやショートショートなど、頼まれていない文章でも発表・掲載のお願いをすることを始めました。長い小説ではありませんが、自分には何かを書けるという自信がつき、良いリハビリになったと思います。それから編集者さんをはじめとしたさまざまな方のおかげで、今では五作目まで出せました。今あるご縁は全て、自分が以前に書いた本が連れてきてくれたものです。これからも、本が連れてきてくれる新しいご縁があることを信じて書き続けたいと思っております。
さて次に、自分に推理作家を名乗る資格があるのかという問題です。某インターネット百科事典では、推理作家とは「推理小説を主として著す小説家。ミステリー小説家とも呼ばれる」とあります。つまり、推理作家を名乗るためには推理小説を書かなくてはなりません。デビュー元であるメフィスト賞からは、私が改めて説明しなくても良いほど、たくさんの素晴らしい推理作家の方々がデビューされています。では自分もそう名乗れば良いのではないかと思うのですが、私は自分が書くものが推理小説であるという自信が、しばらくの間ありませんでした。
デビュー作である「#柚莉愛とかくれんぼ」は売れない三人組のアイドルがファンに仕掛けたプロモーションによってインターネットで炎上するというお話です。わかりやすい殺人事件や探偵が出てくるわけではありません。単行本版の帯には「SNS狂想曲(ミステリー)」とありましたが文庫版の帯は私の希望で「SNSサスペンス」と書かせていただいています。ミステリーを期待して読んでくださった読者の方に「こんなものはちゃんとしたミステリーではない」というお言葉をいただくことが多く、ミステリーというものがすっかり怖くなってしまったのです。
それからは、自分なりにミステリーとは何かを考えて書いた作品や、ミステリーとは全く異なる青春小説を書いておりました。しかし最近いただくご依頼の内容が、ある方向性のものが多いと気づきました。それが「真下さんなりのミステリーを」というものです。過去の偉大な巨匠のようなミステリー、ではなく、最近流行りのあの人のようなミステリー、でもなく、自分なりのミステリーでいいらしいのです。そうか、私は私なりにミステリーを書けば良いのだ、という、このある種の開き直りをできるようになり、心のつかえがだんだん取れていきました。
憧れの「ちゃんとしたミステリー」はいつか書きたいですが、今は私に書ける、私にしか書けない、私なりのミステリーを極めていきたいと思います。
最後になりましたが、このような未熟者の私を暖かく迎えてくださったこと、大変ありがたく思っております。今後ともご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします。