新入会員挨拶
はじめまして。このたび日本推理作家協会に入会させていただく運びとなりました、阿泉来堂と申します。
まずは入会にあたりまして、推薦してくださった佐藤青南さんと和泉桂さんにこの場をお借りしましてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
私は第四十回横溝正史ミステリ&ホラー大賞において読者賞を受賞した『ナキメサマ』でデビューしました。
作家になることを志し、見よう見まねで書き始めてから、デビューするまでに十四年かかりましたので、受賞の喜びはひとしおでした。
もともと熱心な読書家というわけでもない私が小説を書きたいと思ったきっかけは、実に短絡的かつ浅はかなものでした。
ある日私は、たまに本でも読もうと思い立ち、近所の本屋さんで読みたい本を探していたのですが、どうしても「これだ!」と思える本を見つけることができませんでした。その時、ふと思ったのです。「読みたいものがないなら、自分で書くしかないな」と。
それからというもの、仕事を終えて帰宅してから、毎日PCに向かい、誰に読まれるとも知れぬ作品を書き続けました。
当初は頭の中に浮かぶイメージをひたすら文字にして書き綴るばかりで、小説らしいとは言えないものばかりでしたが、徐々に自分の書きたい作品の傾向が定まってくると、書き上げる喜びを感じられるようになりました。
しかしながら、どれだけ書いても自分の納得のいく作品には遠く及ばず、ここへきてようやく、プロの作家の凄さというものをおぼろげに感じ始めるようになりました。その圧倒的な力の差に歴然とし、己の未熟さに絶望し、さらには日々の生活や仕事に翻弄されながらも、書くことをやめずに続けてきました。
今にして思えば、なぜあんなにも書くことに情熱を燃やすことができたのか、自分でもよくわかりません。ただ、書くことの楽しさや誰かに読んでもらった時の喜びといった感情は、あの日々に培われたように思います。
作家としてデビューする前、私はオーソドックスで定番な探偵小説を書きたいと考えておりました。読者の興味をそそる魅力的な事件。犯行現場に残された些細なヒントや容疑者たちの不可解な言動から真相を導き出し、犯人を白日の下に引きずり出す。普段は今一つぱっとしないながらも、ひとたび事件が起きれば華麗な推理を披露するキャラクター性抜群の探偵を作りたい。そして、誰も読んだことのないような謎めいた物語に読者を誘いたい。そう思いながら執筆を続けてきました。
ところが、どれだけ書いても受賞には至らず、時間だけが過ぎていく日々。自分には探偵小説は向いていないのだろうか。そんな鬱々とした思いを発散するかのように書いたホラー小説でデビューし、現在に至ります。
今では毎日、読者を怖がらせることばかりを考えて原稿を書いておりますが、そんな私が何故、日本推理作家協会への入会を希望したかと申しますと、この先長く作家を続けていく中で、ホラーとミステリの両分野に深くかかわり続けたいという気持ちがあるからです。
私はホラー小説を書くときに、最も重視するのが『恐怖と謎』です。そんなものは当たり前だろうといわれてしまうかもしれませんが、この二つの要素の共存こそが、私自身の読みたい作品であると共に、書きたいジャンルでもあるのです。
ちなみに私の読書の入口は赤川次郎先生の「魔女たちの長い眠り」と綾辻行人先生の「殺人鬼」でした。小学生の頃好きだったゲームソフトはなんといっても我孫子武丸先生がシナリオを担当した「かまいたちの夜」でした。どれも『恐怖と謎』が前面に押し出された作品です。
広義では、謎というものは恐怖の中に含まれるものだと思います。何か得体のしれないものが怖い。何かが迫ってくるのが怖い。そこに何かがいるのが怖い。何が起きているのかわからないことが怖い。そういった恐怖の根源的な部分に謎は存在し、そしてその謎に焦点を当て、解き明かしていくのがミステリであると、私は考えます。
ゆえに、この先十年二十年と恐怖を描いていく作家として、ミステリの要素をこれまで以上に吸収し、作家として成長していきたい。
ホラーとミステリは互いに高め合うものと信じ、偉大なる先輩作家の方々のご活躍を間近で拝見したいと考え、日本推理作家協会の門を叩くことを決断しました。
デビュー作から一貫してミステリとホラーを掛け合わせたような小説を書き続けておりますが、これから先は純然たるミステリ、純然たるホラーも並行して書いていこうと思います。そして、いつかは協会員として胸を張れるような作品を作り上げていきたいと思います。
いい年をして世間知らずゆえに、至らぬ点も多いことかと思いますが、何卒よろしくお願い申し上げます。