入会のご挨拶
霜月流(しもつき・りゅう)と申します。
このたび、第七十回江戸川乱歩賞を『遊廓島心中譚(ゆうかくじましんじゅうがたり)』で受賞し、日本推理作家協会の末席に加えていただくことになりました。
まずは、ここまで私を導いてくださった皆様に、心より感謝いたします。ありがとうございます。
私がミステリというジャンルと衝撃的な出逢いを果たしたのは、小学生の頃に購読していた少女漫画雑誌だったように思います。
『ちゃお』におおばやしみゆき先生の『きらきら☆迷宮』が、『なかよし』の別冊付録に『名探偵夢水清志郎事件ノート(はやみねかおる先生の同名小説のコミカライズ版)』が、それぞれ掲載されていて、他の連載作品とは一線を画す刺激的な物語にドキドキしたことは鮮明に憶えています。
(その後、小説の形で初めてミステリを読んだのは、宮部みゆき先生の青い鳥文庫版『ステップファザー・ステップ』だったと記憶しています)
しかしながら、学生時代には公募用の原稿をかこうと思い立つ機会はありませんでした。本格的に長編小説をかきはじめたのは社会人二年目の頃で、会社員生活の息抜きのためでした。
最初は賞にこだわりがあったわけではなく、賞のカラーや〆切のタイミングなどを基準に応募先を選んでいましたが、自分の得意分野が知りたかったので、あらゆるジャンルに挑戦することは強く意識していました。ホラー、ファンタジー、ライトノベル――色々かいていくうちに、集英社ライトノベル新人賞で拾い上げていただき、アンソロジーに掌編を寄稿する機会にも恵まれました。
いつの間にか、息抜きだったはずの執筆は、生活の中心になっていました。
乱歩賞に初挑戦したのは、そんな頃、二〇二二年の秋口のことです。
ミステリは難しい、おいそれとはかけない。一応本職はシステムエンジニアだけれど、ロジカルシンキングは苦手なんだ―そんな思い込みもあってミステリ系の新人賞にはそれまで挑戦していませんでした。ところが、ぐるぐる考えているうちに本格ミステリのプロットとトリックを思いついたことで、そのまま勢いに乗ってかき上げてしまったのです。
〆切が一番近いのは一月末の乱歩賞、推敲もギリギリ間に合う。でもあの乱歩賞だぞ、他にもミステリの新人賞はいくらでもあるぞ―。
悩んだ末、結局、私は乱歩賞というビッグタイトルへ挑む道を選びました。
乱歩作品を愛読してきたという読書体験に背中を押してもらったのかもしれないと、今となっては思います。(読書量は多い方ではないですが、江戸川乱歩作品は現在読めるものはほとんど読んでいるように思います。イチオシは『孤島の鬼』ですが、明智小五郎と一緒にあの人も活躍する『魔術師』と『人間豹』も推したいです……)
残念ながら、このときの応募作は最終候補の手前で落選してしまいましたが、翌年、翌々年と挑戦を重ね、三度目で受賞することができました。
小説家を名乗りはじめるにあたって、触れずにはおけない大切な人たちがいます。私が物語を創造するのをいつも内から支えてくれている、ALI PROJECTというアーティストの存在です。
中学生の頃にファンになり、夢中になって早くも十七年。私が生まれる前から三十年以上も独自のスタイルを貫いて活動しておられるお二人が創る音楽と世界が、私をここまで連れてきてくれたのだと感じています。
デビュー作刊行後、僭越ながら感謝の気持ちを込めて、お二人にお手紙と共に拙著をお贈りさせていただきました。後日、ブログでご紹介くださり、涙がでるほど嬉しかったです(ありがとうございます!)
転職や結婚など人生の節目を一つ二つと迎えながら夢中になってかき続けているうちに八年も経っていたことには、驚くばかりです。今、三十代のはじまりに、小説家として新たなスタートをきることができたことを、とても嬉しく思います。
受賞後には、乱歩賞の七十周年記念パーティや贈呈式など、先輩作家の方々とお会いしお話しをさせていただく機会が多々ありました。おろおろとしているばかりの新人に、どなたも温かい言葉を惜しみなくかけてくださり、頭が下がる想いです。
これからも、唯一無二の心躍るエンタメ作品を生み出していけるように、精進してまいります。
よろしくお願い申し上げます。