入会の御挨拶
皆様はじめまして。この度日本推理作家協会に入会させていただきました小田ヒロと申します。
入会にあたり、ご推薦いただきました佐藤青南先生、沢野いずみ先生はじめ、ご尽力いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。
私は主に「異世界ファンタジー」の分野で活動しています。その分野もまた細分化しているのですが、私の場合は「日本で不慮の死を遂げた主人公が、全く別の世界に記憶を持ったまま生まれ変わり、いきいきと冒険する話」との相性がよかったのか、出版社の目に留まり、作家の仲間入りをすることができました。
この分野、読者は若年層がメインだと思われるかもしれません。しかし、私の一番の応援団である七十代の母は、我が子のために作品を何度も読みこみ、わからない言葉は調べ、今ではスラスラ一度で理解できるようになり(本人談)、最終的にデイサービスセンターで布教してくれるまでになりました。
その結果、八十代のお姉様からも達筆なファンレターが届くようになったのです。「この年で新しい世界が開けました。自分がお姫様になった気分になれるのね、ウフフ」と。
それを読んで、人の性分とは一生涯さして変わることなどないのだなと思いました。読書好きはずっと読書好きのままで、乙女はいくつになっても乙女なのだと。私も百歳まで本とマンガとゲームが大好きなオタクのままだと思います。
というわけで、この分野は可能性を秘めた市場であり、そんななかで私は案外幅広い読者層に支えられ、お仕事続けられています。
また、この系統の話は「なぜ、異世界に転生したのか?」というテーマが根底にあり、自作では文庫本の五巻目までその謎を引っ張りました。それを考えるとギリギリ推理の要素も入っているんじゃないか? と強引にこじつけまして、思い切って憧れの日本推理作家協会の門を叩きました。
受け入れていただいた協会の懐の深さに感謝し、一員になれたことが本当に嬉しいです。
ファンレターといえばもう一つ、ふとした拍子に思い出す話があります。
初めて書店に自分の本が並んだとき、私は浮かれて十代からの友人に刷り上がったばかりの本を送りつけました。作品は前述の「異世界ファンタジー」です。友人は自分のことのように喜んでくれて、わざわざペンネームの小田ヒロ宛に長編のファンレターまで送ってきてくれました。
人生初のファンレター、嬉しくて何度も繰り返し読み、彼女の人柄やら自分との歴史を思い返すうちに、私はその友人が二十代で妹を病気で亡くしていたことを思い出しました。
果たして、現実に身内が早世した人に、私が書いた「死後、転生先でハッピーエンドを迎える」という話は受け入れられるのだろうか? 「ふざけてる、家族の気持ちも知らないで」と、内心思われていたらどうしよう? そのような不安が一気に押し寄せました。
全ての人に気に入ってもらえる物語なんて不可能だとわかっています。でも決して誰かを傷つけるつもりで創作したわけではなく、どちらかというと読者にほっこりした時間を持ってほしいと願い、ない知恵を絞って書いてきたつもりでした。
「ああ、彼女との友情を失うことになったらどうしよう?」と、小説家としては致命的なほど小心者でメンタルの弱い私は恐怖に震えました。
電話する勇気のなかった私は、何度も書き直したメールを彼女に送りました。「妹さんを失っているあなたに、私の小説は無神経で脳天気すぎたかもしれない。気を悪くしたならば、本当にごめんなさい」と。
すると、人間のできた友人はすぐに電話してきてくれました。
「さすがに小説と現実をごっちゃにしたりしないわよ。そんなこと思いもしなかった。でもそう言われると……あの世で妹があなたの書いたようなドタバタした冒険をしていると思ったら、笑っちゃう。逆に慰められるわ。ありがとう」
私の友人、完璧で素敵でしょう? (まあそう言うしかなかったのかもしれませんが)
私は心底ほっとして、まだこの分野を書き続けてもいいと許された気持ちになりました。
戦争があり、病気が流行り、何かとストレスが多い現代社会です。そして歳を重ねるごとに体は無理がきかなくなり、憂鬱な時間が長くなります。そういったことを一時でも忘れられて無心になれるのが読書の時間だと思います。
私も偉大な先輩方の作品を見習い、少しでも読者を夢中にさせることのできるような作品を生み出せるように、日々精進してまいります。協会員になったからには推理小説にも果敢にチャレンジしたいです。
そして日頃は地方で孤独に創作しておりますので、いつか交流会などの機会に皆様にお目にかかって、作家あるある話を聞かせていただきたいです。
若輩者ですが、何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。