新入会員紹介

六十のミステリ習いかな

小山正

 この度、戸川安宣さんと三橋曉理事の推薦で入会させていただいた、ミステリ研究家の小山正(おやまただし)と申します。当年六十歳。還暦の入会です。
「まだ入ってなかったのですか?」
と何人もの方々に言われました。意外です、とも。
 そうかもしれません。約四十年間にわたって、各種の単行本や雑誌にミステリ・幻想怪奇・SFに関する原稿を書いたり、ミステリの映像作品を概説した書籍『ミステリ映画の大海の中で』では、二〇一三年「第六十六回・日本推理作家協会賞(評論その他の部門)」の最終候補作に選んでいただいたり―とまあ、この業界とは浅からぬ縁があります。すでに会員と思われても不思議ではない。
 実は本業が忙しく、入会タイミングを逸しました。一九八七年にテレビ局に就職。以降サラリーマンとして各種TV番組(ドラマ・バラエティー・ドキュメンタリー他)や、関連する映画・書籍・配信等のコンテンツ制作に忙殺されました。が、昨年四月に定年退職。雇用延長せずにフリーランスとなった直後に、当協会が日本推理作家協会賞の翻訳部門予選委員を公募中と聞き、「今までの経験や蓄積を生かせるのでは?」と考えて、手を挙げた次第です。かくして、第二の人生スタートと予選委員就任を機に、入会に至りました。
 せっかくですから、ミステリを主とするモノ造り歴を、簡単に記しておきます。
 学生時代は「慶應義塾大学推理小説同好会」に所属し、先輩・同輩たちのスパルタ的読書指導のもと、新旧作品を濫読しました。当時「全日本大学ミステリ連合」に属していた縁で、雑誌「週刊文春」のミステリベスト企画や、いくつかの文庫本の解説を担当。創刊直後の『このミステリーがすごい!』のコラム執筆や投票などにも関わり、プロ編集者の叱咤激励のもと、商業媒体への寄稿が始まります。
 映像好きが高じて、TVディレクターとプロデューサーの道を歩むことで執筆量は減りましたが、止めずに続けたおかげで、何冊かの本を出しました。主なものを以下に挙げると―。

・『バカミスの世界』(小山正とバカ・ミステリーズ編著・二〇〇一年・美術出版社刊)
・『英国ミステリ道中ひざくりげ』(若竹七海と共著・二〇〇二年・光文社刊)
・『越境する本格ミステリ』(日下三蔵と共同監修&編著・二〇〇三年・扶桑社刊)
・『ミステリ映画の大海の中で』(単著・二〇一二年・アルファベータ刊)

 他には、早川書房の雑誌「ミステリマガジン」のクライム・コラム欄〈DVD情報〉連載が、今年で二十六年目を迎えます。マンネリにならず、新鮮かつ驚きのある情報をお届けしたい、という気持ちで毎号執筆しています。いつまで続くかな?
 また近年は、東京創元社のウェブサイト〈Webミステリー!〉で、内外のSF史をめぐる空談を記す〈SF不思議図書館〉も継続中です。でもこれは、海外の原書を読むのが大変で停滞気味。その他に単発仕事で、翻訳ミステリや劇場映画パンフ等に解説・エッセイ・コラムを書いています。
 執筆以外では、二〇〇八年から二〇一六年にかけて、協会員だった故・松坂健さん、ミステリ演劇専門の「劇団フーダニット」代表・松坂晴恵さんご夫妻とともに、「国際推理作家協会」(英語名:International Association of Crime Writers、スペイン語名: Asociacion Internacional de Escritores Policiacos=略称AIEP)の、年一回開催される総会に五回参加しました。
 この組織は、欧米を主体に南アメリカやアジア諸国・地域の作家・研究家・批評家・翻訳家・編集者などで構成。国や地域の垣根を越えて、世界のミステリ事情や作品の流通状況に関するビジネス・ミーティングを行い、懇親を深めることを目的にしています。
 総会は原則非公開、参加可能なのはメンバーのみですが、世界のミステリの潮流を知るにはもってこいの集いです。情報発信者としてプレゼンスを示すことも可能な場なので、私自身も議場で、日本ミステリの現状や海外に訳されてない新旧和製ミステリ作品について、外国人の諸氏に拙い英語で何度か説明してきました。その際に印象的だったのは、諸外国の方々の、
「日本を含むアジアのミステリをもっと読みたい!」
と切望する声の多さです。この空気は今も変わらないと思います。
 ここ数年はコロナ禍の影響で開催されていません。しかし、こうしたユニバーサルかつフレンドリーな繋がりは、今後のミステリ文化の振興のためにも、大切な要件だと思います。再開されれば、また参加したいのですが―。
 というわけで、執筆だけではなく、ミステリに関する面白いことならなんでもOK! という姿勢です。若さには欠けますが、よろしくお願いいたします。