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1978年 第24回 江戸川乱歩賞

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1978年 第24回 江戸川乱歩賞
受賞作

ぼくらのじだい

ぼくらの時代

受賞者:栗本薫(くりもとかおる)

作家略歴
~2009.5.26
一九七五年、早稲田大学第一文学部文芸科卒。七七年、中島梓名義の「文学の輪郭」で「群像」文学新人賞評論部門を受賞。七八年、「ぼくらの時代」で江戸川乱歩賞を受賞。七九年、「絃の聖域」で第二回吉川英治文学新人賞を受賞。この年スタートの「グイン・サーガ」シリーズは外伝を含めすでに八〇巻を越える。2009年『グイン・サーガ』にて第30回日本SF大賞特別賞を受賞。そのほか、「魔界水滸伝」シリーズ、「名探偵伊集院大介」シリーズなど、栗本名義の著書は約三五〇冊に。音楽・演劇活動も多い。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
 本年度江戸川乱歩賞は、一月末日の締切日迄に応募総数一九六篇が集まり、予選委員(阿部主計、小林久三、氷川瓏、瀬戸川猛資、松坂健の五氏)により最終的に左記の候補作五篇が選出された。
 盲執の人      二瓶 寛
 ぼくらの時代    栗本 薫
 狙撃        福田 洋
 タリア       樽谷 新
 バイキング号の遺産 帰山六郎
 この五篇を、本選考委員が回読し、六月二十九日(木)、帝国ホテルにおいて、佐野洋、陳舜臣、仁木悦子、半村良、権田萬冶五氏の出席のもとに慎重なる審議の結果、栗本薫氏の「ぼくらの時代」が第二十四回江戸川乱歩賞受賞作に決定。
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選評

佐野洋[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 贈賞作にきまった『ぼくらの時代』には、私ひとりが、異を立てた形となった。この作者の才能、感覚の新しさを認めるには、やぶさかでなかったが、この作品に関する限り、いわゆる『真相』と、前半部とが、アンバランス過ぎるように思われたのだ。このことについては、作品が活字になった段階で、何かの形で触れてみたい。しかし、江戸川乱歩賞には、有能な新人を発掘するという役割りもあるのであり、この作者の将来の飛躍に期待して、最後には賛成に回った。
 ほかでは、『タリア』に捨てがたいものを感じた。これまでの応募作品にも、外国を背景に持ったものが多かったが、それらのほとんどは、舞台を外国にする必然性がわからないものであった。その点、この作品は、フィンランド、スウェーデン、オランダ等が舞台になることによって初めて成り立つものであり、構成も比較的しっかりしていた。ただ、余りにも都合よく、筋が運び過ぎる点や、粗雑な表現が少なくない点などを他の委員から指摘され、その点については同感だったので、強く推すことに躊躇せざるを得なかった。しかし、二十代という若さなのだし、今後も挑戦されることを――。
 『狙撃』は、実際の事件に材をとった。言わば犯罪実録である。推理小説の枠を広く考えるのには反対ではないが、これをも推理小説と呼ぶ確信は、私にはない。犯罪ドキュメントは、それ自身が、一つのジャンルとして独立しうるものではないだろうか。また、犯罪ドキュメントとして読んだ場合も、作者が、なぜこの事件を書く気になったかが、読者に伝わって来ないうらみがあった。
 『盲執の人』『バイキング号の遺産』は、ともに着想は優れていたものの、小説としては未成熟であった。
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陳舜臣[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 栗本薫さんの『ぼくらの時代』を推そうと思って選考会に臨んだ。私が感動したのは、この世代の作家が、ついに自分たちのことばで、自分たちの小説をかきはじめた、という事実であった。キラと光るのは、借りものでないからであろう。こまかい欠点を指摘しようとすればキリがなく、姉妹にはないものねだりになりかねない。「大行不顧細謹」である。この作品が受賞作ときまって私は満足している。唯一の不満は、この作品を読むと自分の年令を意識させられる口惜しさである。
 福田洋さんの『狙撃』はレベルは低くなかったが、推理性に乏しいという、乱歩賞にとっては最大の難点があった。やんぬるかな、というかんじであった。
 樽谷新さんの『タリア』は、辻褄を合わせるのに、相当の無理をしている。いつもいうことだが推理小説には、いくばくかの強引さや偶然性は避けられないが、リアルなタッチの作品には、おのずからそれの許容限度があるはずだ。この作品はそれを踏み越えている。将来性のある人なので、つ通俗的な表現は避けて精進してほしい。
 帰山六郎さんの『バイキング号の遺産』は、ほのぼのとしたムードが漂って好感がもてたが、一方にパンチ力の不足があった。シチュエーションがたいそう面白いのに、それだけに残念である。
 二瓶寛さんの『盲執の人』は推理小説にしないほうがよかったようだ。欠点はすべて推理仕立てにしたところに出ている。
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仁木悦子[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 今年の最終選考に残った五作は、それぞれに読んでおもしろく書かれていた。粒がそろっていた、と言ってよいと思う。
「盲執の人」は、紫式部の死のなぞを清少納言が解くという興味ふかい設定なのだが、文章が説明的にすぎた。風景や風俗の描写、会話の言葉づかいなどに、平安時代らしい雰囲気を出す工夫が欲しかった。
「タリア」は、構成も文章も、まじめに丁寧に書き上げてある点、好感がもてたが、地味で臨場感に乏しいうらみがあった。
「バイキング号の遺産」は、幕末の離れ小島を舞台に、座礁したアメリカ商船の中で起った殺人のなぞをジョン万次郎が解くという、これも凝った設定で、初めて外国人に接した村人たちの驚きや当惑などがよく書けていた。ただし、事件が主人公たちに直接関係ないため、サスペンスが盛り上らないのと、なぞの解決にあっけなさを感じた。
「狙撃」は、重量感のある力作だが、作品の性格が江戸川賞の対象として適当かという点が論議の的になった。しかし、ノンフィクション文学としては、レベルの高い作品である。
 受賞作「ぼくらの時代」は、テレビ局の内部で起った事件をアルバイトの若者が記述する形式で、推理小説として多少の無理はあるものの、会話、描写等がしっかりしており、ユーモラスな中に若い世代の悲しみや怒りも感じさせる。なんといっても若い人でなければ出せないみずみずしさが印象的だった。
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半村良[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 文章が乱調なのではじめから入賞はあきらめてしまったが、一番面白く読んだのは「タリア」だった。まったく惜しい。文章と署長の過去を修正すれば名作になるかも知れないと思った。
 「狙撃」も実力充分。ただ視点が少しフラついていた。それに、乱歩賞の性格とあい容れない面があって落ちてしまった。
 「ぼくらの時代」は戯画化したスタイルでトクをしたが、今後トリックなどと本格的に取り組んで欲しいと思う。
 「バイキング号の遺産」も時代考証に乱れがなく、よい作品だったが、犯罪と述者のかかわりが希薄すぎた点が失敗だったように思う。
 「盲執の人」はまずこの時代から描く文体を充分開発してかからないと苦しい。隆家という人物の軽い病眠に何の解釈もなされないのが気になったし、その他の設定にも一、二疑問があって落ちた。しかし、五作とも力の入ったいい作品で、読んでいて大変緊張させられた。栗本さんのこの文体での受賞をきっかけに、二十代の人たちの抬頭を期待してやまない。
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権田萬治[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 栗本薫の「ぼくらの時代」はテレビ局を舞台にした作品で、語り手にも登場人物にも若い世代のみずみずしい新鮮な感覚があふれていて楽しめた。初期の都筑道夫の作品のように語り口を鋭く意識した文体と結末の意外性など、推理小説的な味わいが濃いのも好ましい印象を受けた。殺人方法やトリックを個々に検討するといろいろ問題があり、とくに結末の意外性を発揮するための設定にはかなりの無理がある。けれどもクリスティーの「オリエント急行の殺人事件」にしても極端な人工的設定を取り去ると魅力がなくなってしまうので、私はこれはこれでいいと考えた。多少欠点はあるが、若い才能のひらめきに期待して授賞作に推した次第である。
 福田洋の「狙撃」はシージャック事件を事実に基づいて再構成した犯罪実録小説である。戦前の探偵小説には甲賀三郎の「支倉事件」や山本禾太郎に「小笛事件」などこの種の小説も含まれており、作品の水準もかなりいい線をいっているので、乱歩賞の対象にこのような実録小説を含めるべきかどうか正直のところ私は大いに迷った。ただ、トルーマン・カポーティーの「冷血」などに比べると、豊富な資料をもう少し小説的に消化すべきではなかったかと思う。
 樽谷新の「タリア」など他の作品にもそれぞれ個性的な魅力が感じられたが、残念ながら作品の水準はこれら二篇に及ばなかった。いずれにしても今回若い世代が受賞したことはまことに喜ばしい現象と考える。
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選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第24回 江戸川乱歩賞   
『盲執の人』 二瓶寛
[ 候補 ]第24回 江戸川乱歩賞   
『狙撃』 福田洋(『凶弾 瀬戸内シージャック』として刊行)
[ 候補 ]第24回 江戸川乱歩賞   
『タリア』 樽谷新
[ 候補 ]第24回 江戸川乱歩賞   
『バイキング号の遺産』 帰山六郎