一般社団法人日本推理作家協会

推理作家協会賞

2025年 第78回
2024年 第77回
2023年 第76回
2022年 第75回
2021年 第74回
2020年 第73回

推理作家協会賞を検索

推理作家協会賞一覧

江戸川乱歩賞

2025年 第71回
2024年 第70回
2023年 第69回
2022年 第68回
2021年 第67回
2020年 第66回

江戸川乱歩賞を検索

江戸川乱歩賞一覧

2025年 第78回 日本推理作家協会賞 長編および連作短編集部門

2025年 第78回 日本推理作家協会賞
長編および連作短編集部門受賞作

崑崙奴

受賞者:古泉迦十(こいずみかじゅう)

受賞の言葉

 日本推理作家協会賞と聞いてまず最初に思い浮かんだのが、尊敬する陳舜臣先生も受賞された賞ということでした。本作の元となった唐代伝奇の『崑崙奴』に初めて触れたのが先生の作品からでしたので、そうした連想が浮かんだのかもしれません。
 そんな歴々の偉大な推理作家が連なる賞の歴史に自分の名も刻まれるというのは、まこと身に余る栄誉というほかありません。
 いうまでもなく今回の受賞は20年以上小説家として「眠っていた」私を忘れず声がけし、叱り、励ましていただき、素敵な本に仕上げてくださった編集者のみなさまの存在なくしてはありえないものでした。
 また同時に選考委員のみなさまにおかれましては、この授賞には怠け者の私の尻を大いに蹴り上げる意図もあったはずです。
 そんなみなさまへの自分にできる感謝の仕方はただひとつ、賞の名に恥じない面白いミステリを弛まず、書きつづけることだと思います。ありがとうございました。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
 第78回日本推理作家協会賞の選考は、2024年1月1日より2024年12月31日までに刊行された長編と連作短編集、および評論集などと、小説誌をはじめとする各紙誌や書籍にて書き下ろしで発表された短編小説を対象に、前年12月よりそれぞれ予選を開始した。
 長編および連作短編集部門と短編部門、翻訳部門では例年通り各出版社からの候補作推薦制度を適用。長編および連作短編集部門と翻訳部門では、予選委員による推薦も採用した。なお、評論・研究部門、および推薦枠を持たない出版社からの作品については、従来どおり予選委員の推薦によって選考の対象とした。
 長編および連作短編集部門では59作品、短編部門では640作品、評論・研究部門では46作品、翻訳部門では25作品をリストアップし、協会が委嘱した部門別の予選委員がこれらの選考にあたり、各部門の候補作を決定した。
 本選考会は5月15日(木)午後3時より日本出版クラブ会議室にて開催した。
 長編および連作短編集部門は選考委員・芦辺拓、宇佐美まこと、澤村伊智、葉真中顕、山田宗樹、立会理事・呉勝浩。短編部門と評論・研究部門は、選考委員・喜国雅彦、今野敏、柴田哲孝、月村了衛、湊かなえ、立会理事・真保裕一。翻訳部門(Double Copper Award)は選考委員・阿津川辰海、斜線堂有紀、杉江松恋、三角和代、三橋曉、立会理事・西上心太。各部門ごとに選考会がおこなわれた。
閉じる
呉勝浩[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 それぞれの候補作に対して、△、×の評価で選考委員に投票してもらった結果、他3作品と点差があった『翳りゆく午後』と『詐欺師と詐欺師』が落選となった。残り3作品について『死体で遊ぶな大人たち』はミステリーとしての突破力を強く推す選考委員がいる一方、真相のトリッキーさとその土台となる前提条件に乖離があるのではないかという意見もあった。『崑崙奴』と『伯爵と三つの棺』は全選考委員が好意的な評価をし、 いくつかの指摘についても著しく作品価値を損なうものではないという見解でほぼ一致した。 長い議論の末、強く推す選考委員が少なかった『死体で遊ぶな大人たち』がまず落選し、残り2作に絞られた。同時授賞も検討されたが、特異な世界を描き切る筆力と物語の強さを評価し、最終的に『崑崙奴』の単独授賞に決まった。
閉じる

選評

芦辺拓[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 同時代に出版されるミステリを読むとき、私はいつも2つの相反する要素を期待します。1つはわれわれが今まさに暮らす現実への斬り込み、もう1つは謎解きに特化した架空世界と、その中でこそ成立するミラクルの構築です。この2つは画然と分かれるものではなく、一部ではキメラのように結びついていたりするのですが、今回の候補作では伊岡瞬さんの『翳りゆく午後』がまさに前者の意欲作でした。かつての社会派推理における巻き込まれ型探偵役を彷彿させる主人公が追うターゲットは、自らの老父であり、狡猾なほどの巧妙さで彼が犯したかもしれない交通犯罪を追跡する動機もまた憂鬱そのものでした。
 また対照的な女性2人のバディものにして復讐ゲーム譚か、と私のような浅はかな読者に思わせて、悪夢のような展開に転げ落としてくれた川瀬七緒さんの『詐欺師と詐欺師』においては、われわれの社会との地続きにある悪夢的な世界をデロリと描き出していました。こうした現実への斬り込み派の物語が、やりきれなくもまた割り切れない結末に着地することは1つの必然と言えますが、そんな中で手に取った架空世界構築派の作品の中で、個人的に印象に残ったのは、倉知淳さんの『死体で遊ぶな大人たち』でした。
 ミステリ、ことに技巧的な作品においては意外性や遊戯性、ときに無倫理(アモラル) さや不自然さ、この作品で試みられた不謹慎ささえもが求められるわけですが、意外な犯人にしろ奇抜なトリックにしろ予想外な真相にしろ、ほぼ全てに手あかがつき、想定の範囲内に収まっていることが多い。倉知さんの作風には、そのへんを心得てか、がっぷり四つではなく軽く体をかわすようなところが見受けられたのですが、本作は違っていました。
 ミステリの壁を破る作品は多々あるが、隣の隣のそのまた隣の壁までブチ破ってしまうような凄みに満ちていた。この点は他の選考委員諸氏も認めつつ、推し切れなかったのは、短編連作という形式ゆえに他の作品の〝物語力〟に一歩及ばなかったせいかもしれません。
 最終的に選を争うことになった潮谷験さんの『伯爵と三つの棺』と古泉迦十さんの『崑崙奴』ですが、いずれも過去にして異国という作品世界の構築力が群を抜き、そして拮抗していた。全く個人的な好みとしていくつかの設定に引っかかりつつも、前者の変転する展開にはうなりましたし、後者にみっしりと詰めこまれた歴史の細部に何やら一杯食わされている疑いはありましたが、唐代伝奇の一主人公をミステリに拉し来った剛腕には酔わされ、慎重な論議の末、『崑崙奴』の受賞に至ったのも異論はありませんでした。
 ただ今回浮かび上がってきたのは、「現実への斬り込み」を担うミステリへの高まる期待でした。架空世界の物語でこそ描ける真実もある一方、やはり真正面から斬り結ぶ作品もあってほしい。その期待を結びとして、長編選考2年目の選評とさせていただく次第です。
閉じる
宇佐美まこと[ 会員名簿 ]選考経過を見る
『崑崙奴』『伯爵と三つの棺』にをつけて選考会に臨んだのだが、大方の選考委員の皆さんもこの2作品に高評価をつけておられた。
『詐欺師と詐欺師』、これは両親の仇を見つけ出し、復讐しようとする女性に、凄腕の女詐欺師が加担する話である。しかし、そもそもこの2人の関係性がはっきりしない。経験豊か、クールで慎重な詐欺師が、感情のコントロールのきかない素人娘と出会ってすぐに組むことが不自然。その後の展開にもちぐはぐな面が散見され、受賞候補からは最初に外された。
『翳りゆく午後』、高齢者の運転免許証返納問題、認知症の親の介護に直面する子ども夫婦、独居の高齢者をターゲットにする犯罪者など、現代社会が抱えるホットな素材が満載。平凡な高校教師である主人公が自分や家族を守ろうと画策するうち、どんどん状況が悪くなっていく様子がリアルに描かれていた。しかしどこにでもいそうな主人公の家庭が崩壊してしまう結末はやりきれない思いがした。犯罪者たちの企みが、結局は警察の捜査でパタパタと暴かれてしまうのも肩透かしを食らった印象だった。
『死体で遊ぶな大人たち』、選考委員の中でも評価が割れた作品だった。どのトリックも斬新でアイデアに溢れ、虚を突かれる。謎解き役も魅力的。だが、解明はされるが物証はない。こう考えれば辻褄は合うなとは思うが、小さな瑕疵も目につく。そうした細かいところに拘泥せずに、トリックと謎解きを楽しみなさいよ、と言われればそれまでだし、おそらく作者もそこを狙って書いたのだろうとは思うが、最後までこの世界観を受け入れられなかった。
『伯爵と三つの棺』、18世紀のヨーロッパの小さな王国という舞台装置での地に足がついていないような展開にやや鼻白んだ。ファンタジックな作りものの物語を読まされている印象ががらりと変わるのは、ラスト。やっと決着を見たと一息ついた後のサプライズ。二重、三重の底を開いていくような真相の解明は見事だった。それも事件から数十年経った後、心を通わせた登場人物2人の書簡のやり取りで明かされるところには、哀愁さえ感じられた。他作品にはない心に響くものがあった。
『崑崙奴』、読み進むにつれ、中国唐代における壮大な物語が目の前に繰り広げられた。詰め込まれた膨大な情報、緻密に組み上げられた構成、魅力的な登場人物たち、これらをまとめ上げる作者の圧倒的筆力には舌を巻いた。人々の思惑や企み、因縁、時代背景などが、犯罪の裏側を複雑怪奇なものとしていて読みごたえ充分。当然、最後はこれと『伯爵と~』が残った。私は『伯爵と~』のラストの秀逸さが忘れられなかったが、やはり全体としての完成度は『崑崙奴』が勝っているとする皆さんの意見に最終的には賛成した。
閉じる
澤村伊智[ 会員名簿 ]選考経過を見る
『詐欺師と詐欺師』は語り手と依頼人、2人の女性詐欺師のキャラクターが魅力的に感じられた。語り手が決定的なトラブルもなく次々と駒を進める展開はご都合主義スレスレだが、自分にはとても痛快だった。ただ、ラストに待ち受ける真相は広義の操りパターンとして凡庸な印象を受けた。また、その根拠も要約すれば「物凄いお金持ちで賢いからできたんです」というもので、かなり乱暴に思える。そのため、著者が意図したであろう負のカタルシスを味わうことは、自分には難しかった。
『翳りゆく午後』は候補作で唯一、現代の社会問題をメインに扱っており、主人公と同世代なのも相俟って自分事として読むことができた。基本的に「主人公が父親の身辺を探る」という話なのだが、父親のドライブレコーダーを確認するくだりをはじめ、どのパートもスリリングで、いい意味で下世話な覗き見願望を満たしてもらえた。だが、自分としては大賞に推す決め手に欠け、「他の選考委員に強く推す方がいたら賛同しよう」と選考会に臨んだが、他の方々も似たような熱量だったらしく、受賞には至らなかった。
『死体で遊ぶな大人たち』は本格ミステリの抽象美を追求した点において、候補作中最も好みの作品である。連作の「意外な繫がり」は正直、誰でも予想が付くだろうが、他の選考委員の方々の意見を聞く中で、むしろ歓迎すべきお約束だと認識を改めた。が、連作4作のいずれの真相も弱く、小説を読んだことの満足感が候補作中最も少なかった。また、本作のタイトルは米国産ホラー映画「死体と遊ぶな子供たち」のもじりだが、表題作はそのオマージュでもパロディでもなく、それ以外のいかなる関連も見出せない。いち読者としてなら瑕疵ですらないが、5作から1作を選出する場において、また所謂ホラー小説をメインに書いている身として、この点はマイナス要素と見なさざるを得なかった。
『伯爵と三つの棺』はただのミステリであることに徹底的偏執的に拘った作品である、と受け取った。なので作中の事件がたった1つであることは、むしろ美点と捉えたい。時代設定と登場人物の有様が密接に結び付いている点も素晴らしい。当初は『崑崙奴』との同時受賞も妥当だと思っていたが、他の選考委員から現代ミステリとしての致命的な欠点を指摘され、考えを改めた。
『崑崙奴』は本格ミステリとして読んだ場合、著者の意図したであろう構造が実際に物語で表現されているか、疑問に感じられた。また、「他の人物の証言で語られるのみで直接登場しない人物」が私の感覚では多過ぎて歪な印象を受ける。しかし、ミステリ以外の要素がそれらを補ってあまりある。唐代の長安という舞台も、蘊蓄も、沢山のキャラクターたちも、ただただ愉しい。肝心の崑崙奴の正体が全く明かされないことさえも、物語を書く上ではむしろアリ、とねじ伏せられた。
閉じる
葉真中顕[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 文学賞の選考会という場は、候補作のみならず選考委員自身もまた試される場なのだということを実感した選考会になった。
『詐欺師と詐欺師』。冒頭のエピソードからぐいぐいと読者を引っ張ってくれるものの、設定、ストーリー展開ともに無理が多いと感じた。藍のような凄腕の詐欺師がなぜみちるのような危なっかしい若い女性と組むのか。他にも事件が起きるタイミングや、みちると探偵の関わりなど、整合性に疑問がある箇所が散見された。
『翳りゆく午後』。私は本作を父親と自分と息子、3代にわたる男系家族の呪いの物語として読んだ。我が身を振り返り身につまされる箇所も多々あった。ただ、大手マスコミが轢き逃げ事件で逮捕前の参考人の個人が特定できるような報じ方をするなど、現実とややかけ離れた悪意をつくってしまっている点は小説の全体のリアリティと整合がとれていないと感じた。大変興味深く読ませてもらった作品だが、強く推すことはできなかった。
『死体で遊ぶな大人たち』。本格ミステリだからこそ許される冒涜的な死体トリックのつるべ打ちを大いに楽しく読んだものの、無理を感じてしまった部分も少なくなかった。たとえば、死体の腕にある証拠を隠すため大がかりなトリックを用いた犯人が、肝心の死体をなぜ発見されやすい河原に放置するのか、など。ただし本格ミステリとは犯罪のリアリティは度外視してパズルを楽しむものだと言われれば、そうかもしれない。強く推す委員もいた。選考委員の顔ぶれが違えば十分受賞があり得た作品だと思う。
『伯爵と三つの棺』。本作と受賞作の『崑崙奴』どちらを推すかぎりぎりまで悩んだ。ヨーロッパの小国の城で起きた殺人事件の真相が、大きな歴史のうねりと響き合う終盤の展開は圧巻である。ただ、作中に睡眠薬として登場するラナダウム(アヘンチンキ)の扱いに問題を感じた。事実としてアヘンチンキには再現性のある睡眠薬としての効能はない(薬剤師に確認した)。普通なら目をつむるのだが、本作は作中で「物語の中で魔法の効能はそういうものとして大目にみてもらえるが、薬ではそうはいかない」という意味の議論を展開し、しかもそれが推理の根拠になっている。メタ的に著者が作品内に設定したルールを自分で破っていることになるのではないか。特にこの点が気になり、推せなかった。
『崑崙奴』。舞台は個人的にまったく馴染みのない唐代の中国。出てくる言葉もタイトルの崑崙奴をはじめ馴染みのないものばかり。それでもすらすらと、あっという間に読めてしまった。ほとんどの読者が知らないであろう情報を上手く整理し退屈させずに読ませる文章力は高く評価されるべきだろう。超自然的な力の存在を信じる当時の人々の事件のリアリティを、科学的知識を持つ現代の読者にも納得させるように描く構造も優れている。それでいて最後に超現実的な飛躍をみせるのは、まさに小説でしかなしえない表現になっていたと思う。ミステリ的な謎解きの要素が弱い点は気にはなったが、本作の場合は弱いのではなくミステリを超えているという捉え方もできるだろう。本作を推すと決めて選考に望み、結果的に全選考委員の賛同を得て受賞を決めることができた。
 古泉迦十さん、おめでとうございます!
閉じる
山田宗樹[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 どの作品からも学ぶところが多く、また読者としては至福の時間を過ごさせていただきました。作者の皆様方に御礼を申し上げます。

『翳りゆく午後』
 たしかな筆力によって紡がれた作品であり、不穏な空気を描出する手腕には唸りました。読者をラストまで一気に引っ張っていく力強さには文句のつけようがありません。1つだけ引っかかったのは、武から「人を轢いたかもしれない」と告げられた敏明が、武の車を真っ先に調べようとしなかったことです。「他人事ではない」と思うほどリアルに迫ってくるストーリーだっただけに、このあたりの敏明の言動をやや不自然に感じました。
『崑崙奴』
 紛うことなき力作でした。磨勒、裴景、兜、九娘ら登場人物の造形も周到で、彼らの軽妙なやりとりも楽しく、テンポのいい文章ともあいまって、ともに帝都長安を奔走しているような気分を味わえました。晩唐の伝奇小説に材を取りながらも、大唐帝国を舞台にした独自の〈青童伝説〉を新たに編み上げ、それを重厚な本格ミステリとして語り切る豪腕には、脱帽するしかありません。二重三重に野心的な試みに挑んで見事に成功し、磨勒のごとく底知れぬ魅力をもつに至った作品であり、受賞作に相応しいと思います。
『詐欺師と詐欺師』
 先の読めない展開で最後まで楽しめました。上条みちるのユニークなキャラ、冷徹になりきれない伏見藍の人間味、秋重が登場したときの描写にも複雑な背景を感じさせるなど、上手さが随所に光ります。ただラストに関しては、たしかに衝撃的なのですが、急加速が過ぎて読者としては振り落とされた感もあります。この真相であれば、もっと踏み込んだ伏線を張っていただきたかったというのが正直なところです。
『死体で遊ぶな大人たち』
 4編とも面白く拝読しました。「それを情死と呼ぶべきか」の消去法によるロジックの構築は素晴らしく、「本格・オブ・ザ・リビングデッド」のトリックの奇抜さには思わず声を上げたほどです。最終作で明かされる仕掛けも楽しく、満足度の高い一冊ではあったのですが、残念ながら、連作短編という形式の不利をはねのけるには至りませんでした。
『伯爵と三つの棺』
 小説を1つの建物に例えるなら、基礎部分がしっかりしているため、安心して物語の世界に浸れました。周到な伏線による多層的な謎解きの面白さもさることながら、1つ1つの謎が歴史のうねりの中に丁寧に織り込まれ、物語の推進力を増す効果も上げています。ストーリーテリングも安定していて、社会の底辺に生まれた三兄弟の心情など、人物描写にも過不足ありません。最大の真相が本編(手記)とは別の私信という形で明かされる構成になっていますが、これにより本編で虚偽の記述が許容される仕組みになっており、上手いやり方だと感服しました。いくつか瑕疵らしきものが見受けられたこともあり、惜しくも受賞は逃しましたが、同業者として賞賛に値する仕事をされたと思います。
閉じる

立会理事

選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第78回 日本推理作家協会賞 長編および連作短編集部門  
『翳りゆく午後』 伊岡瞬
[ 候補 ]第78回 日本推理作家協会賞 長編および連作短編集部門  
『詐欺師と詐欺師』 川瀬七緒
[ 候補 ]第78回 日本推理作家協会賞 長編および連作短編集部門  
『死体で遊ぶな大人たち』 倉知淳
[ 候補 ]第78回 日本推理作家協会賞 長編および連作短編集部門  
『伯爵と三つの棺』 潮谷験