近況

島村 匠

島村匠

 ここ五、六年ヨーロッパ各国を夏休みを利用して回っている。
 様々な名所をめぐったが、もしこれを作品の中に取り込むとしたら、どう書くかと考えたりする。かつて吉川英治は「十調べたら九は捨てろ」と言ったという。なるほどと思う。たとえばベルファストを舞台にするとして、土地の歴史から風俗習慣までくわしく書いたとしても、それが直接内容に関連がないのなら、あまり意味はない気がする。さりげなく書き込むといった工夫が必要だろう。ついつい知識をひけらかせたくなるのは仕方ないとしても、バランスを考えないといけない。で、このようなことをあれこれ頭の中で整理して執筆にいたるのだが、書き出すまでの儀式といえば、斎戒沐浴し、近所の神社にお参りし、お札をもらってくる。それを机の前に張りつけて、結跏趺坐。瞑想境に入って一日待つ。結果として書き始められればいいが、たいていはこれを毎日繰り返し、そのうち軽く一ヶ月は過ぎる。そのうち別のネタを思いつき、また同じことの繰り返しというわけである。