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1948年 第1回 日本推理作家協会賞 長編部門

1948年 第1回 日本推理作家協会賞
長編部門受賞作

ほんじんさつじんじけん

本陣殺人事件

受賞者:横溝正史(よこみぞせいし)

作家略歴
1902~1981
神戸市生れ。大阪薬専卒。
一九二一年、「新青年」に「恐ろしき四月馬鹿」を発表。二六年、博文館に入社して「新青年」を編集、のちに編集長。三二年に作家専業となり、「鬼火」「蔵の中」などを発表。戦後は本格物に力を入れ、四八年、金田一耕介の初登場する「本陣殺人事件」で探偵作家クラブ賞長編賞を受賞した。「獄門島」「八つ墓村」「悪魔が来りて笛を吹く」「病院坂の首縊りの家」など作品多数。クラブの幹事や協会の理事、ならびに江戸川乱歩賞や協会賞の選考委員をつとめる。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

江戸川乱歩[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 詮衡事情

 昨年十二月二十九日、大下、木々、水谷、角田、城、延原、守友、江戸川の在京幹事が集合して、クラブ賞授賞作品詮衡の打合せを行った。この会合に先立ちクラブ全会員に、長編三篇、短篇十篇の優秀作推薦を乞ふ印刷物がすでに発送されてゐた。打合せ会では詮衡方法として次の事が決定された。
一、授賞は作家本位か作品本位かの問題が検討され、結局作品本位とすることに意見が一致した。すなわち授賞候補として同一作家の作品を幾つ推薦してもよい立前を採ることにした。
一、授賞は長篇、短篇の二種とし、前者の副賞は二万円、後者の副賞は一万円と決定した。
一、名目は昭和二十二年度からであるが、今回に限り、戦後から二十二年末までに発表された作品中から候補作を選ぶことゝした。
一、詮衡委員として左の十名が選ばれた。(五十音順)
 海野十三、江戸川乱歩、大下宇陀児、木々高太郎、城昌幸、角田喜久雄、西田政治、水谷準、横溝正史、森下雨村
☆ 前記全会員の候補作推薦は一月七日を〆切としたが、数日後まで待って到着したもの、全部を有効とした。推薦書を送られたのは三十名で、全会員の約三分ノ一に過ぎなかった。他の多くの会員諸君は広く作品を読んで居られなかった為、局部的な知識によって推薦投票するのは妥当でないと考へ、棄権されたものと想像する。
 この推薦の要数を事務担当者が集計し、三人以上の推薦を得た作品を拾ひ、後に揚げた上段の表を作製した。票数の多いものから並べたが、同一票数の作については、豫め会員諸君に優秀度の順序に従って推薦作品を記入するやうに依頼してあったので、その順位の高いのもを先にした。
 この表の中、長篇は全部、短篇は十三位までを印刷し、参考資料として十名の詮衡委員に送付し、一月の土曜会までに各委員の採点票を作り返送されるやう依頼した。採点の標準は従来の最傑作と同列のものを一〇〇点とし、辛うじて雑誌に載せ得る程度のものを五〇点として、その中間の適宜の点数をつけて貰ふやうにした。
☆ 一月三十一日土曜会閉会後、東京詮衡委員大下、木々、水谷、城、江戸川の五名が会合して最後的決定を行った。角田委員は当時病気の為出席出来ず、又採点表も間に合はなかったので、電報によって一切を右の五名に一任された。随って委員の採点表は九通しかなかったわけである。
 この在京委員会では先づ、戦後現はれた新作家の作品中最高点の一篇に新人賞を与へることが決議された。
 右の九通の委員採点表を事務担当者が集計し(五名の委員の大部分が有力な入賞候補者である関係上、感情的な残滓を残すことを避ける為に一々の採点表を委員自らは見ないことにした)二人以上に推薦された作品を点数の多いものから並べて左の下段の表を作製した。
 この集計に当って、詮衡委員の多数が同時に被推薦者でもある点が考慮され、被推薦作を持つ委員が自分の採点表に自作を記さなかった場合は、その委員の被推薦作中最高点の作に与へられた総点数を推薦者数(票数)で割った平均点を、その総点数に加算し、且つ票数に於いても一票を加へることゝした。さうして出来たのが左の下段の表であり、夫々の最高点作を採って、冒頭の授賞作が決ったわけである。

会員投票結果
 長篇の部
順位 作者     作品                掲載誌    票数
1  横溝 正史  本陣殺人事件            宝石     26
2  角田 喜久雄 高木家の惨劇(別名 銃口に笑ふ男) 小説     19
3  横溝 正史  蝶々殺人事件            ロック    14
4  守友 恒   幻想殺人事件            単行     2
 短篇の部
1  大下 宇陀児 柳下家の眞理            宝石     15
2  角田 喜久雄 怪奇を抱く壁            毎■ニュース 12
3  久生 十蘭  ハムレット             新青年    12
4  横溝 正史  探偵小説              新青年    12
5  水谷 準   R夫人の横顔            ロック    8
6  角田 喜久雄 緑亭の首吊男            ロック    8
7  木々 高太郎 新月                宝石     7
8  大下 宇陀児 不思議な母             ロック    7
9  香山 滋   海鰻荘奇談             宝石     7
10  香山 滋   オランペンヂクの復讐        宝石     6
11 山田 風太郎 みさゝぎ盗賊            ロック    6
12 角田 喜久雄 霊魂の足              宝石     4
13 飛鳥 高   犯罪の場              宝石     4
14 木々 高太郎 紫陽花の青             宝石     3
15 水谷 準   カナカナ姫             新青年    3
16 大下 宇陀児 狂女                サンデー毎日 3
17 渡辺 啓助  盲目人魚              宝石     3
18 西尾 正   幻想の麻薬             新探偵小説  3
19 水谷 準   青春の悪魔             ロック    3

 詮衡委員採点表
 長篇の部
順位 作者     作品                票数  点数
1  横溝 正史  本陣殺人事件             9   786
2  角田 喜久雄 高木家の惨劇             8   605
3  守友 恒   幻想殺人事件             5   360
4  横溝 正史  蝶々殺人事件             2   130
 短篇の部
1  木々 高太郎 新月                 7   582
2  久生 十蘭  ハムレット              7   579
3  角田 喜久雄 怪奇を抱く壁             7   555
4  横溝 正史  探偵小説               7   536
5  大下 宇陀児 柳下家の眞理             7   519
6  水谷 準   R夫人の横顔             6   501
7  大下 宇陀児 不思議な母              5   405
8  香山 滋   海鰻荘奇談              4   285
9  角田 喜久雄 緑亭の首吊男             4   280
10 香山 滋   オランペンヂクの復讐         4   270
11 山田 風太郎 みさゝぎ盗賊             3   244
12 飛鳥 高   犯罪の場               3   229
13 久生 十蘭  預言                 2   180
14 覆面 作家  ねぼけ署長              2   180
15 水谷 準   カナカナ姫              2   175
16 角田 喜久雄 霊魂の足               2   164
17 海野 十三  千早城の迷路             2   140
18 城  昌幸  憂愁夫人               2   120

 我々在京委員が態々集った意味は、若し集計の結果入選した作品が非常に不適当なものであった場合には、必ずしも点数に拘泥せず、その席上再検討して最も妥当な入選作を決定する考へだったからである。しかし、現はれた結果は、入賞作品に関する限り、大体に於いて妥当であって異議を挟む余地がなかったので、集計の結果をそのまゝ採用することにした。尤もその席に列ってゐた木々君は「新月」は既に他の文学賞にも入選してゐるのだからと辞退されたが、さういふ重複は少しも差支えないといふ一同の意見が勝おき占めた。
☆ 上記の詮衡方法を頭に置いてこの表をよく見てゐると、なるほどと肯かれること、不当と思はれること、いろゝ興味深い感想が浮かんで来るが、今はそれらを語ってゐる余白がない。ここにはたゞ次年度詮衡の参考の為に、左の二点について記しておくこととする。
 その一つは、古い作家達がお手盛りで詮衡委員となり、自分達の作品の中から入賞作を選ぶのは妥当ではないといふ点。これは一應その通りであるが、実際問題として、他にこれに代る十分信頼出来る委員会を求め得るかといふと、それは甚だむづかしいのである。旧人達が新人の抬頭を妨害するやうな惡意を持たない限り、現在としてはこれが最上の方法のやうに思はれる。(次年度の詮衡委員は又改めて選ばれる。現在新人と云はれてゐる作家の内にも之に加はる人があるかも知れない。)
 それなら少なくともお手盛りはやめて、新人推薦だけにしたらといふ考へ方もあるが、現在の状況では、新人だけではやはり物足りない。その年度の最高作品を選ぶといふのは十分意味のあることで、最高作品となると、今のところではどうしても旧人のものを採らざるを得ない。旧人を除外してしまっては非常に淋しい結果となる。アメリカの探偵作家クラブでは毎年、小説、映画、ラヂオ、評論等のベスト・ワンを選んで授賞するが、別に新人賞といふものはなく、新旧ひっくるめてのベスト・ワンを選んでゐる。しかし、日本の場合は現在のところ、この方法では旧人のみが入選することゝなり、新人推薦の道が閉される心配があるので、アメリカ式を採らず、別に新人賞を設けたわけである。
☆ 今一つは、今度の詮衡で作品主義を採ったのは誤りではなかったかといふ点である。同一作家の作品をいくつ推薦してもよいといふ立前であった為に、ある場合には票数並に点数がその作家の最高点作に集中されず、同じ作家の第二位以下の作に分散され、その作家にとっては不利な事情になったのではないかといふことである。尤もこれは一寸考へて感じるほど不利なのではない。一例をあげると香山君の場合、大多数の推薦者は「海鰻荘」と「オランペンヂク」の両方を同時に推薦し、各々に妥当と信ずる点数をつけてゐるが、この場合は決して票数及点数の分散にはならないからである。しかし稀には高点の「海鰻荘」ではなくて、次点の「オランペンヂク」のみを推薦してゐるものがないとは云へぬ。そのパーセンテージは極く僅小ではあるが絶無ではない。この場合にはやはり高点作の票数と点数とをそれだけ分散されたわけで、その作者にとっては不利に相違ないのである。次年度の詮衡にはこの点を再考慮しなければならないと思ふ。
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選評

海野十三[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 私は詮衡委員の末席を汚した。本当にそれを汚したと思ひ、懺愧たえない。この時勢のこと故、活字になったすべての探偵小説を集めることは甚だ困難だった上に、病体の私は喀血を友として世田谷の寓居にすっこんだまゝで、たまたま贈られた書籍雑誌の中からほんの一部を拾って読んだに過ぎない。これでは詮衡委員の資格なしである。
 だが、横溝正史氏の諸作は、目についただけのものを全部読んだ。そしてもし氏の執筆がなかったら昨年のわが探偵小説壇は、停電に豆ランプを照けてゐる程の寂寥と空虚の中に沈滞してゐたことだらうと感じた。殊に『本陣殺人事件』はトリックに於て香気に於て麗董に於て、正常な時代に於ても正に最高峰を行く作品であり、これが敗戦直後のわが出版界に捧げられたために探偵小説壇全体が奇蹟的に生気を取り戻したその功績は、永久に記憶され賞賛さるべきであると信ずる。
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大下宇陀児[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 長篇短篇共に、最初の予選で選ばれたものは、兄たり難く弟たり難く、というところがあった。一等としてどれを選ぶか、自分一人に任せられても決定し難く、また数人でやっても、議論をしたら、やはり決定が出来なかったと思う。そこで各委員が採点するということになり、採点の結果を機械的に合計したわけである。
 これだったら、むしろ、予選の時に、会員から採点してもらい、それだけで決定した方が公正ぢゃなかったかと、あとで思ってみたが、そういう方法も、次の時は考えてみる必要があるだろう。
 但し、仕事の量、その意義、その人、という点から、大体はよい選であったとは言えるのである。
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木々高太郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
      1
 長篇については、現在のまゝ、毎年第一等の作品をきめ度い。つまり、新旧作家こぞってよりすぐる。ひょっとして毎年同一作家が当選してもよい。五年-十年で、更にそのうちのベストをきめるのも面白い。
      2
 短篇については長篇の場合と少し違って、と言ふのは長篇の場合は、異議なく本格探偵小説を基準としてゆるがないでよいが、短篇の場合は、広くミステリイ、サスペンス文学をこめてやるのがよいといふのが小生の考へである。従って当選者も或時は二三人になってよくはないか。
 若しさう考へると、今年のやうに、点数計算制だと、正確で異論の余地がなくなるから、別の方法をとりたい。(今年小生が短篇当選になったのは点数制であったからであると考へる)こゝに異論と言ふのは、席上で抱懐する選案を出せると言ふことで、それは広くする場合には必ず必要である。
      3
 新人賞はよかった。これは江戸川乱歩発言で設けることになったがそれを短篇だけに限って設けたのはよかった。これは、今年の点数制では是非必要であった。但し右にかいた別の方法では、これはなくても、新人がはいれるように出来る。
      4
 さて、今年の長篇横溝氏、それから短篇の小生と香山氏、この三つが探偵文壇の代表作とすると、いづれも小生は正直に言ふと、これではまだ不満足で、来年は更に一層の傑作、更に一層の新作を希望する。今年の作は基準とする作といふよりも、これを踏み台にして、もっと階段を上らなくてはいけない意味で、まづ止むを得ないと感ずるに過ぎない。
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城昌幸[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 横溝正史、木々高太郎、香山滋、三氏が、選に当った、といふことを知った時、僕は、次に二つのことを直ぐ考えた。
 一つは、この当選決定は、至極当然であるといふこと、無難といふ以上の無難である。恐らく、何人もこれについて異議を差し挟む余地はないであらう、といふことだ。
 これは、すっきりとしてゐて好い。
 二つは、人間の情熱といふことだ。
 当選三氏とも、探偵小説―いや、その己の仕事に全精神を打ちこみ、のめずり込んでゐる。このひた向きな情熱、それが立派に物を云ったのである。
 あらゆる事業は、情熱の上に打ち樹てられる。僕は、今更のやうにこの眞理を確認し加へて瞠目した。ケレンや見てくれは物にならないのだ。
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角田喜久雄[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 私は病気臥床中のため詮衡委員会に出席出来なかったが詮衡の結果は誠に申分なかったと思ふ。横溝氏の本陣がその作品償値のみでなく戦後の探偵小説界に与へた刺戟は計り知れぬものがあり、この栄誉は当然すぎるほど当然だし、又木々氏の戦後一連の労作の償値は今更私が云々する迄もない。新月など探偵小説のアジクトの中に一部難解だといふ評も行はれてゐるが却ってさうでないナイヴな読者の中に深く理解されてゐる事実を知ってゐる私は木々氏の文学はもっと検討され再認識する必要があるのではないかとさへ思ってゐる。だが、今度の決定で何より喜ばしかったのは予定になかった新人賞の追加で、探偵小説賞は新人賞だけでよいとさへ思ってゐた私には殊にうれしいことだし、香山氏がその選に入ったことも万目の帰する所で当然であると思ふ。このことが香山氏始め新しい人達によい刺戟となり力作の輩出となることを信じて疑はない。心から三氏にお祝ひを申上げたいと思ふ。
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西田政治[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 今度のクラブ賞では短篇の決定が問題であったと思ふ。長篇では横溝正史君の"本陣殺人事件"は万目の見るところで、何の不思議もないであらう。戦後、病躯に鞭うちつゝ勇敢にも本格長篇と取り組んだ彼の努力が報はれたと云ってもいゝ。短篇の木々高太郎は、その探偵小説芸術論をあくまでも押し進めてゐる自信の強さを買はれたものだらう。"新月"は小説としては立派な作品かも知れないが、凡愚な探偵小説ファンにとっては、もう一つうなづきかねるところがある。探偵小説の花園に生れた変り姫として、珍重すべきものかも知れないがこれがその花園を代表するものとは言ひかねる。久生十蘭、横溝正史、角田喜久雄、水谷準、大下宇陀児氏あたりにその代表する正系統のものがあるやうに思はれてならない。新人香山滋氏の決定は異存のないところ。彼氏の持つ特異な作風に対しては、早くから傾倒してゐたのであるから、萬々歳を叫びたい。
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水谷準[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 短篇賞については、結局旧人の間での盥回しが予想される意味で、僕は異論があったが、別に新人賞を設けるといふので、一應賛意を表した。併し次回からは、眞に受賞の意義に徹した「新しさ、強さ」が認められぬ限り、單なる努力賞的形式主義は、旧人に関しては遠慮さるべきものと思ふ。今回の木々氏受賞はその意味では妥当である。
 今回のクラブ員投票を見ると、雑誌の範囲と探偵小説への嗜好が限定されてゐて、探偵小説界が依然観念的な狭い視野の中にあることを感ずる。お神さんが野菜をあれこれと品定めする態度でなしに、壊れ易くとも面白い玩具とあらば鷲掴みにする子供のやうな大膽さで作品を推す気組みが欲しい。と仝時に、今年からは作者側から自信作の掲載紙を随時クラブに送附して置くとか、毎月の土曜会で幹事役がその月のよい作品を紹介するとか、万全の準備行為を採る方がより公正なやり方に近くなると思ふ。
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横溝正史[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 この第一回のクラブ賞の決定を見ても、短篇では本格を書きにくいといふことがよくわかる。自分自身は長短に拘らず出来るだけ本格をとりあげたいといふ意味で、第一回の詮衡の際には角田君の「怪奇を抱く壁」を短篇の第一位に、「新月」「ハムレット」をそれぞれ第二第三に推しておいたのだが、さて、最後の詮考といふ段になって採点しろとなるとなると結局、三篇とも同じ点をつけてしまった。この採点はあまり深く考へすぎると、却って変なことになってしまふおそれがあるので、この三篇を最初に読んだ時の感銘の度合を思ひ出してみたのだが、すると、それぞれ味はちがってゐるものゝ、殆ど同じ程度であったことを思ひ出したのである。自分では本格々々といひながら、ちがった味のものにもやはり惹きつけられる性分であることを今更のやうに感じた。
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森下雨村[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 「本陣殺人事件」にそこばく難点を指摘することができるとしてもこの作が終戦後といわず、わが探小界最大の収穫であり、本格長篇の特級作品であることは誰しも認めて異存のないところであろう。のみならず終戦後の横溝君のひたむきな努力精進に対しては、これをその代表的作品として十分の敬意と感謝を捧げていゝと思う。
 木々君の諸作品は探偵小説の地位の向上をとく同君の熱意と努力の現れとして当然高く購われるべきもの。香山君は誰かも小栗虫太郎の再出現だと云っていたが、僕には一面「あやかしの艶」の作者夢野久作君の味も感じられて、この作者の前途には多大の期待をかけてゐる。
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選考委員

候補作

[ 候補 ]第1回 日本推理作家協会賞 長編部門  
『高木家の惨劇』 角田喜久雄 (『銃口に笑う男』として刊行)
[ 候補 ]第1回 日本推理作家協会賞 長編部門  
『蝶々殺人事件』 横溝正史
[ 候補 ]第1回 日本推理作家協会賞 長編部門  
『幻想殺人事件』 守友恒