ミステリ演劇鑑賞録

第八回 犯人当ての舞台

千澤のり子

 ミステリ演劇には、観客がリアルで犯人当てをおこなえる内容のものがある。
 エラリー・クイーンのラジオドラマを舞台化したピュアーマリーによる『エラリー・クイーン ミステリー・オムニバス~観客への挑戦~』(二〇一九年四月一一日~一四日/全労済ホールスペース・ゼロ)では、解答編の前に観客が犯人を推理するコーナーが設けられていた。作品はオムニバス形式で、「13ボックス殺人事件」と「カインの一族の冒険」の二編が上演された。脚本は保坂磨理子、演出は鈴木孝宏、監修は飯城勇三と町田暁雄が務める。エラリーは、後に『新☆名探偵ポワロ』(二〇二二年四月八日~一〇日/全労済ホールスペース・ゼロ)でポワロ役となる(正確には息子という設定)辻本祐樹、クイーン警視は秋野太作が演じた。ランダムに選出された観客が、その場で推理を披露するという趣旨で、同じ手がかりを提示されているのに推理の仕方が人によって異なることに関心を持った。第二弾は「カインの一族の冒険」と「凶眼の魔女の冒険」が上演される予定だったが、コロナ禍により中止となっている。
 劇団G-フォレスタが主催する「洋館ミステリ劇場」は、本物の洋館を舞台にして犯人当てをおこなうイベントだ。今年度は、明石海峡大橋のふもとの舞子公園内にある孫文記念館(移情閣)で開催された。演目は江戸川乱歩原作で、代表の丸尾拓が構成と演出を手掛ける『顔のない死体』(二〇二三年三月三日~五日/孫文記念館)。最初に館長から館内の説明があり、一般客と区別するために劇団が用意した揃いのケープを身に着け、ナレーターの指示で各部屋をまわっていく。建物内だけでなく、外に出て外観や瀬戸内海の景色を堪能できる場面も用意されている。すべての見どころを終了してから、十五分間の休憩中に、観客は犯人と推理の過程を与えられた用紙に記入する。観客の一人がキャストを演じられる演出もあった。ツイキャスによる配信公演(二〇二三年三月一八日/古民家ピンクハウス)も現地と同じ問題用紙や景品が用意されている。大人気なので、興味のある方は、受付が開始されたらすぐに予約されることをお勧めしたい。
 観客参加型公演「演じるミステリー」は、宿泊型犯人当てイベント「ミステリーナイト」を主催するイーピン企画の城島和加乃と、マーダーミステリー専門店ラビットホールの酒井りゅうのすけがタッグを組んだ体験型演劇だ。俳優が演じる舞台を観て謎解きをおこなうシアターアクト編『迷宮の孤島~labyrinth islandへようこそ~』(二〇二三年一月二七日~二九日/Nakameguro Center)は、二〇二二年三月にも上演された。インド洋に浮かぶ島モルティブを舞台にし、その離島のコテージで殺人事件が起きる。観客は宿泊客八人の中から犯人を推理で探り当てるという内容だ。問題編の上演後、推理はグループに分かれておこない、配られた解答用紙に犯人名やそれに至る過程を規定時間内に記載していく。項目ごとに得点が加算され、解答編後に高得点チームは表彰もされる。
 犯人当ての演劇は、観客一体型をより体感できる。一ミステリ演劇好きの要望であるが、もっとたくさん開催してほしいと願う。