新入会員挨拶
初めまして、日本推理作家協会の末席に加えていただくことになりました、夏目桐緒と申します。
入会にあたりましてご推薦くださった佐藤青南先生と和泉桂先生、また様々な手配をしてくださった事務局の方々へ、この場を借りて篤く御礼申し上げます。
私のデビューは、いまどき珍しい「スカウト」でした。
短編の小さな賞を幾つか頂いた後、「書きませんか」「いいですよ」というやりとりがあり、一冊分を書いて編集部に送ったものがそのまま出版となりました。およそ十年前、夏目とは別名義での話です。
想像よりもあっさりとデビューしましたが、本当の驚きはその後に来たのです。
まさか……「作家になる」ことよりも、「来年も作家でいる」ことがこんなに難しいとは。
浮かんでこないネタ。途切れている伏線。終わりまで仕上がらないプロット。
〆切り間近なのに一行も書けない日。そして校正さんの赤ペンで真っ赤に染まった原稿。
毎年、確定申告のたびに「来年は本が出ないかもしれない」「いや来年こそは仕事ゼロで失業か」などの不安がおしよせ、作家となった実感よりも必死さが勝る日々が続きました。いまだに自分が作家だとおおっぴらに名乗れず、家族の一部には内緒のままです。
それでも、昨年には一般・青少年向けとなるポプラ文庫ピュアフルにて「横浜中華街 桃源郷飯店へようこそ!」という中華料理あやかしミステリーを刊行させて頂き、これまでの著作にもいくつかコミカライズのお話を頂くことができました。遅筆ながらも刊行書籍が十冊を超え、本棚に並んだ著書を眺めてようやく「作家を続けることができたんだなあ」としみじみとした感慨を覚えることができました。
推理作家協会に入会をお願いしてみようかと思い立ったのはそのときです。
この作家生活を支えてくれた家族と、ネット・リアル双方の友人達、そして細々と書き続ける私を優しく根気よく待ってくれる担当諸氏にも深い感謝を捧げたいと思います。
小学校の図書室には、江戸川乱歩先生の全集がずらりと並んでいました。
毎週一冊か二冊ずつ、全五十冊ほどのそれを読み進めるのは大変な幸福で、読み終えた時には何ともいえない達成感と寂しさを覚えたものです。
いま、その江戸川先生の創設された協会に加入出来たことに身に余る光栄と幸せを感じております。来年も作家で居られるよう、十年目のやる気を新たにしつつ、こちらを入会の御挨拶と代えさせて頂きます。
まだまだ誤字脱字と没プロットを量産する若輩者ではございますが、どうぞ宜しくお願い致します。