新入会員紹介

入会のご挨拶 余所者としての立場から

丸山ゴンザレス

 このたび推理作家協会に新入会いたしました丸山ゴンザレスと申します。入会にあたって推薦者となってくださった今野敏先生と貫井徳郎先生には、ここであらためてお礼を申し上げます。
 さて、自己紹介と入会の経緯をまとめて説明したいと思います。私は小説家ではなく、ノンフィクション作家、ジャーナリストと名乗って12年ほど活動をしております。著作のなかにそれほどのヒット作はないのですが、読者の方々を通じた奇妙なめぐり合わせがあったりしました。
 今回、同時入会になった佐藤究さんも光栄なことに私の本の読者のひとりでした。ご存知のかたも多いでしょうが、佐藤さんは2016年に江戸川乱歩賞を受賞しおります。文芸の世界のど真ん中を歩んでいる彼と直接の接点を持つことができたのは、共通の知人である総合格闘家の鈴木信達さん(ONE CHAMPIONSHIP初代ウェルター級王者)を介してのことでした。
 鈴木さんとは、ONE CHAMPIONSHIPのクアラルンプール大会で出会いました。私の通っている総合格闘技ジムにいた選手のセコンドとして同行した際、計量ルームで声をかけられたのがきっかけです。普通だったら挨拶ぐらいで終わるところでしたが、偶然にも私が出版したばかりの本を彼が持っていてくれたのです。このことが縁となり、「日本でも会いましょう」となったわけです。
 鈴木さんが佐藤さんを連れてきてくれたのは、川崎の焼肉屋でした。癖の強い大将に詰められながらの会食ではありましたが、意外なつながりを発見することになりました。この時よりも以前に、私が出演したイベントを観覧に来ていた佐藤さんが挨拶をしてくださっていたのです。佐藤さんから状況を説明していただいたことで記憶が蘇り、「その節はどうも」という感じで仲良く話すことができました。
 また、会食中に、私の出演するTV番組『クレイジージャーニー』(TBS系)について、お互いの取材や執筆に対するスタンス、下世話なネタなど、あれこれと話しているうちに、柔らかい雰囲気になったところで「推理作家協会に入ってみたい」と言ってみることにしたのです。
 急な展開のようですが、実はかねてから文芸畑の人に会うことがあったらお願いしてみたいと思っていました。冒頭でも触れたように、ノンフィクションばかり書いてきた私にとって、文芸の世界は未開拓領域です。同じ出版の業界内とはいえ、小説を書かれる先生方のエピソードなどはまた聞きばかり。いかなる現場も知らないよりも知っていたいスタンスの私としては、せっかく佐藤究さんと接する機会を持てたことを幸いとばかりに、図々しく頼んでみたのです。
 その結果、推薦者となった両先生とお目にかかることができ、分野的には他所者といってもいい私を推薦してもらったという流れです。こうして入会の運びとなったわけですが、なぜこの寄稿が遅れてしまったのかの理由も、私という人間の紹介に絡むので追記させていただきたいと思います。
 すでに述べたようにノンフィクションを生業としているため、取材することが日常となっています。10月は南米に半月ほど滞在しておりました。過去30年で最悪の治安とされているリオ・デ・ジャネイロを取材するためでした。これまでも、メキシコ麻薬戦争やロサンゼルスのギャング、ケニアのキベラスラムといった世界中の危険とされている場所を取材してきたのですが、ブラジルもシリアのような戦場とは別種の危険を孕んでおり、一筋縄ではいかない感じでした。特にファベイラと呼ばれる貧困層の暮らすスラム街は、ほどよく銃声の鳴り響く場所で、日本で培った常識の外にある世界なのだと思い知らされました。
 南米から帰国して2週間後には、タイのバンコクにいました。『暁に祈れ』という映画の舞台を取材していたのです。あらすじとしては、タイで収監されたイギリス人ボクサーが、獄中のムエタイチームに加入することで自分の弱さに向き合いながら戦って、自分の居場所をもぎ取るという実話に基づいたものです。作品のPRのためとはいっても、現在タイは軍事政権ということもあり刑務所のガードは固く、許可がおりませんでした。それでも仕事として受けた以上行かないという選択肢はなく、あちこちに連絡をとりながら、見切り発車と言われても仕方ないですが、航空券をとった2日後には日本から現地入りしていました。
 幸いにもタイ在住の友人たちの協力で通訳、撮影、車両を確保して、役者として出演した元囚人のムエタイファイターや英語が堪能なレディーボーイ(性転換をした男性)たちにインタビューができました。撮影現場となった刑務所廃墟やスラムにも行くことができました。日本に帰国してからは、集めてきた素材の整理とPRの準備に忙殺されていました。
 現在のところ、年間平均すると一ヶ月に一度ぐらいのペースで海外取材に出ています。
 推理作家協会に所属されている皆様も、執筆や取材などでお忙しいかと思います。ですから、私のこのよう生活は特別珍しいものではないかもしれません。ただ、本稿を提出するにあたり、過去作や経歴を単に紹介するよりも、日々の様子をお伝えしてみたほうが私のことが伝わるかなと思い、このような形でまとめてみました。
 まだまだ文芸については不勉強なことが多いのが実情ですが、推理作家協会は私が文芸の世界を知りたくてたどり着いたフロンティアでもあります。私は自分が他所者であることは自覚しております。それだけにノンフィクション作家やジャーナリストとしての経験を軸に積極的に学んでいきたいと思っていますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。