入会のご挨拶
このたび協会の末席に参加させていただくことになった芥生夢子と申します。あざみゆめこと読みます。よろしくお願いいたします。入会にあたってお力添えいただきました佐藤青南先生、そして理事会と事務局の皆さまに厚くお礼申し上げます。
筆を執る前に他の新会員の方々がどのような挨拶文を書かれているのか、ひととおり目を通させていただきました。当然ではありますが、作家になる以前からミステリを読み始め、ミステリを愛好しておられる方が多くいらっしゃいました。なぜならここは日本推理作家協会だからです。
この場で宣言するには大変不遜な物言いになってしまいますが、私自身は推理小説をほとんど読まず、そして書かずにこれまで生きてきました。面白い本や映画を薦められてもそれに少しでもミステリの要素があった場合、「ミステリはちょっと……」などと首を横に振って断ってきた人間です。
小説は好きでした。物語を読むのが、物心ついた頃から興味のすべてだったといっても過言ではありません。ごく自然な結果として、私は自分でも物語を書きはじめ、いつしか小説家になりたいと夢見るようになりました。
実家にはたくさんの本がありました。多くが歴史小説とSF小説でした。父が愛好家だったからです。ですが、やはり歴史小説もSF小説もまったく読みませんでした。
十代だった私はいわゆる純文学に傾倒しており、文芸誌が開催している新人賞へ原稿を送りはじめました。私が目標とし、憧れてやまなかったのは直木賞ではなく芥川賞だったのでした。おのずと、関心のある本も限られた分野のものになっていました。
初めての応募から長い月日が経過しました。一向に芽が出ないからといってとくに悲観するでも諦めるでもなく、顔も知らぬ下読みさんとたったふたりきりしかいない世界で小説を書き続けていました。
そんな自分がどうしてオンラインの小説賞、それもミステリの賞でデビューするに至ったか。数年前の私が聞けば首をかしげたことでしょう。
長い前置きでしたが、そのくらい私にとって推理小説は自分と縁遠いものだったのです。
きっかけは、とある小説投稿サイトの短編コンテストでした。この頃、私はオンラインの小説投稿サイトがお気に入りでした。長年下読みさんとふたりの世界で生きてきた飢餓感もあって、リアルタイムで読者の反応や感想をもらえるSNSのようなやり取りが楽しかったのです。
投稿される作品の多くはライトノベルやキャラ文芸と呼ばれる小説です。漫画も好きだったので、漫画に近いキャラクターを動かすこれらのジャンルは自分に向いていたようでした。
ネット上で誰かと交流しながら同じテーマで短編を書いたり読んだりするのはとても楽しくて、コンテストがあると気軽に参加していました。
そして、募集ジャンルはミステリ、テーマは「日常の謎」に限定した短編賞に出会ったのです。
私は当然悩みました。ミステリなんて縁がないし、なにより難しそうだ。正直なところ、書ける気がしない。ですがネットのコンテストは大抵の場合、投稿ボタンをひとつ押すだけで完了します。本名も住所も印刷も必要なく、用意するのはメールアドレスくらいです。「ま、せっかくだし書いてみようかな」と決心するのにそうたくさんの勇気はいりませんでした。
結局、そのコンテストに参加しませんでした。なぜなら、書いてみたらものすごく面白かったからです。
短編賞に出すのはやめて、長編にしよう。最初の事件を書き終わったとき、私はそう決めていました。完全に驕りなのですが、ミステリに対する造詣のなさがかえって功を奏したのかもしれません。もっと続きを書きたくなってしまったのです。
有栖川有栖先生の『密室入門』や『密室大図鑑』と睨めっこしながら密室っぽいものを考えてみたり、暗号っぽいものを取り入れてみたり、初めて見る玩具で遊ぶようにして一冊分の量を書ききりました。
そして、「人が死なないキャラ文芸のミステリ」という最初のテーマをそのまま引きずった作品で受賞し、デビューに至りました。
その後の私がなにをしているかというと、本好きな人に「面白いミステリ、知ってる?」と聞いて回る人間になっています。
はじめは義務感もありました。得意顔で書いたものが、有名作品のトリックそのままかもしれない。これからもミステリを書きたいなら読まないわけにはいかないと、書店に行って自分でもタイトルを知っている有名な本を手に取るところからはじめました。
上記と同じオチになりますが、当然のごとく読んでみたら夢中になりました。受賞から一年半ほど経ちますが、私は毎日楽しく推理小説を読み続けています。ミステリ愛好家の方々が何年、あるいは何十年も前に驚いたであろう名作を読み、ひとりで感動しているわけです。
作家としても、ミステリファンとしても歩きだしたばかりですが、何卒ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます。
筆を執る前に他の新会員の方々がどのような挨拶文を書かれているのか、ひととおり目を通させていただきました。当然ではありますが、作家になる以前からミステリを読み始め、ミステリを愛好しておられる方が多くいらっしゃいました。なぜならここは日本推理作家協会だからです。
この場で宣言するには大変不遜な物言いになってしまいますが、私自身は推理小説をほとんど読まず、そして書かずにこれまで生きてきました。面白い本や映画を薦められてもそれに少しでもミステリの要素があった場合、「ミステリはちょっと……」などと首を横に振って断ってきた人間です。
小説は好きでした。物語を読むのが、物心ついた頃から興味のすべてだったといっても過言ではありません。ごく自然な結果として、私は自分でも物語を書きはじめ、いつしか小説家になりたいと夢見るようになりました。
実家にはたくさんの本がありました。多くが歴史小説とSF小説でした。父が愛好家だったからです。ですが、やはり歴史小説もSF小説もまったく読みませんでした。
十代だった私はいわゆる純文学に傾倒しており、文芸誌が開催している新人賞へ原稿を送りはじめました。私が目標とし、憧れてやまなかったのは直木賞ではなく芥川賞だったのでした。おのずと、関心のある本も限られた分野のものになっていました。
初めての応募から長い月日が経過しました。一向に芽が出ないからといってとくに悲観するでも諦めるでもなく、顔も知らぬ下読みさんとたったふたりきりしかいない世界で小説を書き続けていました。
そんな自分がどうしてオンラインの小説賞、それもミステリの賞でデビューするに至ったか。数年前の私が聞けば首をかしげたことでしょう。
長い前置きでしたが、そのくらい私にとって推理小説は自分と縁遠いものだったのです。
きっかけは、とある小説投稿サイトの短編コンテストでした。この頃、私はオンラインの小説投稿サイトがお気に入りでした。長年下読みさんとふたりの世界で生きてきた飢餓感もあって、リアルタイムで読者の反応や感想をもらえるSNSのようなやり取りが楽しかったのです。
投稿される作品の多くはライトノベルやキャラ文芸と呼ばれる小説です。漫画も好きだったので、漫画に近いキャラクターを動かすこれらのジャンルは自分に向いていたようでした。
ネット上で誰かと交流しながら同じテーマで短編を書いたり読んだりするのはとても楽しくて、コンテストがあると気軽に参加していました。
そして、募集ジャンルはミステリ、テーマは「日常の謎」に限定した短編賞に出会ったのです。
私は当然悩みました。ミステリなんて縁がないし、なにより難しそうだ。正直なところ、書ける気がしない。ですがネットのコンテストは大抵の場合、投稿ボタンをひとつ押すだけで完了します。本名も住所も印刷も必要なく、用意するのはメールアドレスくらいです。「ま、せっかくだし書いてみようかな」と決心するのにそうたくさんの勇気はいりませんでした。
結局、そのコンテストに参加しませんでした。なぜなら、書いてみたらものすごく面白かったからです。
短編賞に出すのはやめて、長編にしよう。最初の事件を書き終わったとき、私はそう決めていました。完全に驕りなのですが、ミステリに対する造詣のなさがかえって功を奏したのかもしれません。もっと続きを書きたくなってしまったのです。
有栖川有栖先生の『密室入門』や『密室大図鑑』と睨めっこしながら密室っぽいものを考えてみたり、暗号っぽいものを取り入れてみたり、初めて見る玩具で遊ぶようにして一冊分の量を書ききりました。
そして、「人が死なないキャラ文芸のミステリ」という最初のテーマをそのまま引きずった作品で受賞し、デビューに至りました。
その後の私がなにをしているかというと、本好きな人に「面白いミステリ、知ってる?」と聞いて回る人間になっています。
はじめは義務感もありました。得意顔で書いたものが、有名作品のトリックそのままかもしれない。これからもミステリを書きたいなら読まないわけにはいかないと、書店に行って自分でもタイトルを知っている有名な本を手に取るところからはじめました。
上記と同じオチになりますが、当然のごとく読んでみたら夢中になりました。受賞から一年半ほど経ちますが、私は毎日楽しく推理小説を読み続けています。ミステリ愛好家の方々が何年、あるいは何十年も前に驚いたであろう名作を読み、ひとりで感動しているわけです。
作家としても、ミステリファンとしても歩きだしたばかりですが、何卒ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます。