新入会員紹介

入会ご挨拶

ねこ沢ふたよ

 数多の作家が所属する日本推理作家協会に入会させていただき、感謝いたします。
 ご推薦下さった先生方には、厚く御礼申し上げます。
 ご縁をいただき光栄に思うと同時に、その名を汚さぬようにと気を引き締める所存でございます。
 今後ともよろしくお願いいたします。
 さて、今回のご挨拶として、先日、朗読劇の原作を担当させていただいた経験を紹介させていただこうと思います。
 先日、「ある日の役者たちの自主練」(通称「ある自」)で、朗読劇の原作を担当させていただきました。
 東京の小さな劇場で朗読劇を一年に何回か「ある自」という団体が演じています。
 今回、私が原作を担当させていただいたのも、その公演の内の一つでした。
 公演では、三人の作家の作品を、「ある自」の役者さん達が、熱量たっぷりに演じてくださいました。
 三十人ほどの観客席は、四度の公演がほぼ満席でした。小さい劇場ならではの距離感で迫力ある舞台は、観客を魅力し、正に『演じる側と観る側が一体となる』という世阿弥が『風姿花伝』で示した理想の演技を、具現化したような出来栄えの舞台で、とても素晴らしいものでした。
 原作者としてこれを言って良いのか迷うところですが、舞台で演じることにより、読むよりも何倍も分かりやすく文章の意図を伝えてもらったと思います。
 これは私のような経験の浅い駆け出しの作家にとっては、とても勉強になる出来事でした。
 自分の書いた文章に、生身の役者さんが、作品の登場人物にどのような表情をつけて演じるのかを目の当たりにすることは、新しい発見だらけで、今後の創作活動に大いに役立てたいところです。
 さらに言えば、勉強になるだけでなく文章が立体的に新しい形を得ることで、新しい読者を見つける足がかりにもなったのではないかと推察されます。(実際、舞台を観にきて下さった観客が、著書「拾ったのが本当に猫かは疑わしい」にも興味を示して下さったので、この見解に間違いはないでしょう)
 このような夢のような貴重な体験をさせてもらったことには、感謝しかありません。
 この「ある日の役者たちの自主練」(通称「ある自」)は、コロナ禍に、俳優や声優などの表現者が自己研鑽のために行ったのが始まりで、書籍化されている作家の未書籍化作品や、web投稿作品を朗読している団体です。
 近年は書籍化作品を書店イベント会場などで朗読する活動もされています。
 朗読劇の原作への採用などは、有名作家の方にとっては、数あるイベントの一つなのでしょうが、知名度の低い私のような作家にとって、自分の作品に興味を示してくれる読者を増やすことにつながる非常に有り難い存在なのです。
 そして、「ある自」だけではありません。
 同じように、Xのスペースを活用して「朗読演戯カタリネコ」(通称「カタリネコ」)という団体が、朗読劇を行っているのですが、こちらは、カドカワがサイバー攻撃を受けた時に、積極的に広告活動に協力して、新刊出版著者の作品を朗読して読者に伝える活動をして下さいました。
 その活動に感謝している作家も多いのではないでしょうか。
 「ある自」も「カタリネコ」も、作品を大切に扱って、読者に作品の魅力を伝えてくれている団体だと思います。
 近年、本を読む人口の減少や、本屋の閉店など、業界にとっては辛いニュースが続いていますが、「ある自」や「カタリネコ」のように、小説を愛して、その魅力を伝えてくれる方々もいらっしゃいます。
 こんな風に、小説を愛し何とかこの業界を支えて広めようとしてくれている人がたくさんいることは、大変に嬉しいことだと思います。
 私は、今回の朗読劇の経験を通して、つくづく、小説というものは、作家だけで作るものではなく、編集者、校正者、イラストレーター、本屋、書店員、読者、そして、小説を元に演じる役者や、映像を作る方々、そういう数多くの人々の手で完成させる芸術であり、エンターテインメントなんだと思い知らされました。
 我々作家は、その数多くの人々で作り上げる作品の大切な出発点を担っているのです。
 多くの方々の尽力に応えるためにも、より魅力的な作品を作らなければならないのだと心より思います。
 まだまだ未熟な点の多い作家ではありますが、皆様に素敵な文章を一作でも多くご提供させていただけるように、努力を重ねて参りたいと思います。
 諸先輩方におかれましては、温かく見守っていただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。