日々是映画日和

日々是映画日和(159)――ミステリ映画時評

三橋曉

 悪魔祓いの儀式を、広く世に知らしめたウィリアム・フリードキン監督作からほぼ半世紀。その後日談としてリブートされた『エクソシスト 信じる者』には、少女リーガンの母親役だったエレン・バースティンが旧作との橋渡し役として登場する。冒頭のハイチのシーンが伏線となり、少女たちに憑いた悪魔が究極の選択を迫るなど、いくつか見どころがあるが、さらにちょっとしたサプライズもある。ミステリ映画の仕掛けではないが、エクソシスト・ブームをリアルタイムで体験した方なら、思わずニヤリとする筈。事前に余計な情報を入れず、映画館に足を運ぶべし。

 ジョニー・トー作品のリメイクだが、独自の色を鮮明に打ち出し、原典に勝るとも劣らぬ出来映えだった前作。その続編『毒戦 BELIEVER2』は、先の物語でクライマックスだったヨンサン駅のシーンから、あの忘れ難いラストまでの空白を埋める。前日譚でも後日談でもない、こういう手法を、ミッドクエル(midquel)というらしい。
 麻薬ディーラーの超大物イ先生を自称する悪党の身柄を確保し、大量の麻薬を押収したが、納得いかない主人公捜査官(チョ・ジヌン)は、上司の命に背き一連の出来事で裏から糸を引いていたヨンナク(オ・スンフン)を追う。一方、瀕死の状態で捕まったブライアン神父(チャ・スンウォン)も、病院から姿を消してしまう。そんな中、その道のエキスパートである聾唖者兄妹と麻薬製造を再開したヨンナクのもとに、中国マフィアのビッグナイフ(ハン・ヒョジュ)が乗り込んでくる。
 おしゃれな広告業界出身の監督を一寸不安にも思ったが、杞憂だったようだ。一見ミスキャストにも映るお嬢さまが似合うハン・ヒョジュ(『ビューティー・インサイド』)の起用も、後半のイ先生の正体に迫っていく展開の中で、なるほどと納得がいく。
 獲物への執念を募らせ、ついにはそれを拗らせてしまう主人公捜査官の暴走ともいえる追跡劇が柱となっているが、ヨンナクとの因縁から生まれた友情にも似た不思議な情感が時に漂うなど、実に濃やかな局面もある。前作でぼかされていた結末が詳らかにされるラストも、前作の幕切れの余韻を損なうことなくドラマを締めくくる。
 タイでの海外ロケが巧みに織り込まれ、激烈な暴力描写やアクション・シーンも前作と並べて違和感はない。唯一残念なのは、ヨンナク役が交替したことか。オファーを蹴ったリュ・ジュンヨルは、大魚を逃したと思う。(★★★★)*Netflixにて11月17日配信開始

 いわゆる小劇場系の演劇から映画化されたミステリ劇といえば、『十三通目の手紙』(『苦い蜜-消えたレコード』として再度映画化)や『キサラギ』の例がすぐに浮かぶが、戸田彬弘監督の『市子』も、元は監督自らが主宰する劇団チーズtheaterのレパートリー(「川辺市子のために」)だったようだ。
 ある日のこと、市子(杉咲花)は三年間一緒に暮らしてきた長谷川(若葉竜也)から、結婚を申し込まれる。しかし翌日、彼女は行方が知れなくなってしまう。捜索願を出した長谷川は、担当の刑事(宇野祥平)とのやりとりから、恋人にはベールに包まれた過去があることを知る。市子とは何者なのか?長谷川は、幼い日からの彼女の足跡を訪ねて歩くことに。
 巡礼形式のミステリで、市子の辿る数奇な運命には、現代日本の目を覆いたくなる現実がいくつも絡み合う。そういう意味で社会派の佇まいを十分に備えているが、世の中の矛盾を抉るというルーティンに留まらず、市子という負のヒロイン像を克明にしていく展開に目がいき、ノワールの底流に引き込まれる。難役に挑んだ杉咲花も健闘しているが、『愛にイナズマ』の好演も記憶に新しい若葉竜也がいい。(★★★)*12月8日公開

『怪物の木こり』は、倉井眉介の〈このミステリーがすごい!大賞〉受賞作を原作に、三池崇史が映画化。大きな改変がなされている脚本は小岩井宏悦のものだが、サイコパス監修というクレジットで脳科学者の中野信子が手を貸している。
 弁護士の二宮(亀梨和也)と医師の杉谷(染谷将太)。互いに通じ合う二人のサイコパスは、高い社会的な地位に就きながら、殺人を繰り返すシリアルキラーだった。だがある晩、二宮は自宅マンションの駐車場で怪物の仮面を被った人物に斧で襲撃され、頭に怪我を負う。
 一方、警視庁のプロファイラー戸城(菜々緒)は、二宮の件を一連の連続殺人の犯人による未遂事件と疑い、妻殺しの容疑者(中村獅童)への暴行で左遷された刑事の乾(渋川清彦)とともに、二宮への接近を試みる。二宮には映美(吉岡里帆)というフィアンセがおり、順風満帆にも見えたが、児童福祉施設の出身者だった。
 複数のシリアルキラーが織りなすドラマという原作のアイデアもユニークで秀逸ながら、それを膨らませた脚本が成功している。自身の本性が揺らぐという難役をこなした亀梨の二宮役は見事。原作の読者も大いに楽しめる筈だ。(★★★1/2)*12月1日公開

 最後は、今回でなんと三度目のリメイクの『バッド・デイ・ドライブ』。ある朝、金融ビジネスマンのリーアム・ニーソンは、自家用車で会社に向かっていた。しかし、そこに脅迫者からのメッセージが。車に爆弾を仕掛け、車を離れたり指示に従わなければ容赦なく爆破するという。学校へ送るため後部座席に乗せた息子と娘を巻き込み、悪夢のドライブが始まる。
 オリジナルはスペイン映画の『暴走車 ランナウェイ・カー』で、先のお国柄にマッチした韓国版(『ハードヒット 発信制限』)も良かった。わずか八年の間に四度も映画化されるほどの鉄板のプロットに、今回は大胆な改変も加わり、チャレンジ精神も十分。リメイクも、これくらいの冒険があっていいだろう。(★★★)*12月1日公開


※★は最高が四つ