日々是映画日和

日々是映画日和(68)

三橋曉

 エンドレスで繰り返される日常からの脱出をテーマにした“タイム・ループもの”は、映画の専売特許ではないが、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』、『恋はデジャ・ブ』、『ミッション:8ミニッツ』と、忘れ難いタイトルをいくらでも挙げられる。そこに強烈な新参者が加わった。今月は、それから。

 ダグ・ライマン監督の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、桜坂洋の同題小説が原作だが、基本設定や大筋以外の部分に巧妙な改変がなされている。宇宙からの侵略者により、人類滅亡も間近かもしれない近未来。謎エイリアン“ギタイ”と交戦するも、焼け石に水という戦況が続く中、主人公のトム・クルーズは、お気楽な広報担当から最前線の兵士に抜擢される。わけもわからないまま戦場に降り立ち、わずか5分であえなく戦死してしまうが、次の瞬間、出撃の前日に飛ばされていた。かくして同じ一日を繰り返す不可解なループが始まるが、ある時戦友のエミリー・ブラントが死の直前に口にしたひと事から、その秘密を解き明かす糸口を掴む。
 ハリウッド製超大作のど派手なSFXを楽しみつつ、繰り返しはそれ自体が強力なギャグになりうることを再確認。しかし見どころは、主人公らがループからの脱出法に思い至り、異星人への反撃に打ってでるまでの過程で、そこにはミステリの謎解き的な面白さがある。ループの中で試行錯誤を重ねる中、ふと迷い込んだ隘路で、トムが心を通わせ始めたエミリーに向って、待ち受ける運命を告げる場面も、不意討ち的に素晴らしい。オタクな戦闘映画に、いわく言い難いロマンチシズムがにじみ出す瞬間だと思う。(★★★1/2)

 主演作の多さでは、ニコラス・ケイジやジェイソン・ステイサムと肩を並べる忙しい男、リーアム・ニーソン。パート3の制作も決まっている『96時間』シリーズの印象が強いせいで、家族のために奔走する中年男という役どころがデフォルトと勘違いしそうになるが、『サード・パーソン』では新作の小説を執筆するため、パリのホテルに閉じこもる小説家の役を演じる。
 妻のキム・ベイシンガーと別居中の作家は、小説家の卵のオリヴィア・ワイルドと不倫の関係にあって、産みの苦しみと向かい合いながら、恋のアバンチュールも楽しんでいる。一方ローマでは、デザインの盗用で糊口をしのぐビジネスマンのエイドリアン・ブロディがいて、ジプシーの女に恋をしてしまう。またニューヨークでは、元女優のミラ・クニスが別れた夫のジェームズ・フランコと深刻な親権争いのさ中にあった。まるでシャッフルされるように、並行する三つのエピソードが語られていくが、じわじわとその関係性が見え隠れする面白さは、実はまだ序の口。やがて明らかにされるその繋がりの意外性には、息を呑むこと必至だろう。作家の業というテーマを浮かび上がらせる監督でもあるポール・ハギスの緻密で濃やかな脚本は素晴らしいのひと事。(★★★★)

 中国発の才能として全世界が注目するジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』は、急速に変わり行く中国という国の現在を切り取った物語が、リレー式に語られていくオムニバスだ。当然、中国国内で上映できない内容だが、多くの人々が海賊版でこの作品を観ているというから面白い。山西(汚職の告発)、重慶(貧困と強盗)、湖北(不倫と差別)、広東(劣悪な雇用労働条件)の物語は、いずれもそれぞれのローカル都市で起こった事件に取材したものだという。監督は、四つのエピソードを通じて、日常と暴力の結びつきを執拗に追いかけ、そこに社会の歪みや貧しさといった厳しい現実を垣間見せる。事件の中では激しい暴力が描かれることから、犯罪映画の感触もあるのだが、世の中の歪みを覗かせる社会派としての印象がそれに勝る。独立したエピソードをさりげなく繋げてみせる工夫もあるが、上辺だけの関係性に終っていて、ミステリ映画として観ると、やや弱い。(★★★)

 アパルトヘイトの影を引きずる南アフリカのケープタウンを舞台に、フォレスト・ウィテカーとオーランド・ブルームの刑事コンビが、デモーニッシュな事件に迫っていくジェローム・サル監督の『ケープタウン』は、ズールー族出身の警部と白人の刑事による異色のバディ・ムービーだ。有名人の娘が惨殺された事件を捜査する彼ら強行犯撲滅課は、手がかりを追うさ中、若手の捜査官を失うという痛手を負うが、背景に犯罪組織が暗躍していることを突きとめる。しかし、事件はさらに奥深い闇に繋がっていた。
 アフリカ南端の地の歴史と風土に根ざしており、根深い人種問題や、売春とドラッグが支配する貧困層の悲劇が、事件に影を落としている。真相部分に新鮮味が乏しく、やや作り物めいて映ってしまうのが難点だが、アル中の女たらしと、実直で信頼の厚い好対照の二人の人種を越えた信頼関係とチームワークの距離感は悪くない。原作は、キャリル・フェリーという本邦未紹介作家の二〇〇八年フランス推理小説大賞受賞作。※八月三十日公開予定(★★1/2)

 凄腕のエージェントとして鳴らすケヴィン・コスナーが、病で余命いくばくもないとの宣告を受け、パリに家族を訪ねるが、再会した元妻と思春期の娘は、仕事に明け暮れ、彼らを散々放置した彼に冷たい。途方に暮れる主人公に、CIAは同業のアンバー・ハードを差し向け、凶悪なテロリストを暗殺すれば、延命の治療薬を提供すると提案してくる。かくして、家族関係の修復い励みつつ、彼は危険なミッションに挑むことに。
 マックG監督の『ラストミッション』は、カーチェイス、爆薬、銃弾の量に不足はないが、基本は家族ドラマである。治療薬という目の前のニンジンはご都合主義だし、アクション場面はコミックめいている。しかし、ややもすると主役のコスナーが霞んでしまうアンバー・ハードの存在感には中毒性がある。その艶やかな姿と攻撃的なキャラを生かした続編かスピンオフをぜひお願いしたい。(★★)

※★は四つが満点(BOMBが最低点)です。