新入会員挨拶
この度、日本推理作家協会に入会させていただきました秋吉理香子と申します。お忙しい中お骨折りいただき、ご推薦くださいました佐藤青南先生と和泉桂先生に、心より感謝申し上げます。
子供のころから読書が大好きで、いつもずっと本を読んでいました。小学4年生くらいまでは母が買い揃えてくれた児童用の文学全集を楽しみ、小学5年生で太宰治の「斜陽」に出会ってからは純文学に目覚め、カフカやカミュなど不条理文学も読むようになりました。中学1年生の時、学校の図書室でスタンダールの「赤と黒」を借りたら、司書の方にとても驚かれたことを覚えています。
いちおう現在はミステリ界隈の片隅に生息させていただいておりますが、ミステリらしきものを書き始める2012年まで読んだことはありませんでした。わたしの周りでミステリを読む人が一人もいなかったので、勧められたこともなかったのです。ミステリを書いてみませんかと双葉社の編集の方からお声がけいただき、慌てて書店で手あたり次第、ミステリと銘打たれている本を30冊ほど買ってきました。(思い返せば、この双葉社の方が、わたしが生まれて初めて出会ったミステリを読む人でした。)
ビギナーですので、わたしの解像度は非常に低く、「警察が出てくる」のがミステリという認識でした。そして読み始めたわたしは、最後まで犯人がわからないことに驚きました。どうして冒頭で「犯人はAさんですよ」と明示しておいてくれないんだろうと不思議でたまりませんでした。さらにいろいろな作品を読むと、「Aさんが怪しげですが、実は犯人はBさんでした」というパターンもあり、「Aさんが犯人だと誤解されてしまうことを編集の方は指摘しなかったのだろうか」と首をかしげていました。その他、最後まで動機がわからない、最後まで殺害方法がわからないなど、必ず「何か」が不明なまま物語が進んでいくのです。「最初に犯人、動機、殺害方法をはっきり書いておいてほしいなあ」ともやもやしながら30冊近く読んだとき、突然、雷に打たれたように、わたしは閃いたのです。
これ、わざと!?
もしかしてわざと、わからないように書かれているの!?
目からうろこがぽろりと落ちた瞬間でした。
20冊ほど買い足して読んでいくと、さらにうろこがぽろぽろ落ちていきました。犯人なり動機なり殺害方法なり、隠された「何か」を突き詰めていくのかミステリなのだと、やっと理解したのです(かなりざっくりですが、当時のわたしにはそこまでの理解が精一杯でした)。
100冊ほど読み終えるころには、わたしの眼はぴかぴかつるつるになっていました。
ぴかぴかの眼になったからといって、もちろんミステリを書けるわけではありません。けれどもわたしはすっかりミステリ小説の魅力に取りつかれ、「書いてみたい!」と強く思い、そして勇気を出してミステリという大海に飛び込んだのです。
ビギナーのわたしを、寛大に受け止めてくれた海。まだまだ泳ぎ方がわからず、遠くを優雅に泳ぐ先輩方をまぶしく眺めながら、必死であがく日々です。けれども許されるなら、ずっとずっとこの海原にいたい。少しでも先に進みたい。どこまでも泳ぎ続けたい――そう願いながら、日々、こつこつと不器用なりに作品に向き合っております。
みなさま、どうぞよろしくお願い申し上げます。