新入会員紹介

映画と江戸とホームズと

飯島一次

 このたび、入会させていただきました飯島一次と申します。
 ご推薦くださいました真保裕一様、鈴木輝一郎様に感謝いたしますとともに、栄えある会の末席に加えていただきましたこと、まことに光栄に存じます。
 現在、時代小説を書いております。
 子供の頃から映画好きで、就学前はまだTVが普及しておらず、祖母に連れられて駅前の映画館に通いましたが、そこで上映されていたのが、たいていは時代劇でした。
 高校生ぐらいになると、ひとりで映画館に足を運ぶようになり、娯楽映画を中心にアクション、コメディ、ミステリ、SF、西部劇、ホラー、なんでも観ました。当時はアメリカ映画が多かったように思います。
 大学は大阪芸大の舞台芸術学科に進み、四年間、演劇にどっぷりと浸かりました。新劇、商業演劇、アングラ、宝塚、新喜劇、片っ端から観て、もちろん、映画も観続けておりました。
 学生時代に二本立ての名画座でビリー・ワイルダー監督の『シャーロック・ホームズの冒険』に出会い、がつんとやられたのが、ホームズ好きとなったきっかけです。
 さっそくホームズを求めて書店に行きますと、間のいいことにこの映画のノベライズ『シャーロック・ホームズの優雅な生活』が創元推理文庫から出ていました。
 だから、わたくしが初めて読んだホームズものはコナン・ドイルの聖典ではなく、映画のノベライゼーションです。
 続いて同じ東京創元社の阿部知二訳でコナン・ドイルの短編、長篇をむさぼるように読み続け、名探偵の活躍にわくわくし、十九世紀のロンドン、ベイカー街への憧れを強く抱きます。
 いい時代でした。一九七〇年代の半ば、ニコラス・メイヤー『シャーロック・ホームズ氏の素敵な冒険』、ロバート・L・フィッシュ『シュロック・ホームズの冒険』、オーガスト・ダーレス『ソーラー・ポンズの事件簿』、エラリー・クイーン『恐怖の研究』、エイドリアン・コナン・ドイル&ディクスン・カー『シャーロック・ホームズの功績』、中川裕朗『ホームズは女だった』などなど、次々に出るホームズパロディやパスティーシュを読みあさり、とうとうW・S・ベアリング=グールドの『シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯』と出会って、ホームズの愛好団体日本シャーロック・ホームズ・クラブに入会、現在に至ります。
 当時のわたくしはホームズ以外の推理小説にはあまり興味がなく、アガサ・クリスティも江戸川乱歩も松本清張も恥ずかしながら読んでいなかったのですが、ホームズ経由で岡本綺堂の『半七捕物帳』に行き着くことになります。
 もともと映画やTVの時代劇が好きだったので、すんなりと江戸のホームズである半七の世界に入り込みました。
 そうなると、今度は落語、講談、歌舞伎のほうへと行くわけですね。
 生まれ育ったのは大阪で、大学を出るまでは大阪の実家におりましたが、卒業後は東京へ移り住み、切絵図を片手に町歩き。
 ホームズのロンドン、半七の江戸に憧れ、やがて自分でも時代小説を書くことになります。
 ですから、わたくしの時代小説は歴史大作でもなければ剣豪小説でもありません。
 主人公は戯作者を目指す旗本の次男坊であったり、お化け長屋に住む長崎帰りの蘭学者であったり、江戸城御文庫に幽閉された奇人であったり、売れない歌舞伎の役者であったり。
 それらの主人公たちが市井で起きる事件の謎に挑むというのが、だいたい好きな筋立てで、フィクションの江戸にタイムスリップしながら遊んでおります。
 わたくし、年齢はけっこういっておりましても、まだまだ新参者、どうか皆様、今後とも、よろしくお願い申し上げます。