新入会員紹介

入会のご挨拶

二日市とふろう

 この度日本推理作家協会の末席に加えていただく事になりました二日市とふろうと申します。
 私と推理小説の出会いはよくある図書館の本でした。小学校の図書館の本棚にあったのはシャーロックホームズと明智小五郎。子供心に少年探偵団やベイカー街遊撃隊に憧れたのは言うまでもありません。特に少年探偵団の七つ道具は皆が真似たもので、せめて入手しやすい望遠鏡や磁石、手帳と鉛筆と懐中電灯を持って冒険に出かけたのは良い思い出です。金田一耕助を知ったのは石坂浩二版の映画『犬神家の一族』であり、今にして思えば私の小説のテーマとなってしまった人や地域の縁や業というものはこの物語から教えてもらったと思っています。それからしばらくは金田一耕助に夢中になったというか、テレビのリメイクをよく見るようになり、古谷一行版金田一もいいが、私は片岡鶴太郎版金田一が結構好きでした。ほどよくあの時の風景を映しており、昭和でなく平成の金田一という感じで記憶に残っています。
 親が警官だった事もありよく家では刑事ドラマを流しており、その為かそちらの方にも興味が湧き、私の世代だと『太陽にほえろ』よりも『あぶない刑事』であり『踊る大走査線』や『古畑任三郎』でした。こんな感じで、謎があってそれを解くのならば、それは推理小説だと私は思っていたのです。
 だからこそ、アニメで『氷菓』を見た時に私は推理小説として見ていたのを思い出します。
 私という作家を自分で評価するならば、誰かの影をついてゆく作家で、基本ブームが来て『あ、これ書ける。じゃあ書くか』という流れで作品を作っていたからです。そんな私が狂ったようにハマったのが仮想戦記。アニメの『銀河英雄伝説』で戦記に目覚めた時、時代は荒巻義雄先生『紺碧の艦隊』の全盛期からそのブームの終わりまで見て、社会に出た私はその下火になった仮想戦記をネットの片隅で手慰みに書き続けていました。
 なお、これで読みに行かれた当時の読者の反応が強烈で「スイーツなお店に入ってスイーツを食べようと思ったら出できたのが二郎だった」という感想をもらい苦笑した覚えがあります。こういう所で載る文章だから少し推理らしい話をするならば、仮想戦記の作り方は推理小説の応用というか犯人側始点の思考がとても大事になります。故佐藤大輔先生の『レッドサンブラッククロス密書』から彼の読者がよく言う『時間犯罪者』という言葉が示すように、仮想戦記の作者はいみじくも歴史を歪める犯罪的思考を否応なく迫られる。そんな私が書いていたネット小説が日の目を見るようになったのが、2010年代。「誰もいなくなった生け簀で一人楽しく泳いでいた」と最近はいう事にしているが、それから十年間ほどのんびりと物語をネットの片隅で書き続けていた。最初は架空戦記を。間に二次創作を。ブームに乗って悪役令嬢を。ネット小説はその間どんどん巨大になり、コンテストにタグつけだけで出られるからとつけて、二次や最終あたりまで行くが通らない事何度か。まさかツイッターのバズりでデビューするとは今でも夢のようである。
 そんな私だが、十月で小説家二年目となるのだが、未だ小説家というイメージを私の中で持てないでいます。理由は簡単で、昨今流行のアレによるイベント自粛や辞退のせい。サイン会やパーティー等の文壇の華やかな世界なるものがあると思っていた私にとって、その華やかなる世界を見ずにもうすぐ二年目。これはいけない!と発起してツイッターで流れていた当協会の会員募集に一念発起して申し込んで、今こうして文章を作っている次第。こんなアポなし営業みたいな事をして真摯に対応していただいた佐藤青南先生には本当に感謝しております。
 ありがたい事に、デビュー作である『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』は三巻まで出させていただき、四巻目とコミカライズも現在進捗している所だったりします。ここまで読んでくださっている方々の中にもお買い求めいただいた方が居るかもしれませんが、長いタイトルで作者も言う時に間違えるのはここだけの話。そしてなにより、こうして小説家になれたのも読んでくださる方々のおかげだと思っています。特に、このエッセイは皆様への挨拶であると同時に、いつも応援してくださっている方への感謝の言葉でもあります。
 という訳で、これからもよろしくお願いします。コロナが落ち着いてパーティーとかするのでしたらぜひ呼んでください。九州から駆け付けますので。あ。私、お酒駄目なのでウーロン茶なのはご容赦を。