ご挨拶
この度、日本推理作家協会の末席に加えていただくことになりました、伴田音と申します。去年(二〇二三年)、第六回双葉社文庫ルーキー大賞を『彼女が遺したミステリ』で受賞し、今年一月に刊行いたしました。まずは入会にあたり、ご対応いただいた関係者の皆様にこの場をお借りして、深く御礼申し上げます。
実は本名義以外にもいくつかの名義で活動しているのですが、今後ミステリジャンルを扱うにあたっては本名義を用いて刊行していきたいという個人的な志があり、この度、『伴田音』名義での入会とさせていただきました。
最近、自宅の引っ越しがあり私物を整理していたところ、小学校時代の作文課題を見つけました。『自分の人生を変えたモノ』という題だったらしく、原稿用紙3枚の分量でした。人生の入り口に立ったばかりの年齢の子にこのお題は酷だろうと思ったのですが、当時の自分も同じように悩んだのか、結局、そのとき読んで面白かった小説や漫画、映画などが延々と書き連ねておりました。
今年三〇歳になったいま、このお題にあらためて振り返ってみると、ようやく、人生を変えてくれたモノをいくつか挙げられそうなことに気付きました。なかでも一番大きなモノは、『ゴルフ』だったのだろうと思います。(推理小説とかではなくてすみません)。
昔から体を動かすのが好きだったのですが、生来の飽き性が災いして、中学生までは様々なスポーツに手を出しては辞めるのを繰り返していました。
そのなかで出会ったのがゴルフで、これもすぐに辞めるかと思いきや、いままで経験したスポーツのなかで一番のめりこんでいくことになりました。
始める前はお金がかかるスポーツというイメージだったのですが、懇意にしていただいていた知人からたまたま道具一式を譲っていただくことができて、それでゴルフを始めやすかったというのも、思えば幸運の一つだった気がします。
のめりこんでからは、親に運転をせがみ、週に一回以上は必ずゴルフ練習場に連れて行ってもらっておりました。何かに対して本気で取り組み、極めて見ようと思ったのは、この『ゴルフ』が初めてでした。いわゆる、努力の仕方(何かを継続し極める方法)を教わったのも、ゴルフであったといえるでしょう。
高校時代にはゴルフ部がある高校を選んで進学し、三年間はプロを目指すべく打ち込みました。高校時代は同年代の選手との実力差を思い知らされる日々で、結果、三年生で出場した全国大会を最後に、プロは諦めることになりました。ですがいまでも、最も長く続いている趣味として、ゴルフは私の身近に存在しております。
ゴルフは何がそこまで人をひきつけるのか。広大な自然のなかでプレーができるところか、あるいはスポーツのなかで最も球を遠くまで飛ばすことができる爽快感によるものなのか、もしくは単純に道具がかっこいいからか。
個人的にゴルフにひきつけられる(いまも続けられている)大きな理由は、ゴルフが自分の心のあり様をもろに反映してくれるメンタルスポーツであるという点に尽きます。
浮ついていたり、落ち込んでいたり、調子に乗ったり、緊張したり、不安になったり、楽になったり、そういう自分の気分や感情がプレーに即座に反映され、それがスコアという形で容赦なく、かつ具体的に提示されていきます。プレーはすべて自己責任で、チームスポーツにあるような、他のメンバーで苦楽を共にするようなこともありません。
加えて審判もいません。同伴競技者はいるものの、スコアは基本、自己申告制。趣味の遊びでなら、ごまかそうと思えばいくらでもズルができる。プレー以外の部分も含めて、望まなくても、強制的に自分自身と向き合うことになるスポーツ。
何よりこの、自己責任というところがいい。良い結果も悪い結果もすべて自分がもたらしたもので、その成果も罰も自分が享受するだけでいい。他人に迷惑をかけにくいし、顔色を窺う必要もない。意識するべきはゴルフコースという自然の脅威だけ。そういう、一見孤独でありつつどこまでも自由な形態が、おそらく性に合っていたのだろうと思います。
そしてこの形態はゴルフ以外でも、たとえば「小説執筆」という形で、自分のそばに息づいています。
そんな私ですが、人生を変えるまではいかなくても、誰かの人生のほんの一時を温かく彩ることができるような、そんな物語を紡いで行けたらと思います。
よろしくお願いいたします。