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サイドに「19」を持つ女

福田和代

 はじめまして、福田和代と申します。このたび、ご縁をいただきまして、日本推理作家協会にお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします。

 突然ですが、筆名は本名です。
 デビュー前の長~い投稿期間には、別の筆名を使っておりました。
 四十歳の誕生日を目前に、いざデビュー作が刊行されると決まった時、うまくいけば生涯つきあう名前になりますから、慎重に決めなくちゃと思いまして。
 年齢相応に落ち着いて、書籍の背表紙に印刷された時におさまりのいい……といくつか候補を挙げ、さておもむろに取り出しましたのが、野末陳平氏の『姓名判断』です(光文社刊、現在は絶版のようです)。わたくし理系の元システムエンジニアで、迷信やオカルティズムにはさほど関心がありません。占いもあまり好きではなく──と言いますのも、悪い結果が出た時に気にしすぎる性格ですから、へたに手を出さないほうが、のんびり生きられるわけです。
 しかし、筆名はさすがに、験をかつぎました。
 野末氏の『姓名判断』は1967年に初版が刊行された超ロングセラーですから、内容をご存じの方も多いでしょう。氏名の漢字の画数を数えまして、決められた組み合わせでサイド、トップ、ハート、フット、オールという五つの数を算出します。それぞれにサイドは〝職業運〟、オールは〝一生の運〟などという意味があり、算出された数ひとつひとつに判定結果が紐づくようになっております。
 自分でつけた筆名を調べてみましたら、どうも〝一生の運〟が低いのです。点数を上げようと姓を変えたり名を変えたり、工夫してもうまくいきません。試しに本名を調べてみたところ、〝一攫千金チャンス運〟ですって。美味しいじゃありませんか、一攫千金(笑)。
 しかし、問題もありました。この姓名判断システムでは「19」という数は全般にあまり歓迎されないのですが、「福田和代」にはサイドとトップの二か所に「19」が現れております。むむむ、あちらを立てればこちらが立たず……と苦悩しながら、職業運であるところのサイドの「19」について説明を読みましたら──。
 「とくに法律、医薬関係、警察関係の仕事が向きますが、もっと変化のある世界をのぞむなら、ジャーナリスト、編集業務、翻訳業、ミステリー作家、事件記者なども最適です」と書かれているではないですか。──これだ! これこれ!
 そんな事情で、筆名を本名に即決いたしました。軽いですね、エヘ。
〝サイドに「19」を持つ女〟として、面白いミステリーを書いて、メデタシ、メデタシ……といきたいものです。

 余談ですが、「和代」と名付けたのは父方の祖父です。
 『姓名判断』の奥付を参照しますと、初版発行は1967年7月1日。今でも奥付の日付より何日か早く店頭に並ぶことが多いので、私が生まれた6月22日には、店先に置かれ始めたかどうか──という頃ではないでしょうか。おそらく祖父は、初孫の命名を頼まれて、本屋さんに駆け込んだのでしょう。新刊コーナーの『姓名判断』が目に止まったのかもしれません。私と祖父は、版は違うかもしれませんが、同じ本を手に取っているらしいのです。祖父はこの本を熟読し、孫のために良い名前を……と、一生懸命考えてくれたのでしょうか。とっくに故人ですので、真相を確認することはできませんでした。
 おじいちゃん、ありがとう。おかげで孫は、ミステリー作家になりました。

 さて、大急ぎで自己紹介をいたします。
 子どもの頃から本好きで、高校では数学が大嫌いだったくせに、当時ハマっていたSFを書くために理系を目指しました。その後ミステリーにもハマり、どちらかと言いますと冒険小説を愛好しておりました。
 大学を出た当時は、金融機関が理系の学生を採用するのが流行っておりまして、私も某金融機関でシステムエンジニア(SE)として働くことになりました。紆余曲折はありましたが、まる19年にわたり(ここにも「19」が!)SE稼業を続け、2007年にデビュー作を刊行したのち、作家専業となって現在にいたります。
 SE時代に、身にしみたことがひとつあります。
「好きでやってる連中にはかなわねえ!」
 SEの中にも、仕事が趣味の一環、という人たちがいらっしゃいます。
 好きでやってる人たちは仕事だと考えておりませんので、深夜だろうが休日だろうが自宅だろうが、おかまいなし。会社や周囲にとって若干迷惑な時も(たまに)あるんですが、そのかわり素晴らしい結果を出すことといったら規格外です。
 できることなら、そういう書き手になりたいものです。
 あ、でも、なるべく周囲にご迷惑をおかけしないようにします(笑)