新入会員紹介

新入会員挨拶

蛙田アメコ

 蛙田アメコと申します。
 このたび光栄なことに日本推理作家協会の末席に加えていただくこととなりました。入会に際しては、ご推薦をいただきました佐藤青南先生および和泉桂先生、また事務局の小池智美様はじめ多くの皆様に多大なるお力添えを頂戴いたしました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。諸先輩方におかれましては、何卒お見知りおきの程をよろしくお願いいたします。
 怒りにまかせて小説を書いています。2019年に出版されたデビュー作は『女だから、とパーティーを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました』というタイトルでした。たいへん長い題名であります。2018年、大学医学部の入試において女性受験者が恣意的に減点措置をうけていた件についての報道がありました。この第一報および、それに対するTwitter(当時)上でのユーザー同士の舌戦模様に対して怒りまくり、ウェブ小説投稿サイト「小説家になろう」に同作を執筆しました。第一報が出てから、即日のことでした。思い返してみると、瞬間湯沸かし器にも程があります。
 時事ネタと話題性に助けられたデビューでした。「やったぜ」と「なんでやねん」がない交ぜになった謎の感情に襲われました。それまで公募文学賞やウェブサイトに投稿した作品は箸にも棒にもかからなかったなかでの出版オファーでした。また、同じ頃に「女には本当に面白いものは書けない」という主旨の投稿がTwitter(当時)上を駆け巡っていたのです。私は、その投稿に対しても怒っていました。自分のデビュー作が「本当に面白いもの」だとは到底思えませんでしたが、ちょっとだけ世の中を殴り返せたような気持ちでした。殴り返せた、ですって。野蛮ですね。
 映画が好きです。いちばん好きな映画は……と言われると困ってしまうのですが映画館で一番多くの回数を鑑賞した映画はガイ・リッチー監督作『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』とジョス・ウェドン監督作『アベンジャーズ』です。二十回前後、劇場で鑑賞しました。シャーロキアンというわけではありません。ガイ・リッチー監督のホームズはパンチやキックが強いのがいいなと思っています。なお、人生で一番泣いた映画はローレンス・ダンモア監督の初長編作『リバティーン』というイギリス映画です。
 鳥が好きです。特にインコが好きです。何年か前に愛鳥は死んでしまったのですが、いつかまた鳥と暮らせたらいいなと思っています。「なんで死んじゃったのかな」と何度でも思い出す、可愛いオカメインコでした。
 落語が好きです。Mリーグが好きです。キャンプが好きです。バイクが好きです。「なんで」「どうして」を解き明かす物語が好きです。
 日本推理作家協会に加入させていただくにあたり「ミステリって何かしら」と考えていたわけですが、ジャンルに関わらず物語はどうしたって謎解きを含んでいるものなのだな、という至極当然のことを思い出すに至りました。推理小説というジャンルでいえば、学生時代には有栖川有栖『国名シリーズ』が好きで友人と感想を語り合っていましたし(エラリー・クイーンにも同じ名で呼ばれる作品群があることを知ったのは、後年のことになります。不勉強!)、米澤穂信『小市民』シリーズの続きを待ち焦がれる日々はたいへんに長く切ないものでした。めくるめくミステリ作品の謎解きに胸を躍らせる一方、ガモウひろし『とっても!ラッキーマン』のコミックスを読みながら「勝利マン、どうして実の弟にこんな仕打ちを!」と手に汗を握っておりました。ジャンルも媒体も違う作品ですが、「なんで」「どうして」「どうやって」を描く作品に私はどうしても夢中になってしまうようです。
 物語が抱いている謎はフェアなのが素敵です。現実の「なんで」「どうして」は全然フェアじゃないから。デビュー作を書くきっかけとなった医学部入試不正をはじめ、日々どこかで起きている暴力事件や不祥事、戦争。現実に、きれいに納得のいく解決編が用意されていることは稀です。だから、私はいつもちょっと怒りながら小説を書いているような気がします。きれいな解決編を望めない世の中を、ちょっとだけ殴り返すために。
 未熟で幼稚な執筆動機で恥ずかしいかぎりですが、いつか読者の胸に曇りのない晴天を届けられるようなフェアで痛快でパンチの強い、何度でも思い出すような作品が書けたら、幸せなことだと思っています。
 改めまして、この度は日本推理作家協会という伝統ある団体に加入させていただき、誠にありがとうございます。
 最後になりますが、郵便物の開封を二ヶ月ほど怠っており、『また、新入会員の方には協会報にご執筆をお願いしております』という一文の記載されている書類を受領から実に一ヶ月経った頃になってようやく認知したという事態に際して、自らの不甲斐なさ、想像を絶するルーズさ、だらしなさに大いに怒り狂いながら本稿を執筆しております。この通り、作家としても人間としてもあまりにも未熟者ではございますが、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。