新入会員紹介

新入会員挨拶

桜井美奈

 この度、推理作家協会に入会させていただきました桜井美奈と申します。入会におきまして、ご協力いただきました皆様には、この場をお借りしてお礼申し上げます。誠にありがとうございます。
 二〇一三年二月に、電撃小説大賞受賞作の「きじかくしの庭」でデビューしてから、十年が経ちました。順風満帆とは程遠い作家生活ですが、どうにか、今のところ本を出させていただいています。
 もともと小説家を目指していたというよりは、漫画を描こうとしたら絵が描けなかった、そもそも絵を描くことが嫌いだった、と漫画を投稿してから気づいたことと前後して、高校の図書館出会った、新井素子先生の「そして星へ行く船」が、今の私の一歩を踏み出すきっかけだったことは間違いありません。高校生になるまで、ほとんど小説を読んでいなかった私にとって、この作品は衝撃的でした。間違って最終巻から読んだにもかかわらず、とにかく面白くて、面白くて。数日のうちにシリーズを読破すると、今度は学校の図書館よりも蔵書数の多い公立図書館へ行き、新井素子先生の作品を可能な限り読んだように記憶しています。すべて読み終わると、次は同じレーベルから出版されている作品を読みつつ、赤い背表紙がずらりと並んだ、アガサ・クリスティーの文庫本が何だかカッコよく見えて、それも手にするようになりました。恐らくそこが、私の推理小説の入り口だったかもしれません。とはいえ、あまり深く考えずに読み進めるため、毎度毎度キッチリ騙され、そして「はー、そういうことなのか」と思う読者であって、自分が書く側になるとは、想像すらしていませんでした。
 と、ここまで書きまして、私は「推理小説」と「ミステリー小説」の違いも把握しておらず、今回この文章を書くにあたって調べてみたところ、『推理小説は主として犯罪に関係する秘密が、論理的に解明されていく過程の興味に主眼をおいた小説』とあり、『ミステリー』は、『推理小説』と書かれていました。もちろん、細かく分けることはできると思いますが、恐らく読者の中にも、この辺は曖昧にしている方は少なくないのではと思います。そして私も、そのうちの一人であります。
 書く側がそれでいいのか、と言われましたら何も申し上げることができないのですが、デビュー作が青春小説だった私には、ミステリー小説も推理小説も読むことはあっても、書くことは無縁だろうと思っていたところ、気がついたらミステリー小説を書いていたというのが、二〇一一年に出版いたしました「殺した夫が帰ってきました」になります。書いている最中は、この作品がミステリー小説という自覚はなかったのですが、出版が近づき、公式に出た作品のあらすじに「サスペンスミステリー」とあり、自分が書いたジャンルがミステリーだったことを知りました。慌てて知人に、「大丈夫かな、あの小説をミステリーと名乗って、私、石投げられたりしないかな」と怯えて連絡をしましたが、今のところ石は飛んできていませんので、広義の意味でミステリー小説を書いたのではと、今は思っている次第です。
 気がついたら書いていたミステリー小説ですが、想像を超えて、この作品で私を知っていただいたこともあり、今年の五月に出版予定の作品もまた、広義の意味でのミステリー小説になったのではないかと思います。
「あなたは何が書きたいのですか?」と聞かれることがあります。青春小説でデビューしましたが、それをずっと書き続けてきたわけではありません。ファンタジー要素のあるものもあれば、刑務所を舞台にした「塀の中の美容室」などといった作品も書きました。そうして考えると、私はいつも「どこかにこんな人がいるかもしれない」と思えるものを書きたいのだと気づきました。殺人現場でも、駅の中の今はもうないホームでも、刑務所の中の美容室でも、学校の花壇でも、居酒屋でも、そこにいる「人」が書きたいのだと思います。そこにいる人たちが、どんな風に考え、どんな風に生きているのか、そして同時に、それを読んでくれた方々が、面白いと感じてくれる作品を書いていけたらと思っています。