入会のご挨拶
はじめまして。このたび日本推理協会に入会しました松竹芸能のお笑い芸人、カモシダせぶんと申します。まずは推薦してくださった佐藤青南先生、和泉桂先生に改めて御礼申し上げます。
2024年9月に連作短編集『探偵はパシられる』をPHP研究所から出版したのですが、この本が書店に並ぶと決まった時から「ミステリ小説出せるなら日本推理作家協会に入りたい!」と強く思っていたので本当に嬉しいです。
浅草の漫才協会に入ってる芸人は沢山いますが、日本推理作家協会に入ってる芸人はいないはず。唯一無二の肩書というのはお笑いの世界ではかなり目立つので有難い……そういう芸人としてのプラスもありますが何より小さいころから小説、マンガ、アニメ、ドラマで大好きだったミステリという世界にこれから具体的に関われる。そのことに胸がいっぱいになります。
考えるとお笑いの世界もミステリに溢れていて、皿の上の数個のシュークリームの中に1個だけカラシが入っていてそれを避けるために(もしくは食べるために)推理したり、怪しげな地下お笑いライブに出演すると楽屋戻った時に財布の中に入ってたお札がなぜか1枚少なくなっている事件に遭遇したりもします。
こんな出来事よりも本の話をするべきですね……協会に所属されてる諸先生方の作品で大好きなものも沢山あります。ですがここではあえて「日本推理作家協会」の文字が表紙にしっかりある2冊の話を、入会させていただいた最初の恩返しのつもりで書かせていただきます。
まず1冊目は集英社から出てる『小説こちら葛飾区亀有公園前派出所(原作 秋本治、監修 日本推理作家協会)』
1976年~2016年まで週刊少年ジャンプで連載していたレジェンドギャグマンガのノベライズアンソロジー。小説であのギャグのパワーが伝わるのかな。そう思った方、ご安心ください。このアンソロジーに参加してる作家さんはこち亀に負けじとレジェンド級。大沢在昌、石田衣良、今野敏、柴田よしき、京極夏彦、逢坂剛、東野圭吾(敬称略)最高すぎる布陣です。この人たちがこち亀を書いて面白くないわけない。両さんが『新宿鮫』の鮫島、『池袋ウエストゲートパーク』のマコトと会ったりするんですよ!元々の作家さんのファンにはたまらないですし、元ネタ知らなくても話自体がクオリティ激高なので「こち亀をきっかけに面白いミステリ作家が知れる」素晴らしい一冊です。特に東野先生の「目指せ乱歩賞!」は読んでて大声出して笑いました。両さんが江戸川乱歩賞の存在を知り、賞金の高さに応募を決意、ところが締切は明日。一日の内に取材し原稿用紙500枚を書き上げるという離れ業を成し遂げて応募するのだが……という話。こち亀の世界観をきちんと書いてるうえでミステリ賞レースの内情もリアルに描かれていて、それがよりギャグのクオリティを高めている。この一冊は沢山の芸人仲間に勧めましたし、凄く笑えたと評判もとても良かったです。芸人としても尊敬できる団体、それが日本推理作家協会。
2冊目は幻冬舎から出てる『ミステリーの書き方(日本推理作家協会 編著)』
総勢43名の作家が各々の「ミステリーの書き方」を真剣に教えてくれる分厚い一冊。
この指南書、人によっては自作のネタバレも遠慮なく書いていて普通に考えたらかなりリスキー、それでも後進のためにあえて身を切ってくれているマジな一冊。
この本での「一番刺さるアドバイス」は読んだ人それぞれで変わると思います。僕が最も印象に残ったのは綾辻行人先生「トリックの仕掛け方」の中の一文【必読の古典を読むかわりに、いっそ『名探偵コナン』と『金田一少年の事件簿』そのほか売れ筋のミステリー漫画を全部読んじゃうという手もありますね。(中略)うーん、これがいちばん実践的だったりしてね】僕は正にこの2つのマンガの大ファンで原作は勿論、アニメも全話見てましたし、小説版にも手を出してました。
コロナ禍でお笑いライブが止まった時「ネタ書いてるだけでも時間余るし、ミステリ小説書いてみるか、綾辻先生が言ってた実践的なトリック貯蔵は既に出来てるし」と謎の自信で短編を一年でいくつか書きました。その短編を数年後、PHP研究所の編集さんにバカのふりして送ったら超まさかでミステリ作家デビュー。つまり綾辻先生のこの何気ない一言、そしてこの『ミステリーの書き方』のおかげで僕は日本推理作家協会に入れたわけです。恩人ならぬ恩本。ミステリ書きたい人、書いてる人、書く気はないけど好きな人、皆が楽しめる一冊なので是非。
日本推理作家協会に入ったからにはまずはミステリ小説を2作目以降コンスタントに出せるよう頑張ります……またこれからミステリとお笑いの架け橋にもなれるよう芸人活動も邁進する所存です。若輩者ではございますが会員の皆様何卒よろしくお願いいたします。皆様と仲良くなるためにお笑い界で芸能ゴシップ貯めておきます。