近況

意外な傑作

両角長彦

『甦る大地』(1971年・中村登監督)は、今年になって相次いでソフト化された石原プロ製作映画の一本です。
『黒部の太陽』と同じく木本正次原作ということもあって、前半は『黒部』と同じ開発礼讃映画かという感じなのですが、後半になって驚愕の展開が待ち受けています。
 不毛な砂地だった鹿島に港ができコンビナートができました。その結果地元の住民はどうなったか?
 土地を売り渡した金で毎日遊んでばかりで働こうともしない!
 窓の向こうでもくもくと煙を上げ続けるコンビナートは、もはや人間の作りだしたものとは思えない怪物的なビジュアルです。
「これでよかったのか」先頭に立って働いてきた開発職員・石原裕次郎はつぶやきます。
 鹿島を福島に、コンビナートを原発におきかえることは簡単です。本当におそろしいのは地場産業が失われることでも環境が汚染されることでもなく、札束で頬をたたかれた結果、人々の心が変わってしまうことなのだと思い知らされます。こんな映画によく茨城県や建設会社が企画協力したものです。映画自体の完成度は決して高いものとは言えず、後味も悪いのですが、どうしてもこれを作りたかったという裕次郎の心意気は確かに伝わってきます。この映画を今、兄の慎太郎が見たら何と言うでしょう。
 最後に裕次郎は「ひとつかみの希望」を得るのですが、それが何かは、ご覧になってのお楽しみです。