新入会員挨拶
はじめまして。このたび日本推理作家協会の末席に加えて頂くことになりました菱川さかくと申します。お忙しい中、推薦してくださった佐藤青南先生、えぞぎんぎつね先生に、改めて御礼申し上げます。
さて、私の作家遍歴ですが、出版社の新人賞やネット小説の賞を運良く複数授賞し、2016年に商業デビューしております。よって、作家生活も8年となり、著作はコミカライズや翻訳も含めると40冊超、ありがたいことに著作のアニメ化が決まったりと、ひよっ子なりにほどほどのキャリアを積んできた中、なぜ今になって日本推理作家協会入会なのかというところを自己紹介がてらご説明させて頂ければと存じます。
私の読書歴は、スレイヤーズやブギーポップといった王道ライトノベルから始まったのですが、両親がミステリ好きだったこともあり、家の本棚には幼い頃からミステリが溢れておりました。ただ、子供からすると表紙が怖い印象のものも多く、タイトルに当たり前のように「殺人」という禍々しい単語が乱舞するミステリは、一種近寄り難いオーラを放ち、それらの本棚に触れることもない日がしばらく続いておりました。
しかし、ある日、母との何気ない会話の中でその本棚の話題を口にしたところ、「ミステリは大人になるまで読まないほうがいい」と忠告されたのです。やっぱり子供には怖いんだなと納得したのですが、理由を聞くと「面白くて途中でやめられなくなるから、学業に支障が出る」と真顔で答えるではありませんか。
ほう……?
娯楽の非常に少ない片田舎で育ったこともあり、購入したライトノベルを読み終わると、すっかり手持ち無沙汰になっていた私は、恐る恐るその本棚に手を伸ばしたのでした。
結果、奇妙な十角形の館に閉じこめられ、ルポライターとなって日本各地を巡り、Yの悲劇に思いを馳せ、オリエント急行の旅の浪漫に浸る……母の懸念していた通り、すっかりミステリにはまってしまったのです。
そんな形で主にライトノベルとミステリを同時に摂取し続けた私は、作家を志した時も自然とその両方を目指して投稿を行い、幸いなことにライトノベルやホラーミステリなど複数のジャンルでデビューさせて頂きました。
現在は主にライトノベルに軸足を置いていますが、ミステリへの敬愛も勿論変わらずに持ち続けており、当然ながらデビュー前から日本推理作家協会についても存じておりました。しかし、幼い頃から一ファンとしてミステリに触れてきたが故に、入会のハードルを己の中で勝手に高く設定してしまっていたのです。
授賞作をミステリマガジンに取り上げて頂いたこともあり、私も協会に入ってもいいのではないか? いや、しかしミステリの王道にいる訳ではないし、こんな未熟者が……と葛藤している内に時間が経ち、もう今更……と半ば諦めかけていたところ、今年になって生活の変化があり、健康保険を見直す状況がふいに訪れました。
「ここだ…!」と思ったのです。
文芸美術国民健康保険を獲得する、という名目で、日本推理作家協会に加入できるではないか……! 生活設計上、私には文芸美術国民健康保険が必要なのだ。だから未熟者ではあるが、私は日本推理作家協会に入らねばならない……! と、己を鼓舞し、えいやと申込書を書き殴り、このたび本協会に入会させて頂く運びとなりました。
このような形ではありますが、歴史ある協会の末席に加えて頂き、感謝いたします。
今後とも何卒よろしくお願い致します。