2013年 第59回 江戸川乱歩賞
受賞の言葉
作家。不思議な響きだと改めて思う。
私にとって、幼い頃から作家は無二のヒーローだ。絵本や児童書を読んで思うことは、「格好良い」だった。幸運にも私は「格好良い」作家の世界に身を置くことが出来た。
憧れの世界で初めて書く言葉。気を張ってこの文章を書き始めたが、犬が飯をよこせと抗議に来た。ひいきの球団が勝ったのか、母の拍手が聞こえた。何一つ格好良くない。変わらぬ私の日常である。やはり、心情一つでは何も変わらないと痛感した。
小説。これも不思議な言葉である。何千、何万もの言葉が詰まった感情の奔流だ。
私が小説を書く際、常に意識している事柄がある。それは有史以来、人間は「フミニジル」と「タチアガル」を繰り返しているということだ。時には「フミニジル」が当然の如く勝利を収める。泥に塗れながら「タチアガル」が執念の一勝を掴む時もある。私は何故かその二項対立に強く心惹かれる。
これからもその対立を念頭に置くつもりだ。
暖かい目で見守って、というのも変な話だ。私が理想とする作家は暖かい目は求めず、読者に心の昂ぶりを与え、次作に向かう存在だ。
私は、書く。筆は遅い方だが、それでも書き続ける。毎回、自信作を書くつもりだ。
以上、「格好悪い」新人の大言壮語である。ただ、口にしたからには後には引かない。
これから作家として何度「フミニジ」られようと、「タチアガ」ろうと思う。
- 作家略歴
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1980.10.28~
東洋大学大学院文学研究科修了後、牛久市立中央図書館に司書として勤務。勤務の傍ら、第五十九回江戸川乱歩賞を『襲名犯』で受賞。
代表作:
『襲名犯』
趣味・特技等:
本屋巡り、映画鑑賞。
選考
以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。
選考経過
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本年度江戸川乱歩賞は、一月末の締切までに応募総数三九七編が集まり、予選委員(石井千湖、円堂都司昭、香山二三郎、末國善己、杉江松恋、細谷正充、吉野仁の七氏)により最終的に下記の候補作五編が選出された。
〈候補作〉
運命の箱舟 長瀬 遼
人外領域 高原 英理
ブージャム狩り 竹吉 優輔
家鴨たちの運動会 香川 伸夫
番外、ヨーソロー 牧本 圭太
この五編を五月十三日(月)午後三時より帝国ホテルにおいて、選考委員の石田衣良、京極夏彦、桐野夏生、今野敏、東野圭吾の五氏による協議の結果、竹吉優輔氏の「ブージャム狩り」を本年度の江戸川乱歩賞と決定した。授賞式は九月六日(金)午後六時より帝国ホテルにて行われる。
なお、竹吉優輔氏の作品は応募時のタイトルは「ブージャム狩り」であったが、受賞決定後に「襲名犯」に変更された。閉じる
選評
- 石田衣良[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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ミステリーは衰退しているのか?
書店にはヒット作があふれ、エンタメ小説のなかでは圧倒的な存在感をもっている。けれど、こと新人賞の応募作を見ると、江戸川乱歩賞だけでなく各新人賞でミステリーが占める割合は年々減り続けているようだ。力があってセンスのいい新人はみなライトノベルに流れ、ミステリーを志す若手は減少している。今回の最終選考に残った五人の平均年齢は五十歳を超えていた。アイドルではないから若ければいいというものでもないけれど、今の時代の空気を感じさせてくれる新人の作品が読みたいのだ。ついでにいえば、普通に殺人事件が起きる現代ミステリーをもっと読みたい。来年に期待します。
『家鴨たちの運動会』前回に続いての最終候補作。衛星の墜落、二億円いりの手提げ金庫、謎の暗号システムと小道具は盛り沢山。けれど肝心の人物像が薄く、キャラクターが描けていなかった。この書き方を続けるなら来年は厳しい。別な作風にチャレンジしたほうがいいのでは。読者の心を動かす人物をひとりでいいから創造してください。
『人外領域』作者の趣味性全開のゴシックホラー。好きなタイプではある。大乱歩へのオマージュとして読めるが、本家には怖さでも物語のドライブ感でも及ばなかった。並行世界で起きる猟奇殺人や生体実験がテーマだが、その世界の道徳的スタンダードを示していないので衝撃力は弱い。近親相姦も身体切断も当然のことのようだった。異世界とこちらの現実で交信ができるという素晴らしい設定を効果的に活かせなかったのが、実に惜しい。
『運命の箱舟』太平洋戦争末期のエスピオナージュ冒険もの、その1。テーマは悲劇の航空母艦「信濃」。この時代を描くなら、おもしろおかしいだけでなく、自分の戦争へのスタンスだけは腹を決めておかなければいけない。その覚悟はまったく感じられなかった。スパイ組織の動機の弱さと層の薄さが決定的な欠陥。この船が未完成のまま沈められたのは誰でもしっている。それを描いて読者の興味を保つには、よほどの秘策が必要だったのではないか。
『番外、ヨーソロー』終戦秘話、その2。こちらの秘密兵器はジェット戦闘機「秋水」。特攻や空襲が気分だけで、ゆるく描かれている。読みやすいけれど、果たしてこれでいいのだろうか。番外隊のパイロットのキャラクターは悪くないが、見過ごせない傷がいくつも目についた。元従軍慰安婦の女スパイを拷問する場面。果たして本にできるのか。若いパイロットをつぎつぎと地元の日本人が撲殺するという設定。どう考えても無理がある。戦争や武器の細部ではなく、人の心の動きをもっとリサーチしたほうがいい。
『ブージャム狩り』そして受賞作にたどりつく。最初の投票でこの作品にAをつけた選考委員はひとりもいなかった。連続猟奇殺人者とその模倣犯という構図は悪くないが、死体を損壊してメッセージを残すという設定には既視感がある。警察も実際にはこれほど間抜けではない。だが、作者は唯一の三十代と若い。この作品が自分の到達点だとは思わずに、つぎの高みを目指して、ばりばり描いてほしい。新人作家冬の時代をなんとか生き延びて、前進してください。閉じる
- 京極夏彦[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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過去の選評でも述べたことなのだが、小説は総体として受容され評価されるものである。ストーリーが面白いとか、キャラクターが立っているとか、アイディアが奇抜だとか、そうした褒め方をさける作品はあるし、またそれが作品を評する際の常套のようになっているきらいもあるのだけれど、そうした評は、たとえ間違っていなかったとしても、作品の一面を切り取った理解でしかない。
時に褒め言葉にすらなっていないケースもある。たしかに小説を構成する要素は多様であり、そのいずれかが優れているということはある。そして優れていないよりは、優れていた方が良いに決まっているだろう。ただ、どれだけ魅力的なキャラクターが描けていようとも、手に汗握る展開のストーリーが用意されていようとも、それは、ただそれだけのものでしかない。筋書きが面白いだけならば小説である必要はない。梗概で充分だということになる。
タイトルもまた、小説を構成する重要な要素である。読者が最初に目にし、最初に読むのはタイトルである。それは小説の"顔"であり、作品全体のイコンともなるものだろう。従って、センスの善し悪しだけで片付けられるものではないことになる。
表題は数文字か、長くとも数十文字程度のものである。しかしそれは作品そのものとヴォリュームとして釣り合っていなければならない。タイトルは"総体としての小説作品"そのものとイコールであるべきものである。これは小説に限ったことではないのだろうが、文字のみで評される表現形式である小説においては、より重要視されるべきものとなるだろう。
応募作は受賞の暁には商品化され、タイトルはそのまま書名となる。店頭にはその書名を記した商品が並ぶ。告知も宣伝も、注文の際も、作品は書名という記号に仮託される形で扱われる。読者もまた、その書名を見て作品を手に取ることになる。中身を読んでもらえるのはその後である。中身さえ良ければ必ず評価されるという考え方は、幻想である。
殊更キャッチーなタイトルを付けろと述べている訳ではない。タイトルも作品の重要なパーツだと述べているだけである。タイトルだけ良くても、それに釣り合った中身がなければ意味はない。繰り返すが、小説は総体として評価されるべきものであり、そこには表題も(当然)含まれているというだけのことである。
そういう意味で今回、首を傾げざるを得ないタイトルが多かったことは間違いないだろう(候補作すべてという訳ではない)選考委員全員から指摘があったことなので、敢えて記しておく。
さて、今回の候補作は、二編が戦時下を舞台にしたもの、一編が近未来のパラレルワールドを舞台にしたものであった。こうした多様化は好ましい傾向と捉えていいのだろうとも思う。
ただ、特殊な設定(過去であろうが異世界であろうがそれは同じことである)を読み手が受容することが条件となる作品の場合、どのような形であれ、早い段階でそれらを一般化できなければ、受け入れてもらう(読み進めてもらう)のは難しいということになるだろう。また、たとえ設定が特殊なものでなかったとしても、専門的な知識に依拠せざるを得ない展開の場合は、同様である。
そうした作品の多くは読者に学習を強いるような手つきになってしまう訳だが、その手法を使ってエンタテインメント作品を仕立て上げるには、かなりの技量が必要となる。もちろん、"知っている者だけが面白い"という作風も有効ではあるのだが、その場合はより綿密な考証と構成力が必要となるだろう。
情報を共有する読者にのみ対象を絞り込むなら、情報の質と正確さが厳しく問われることになるからである。ハードルは自ずと高くなる。特化すればする程、精度が求められることになる。特に専門家でも舌を巻くような知見が要求され兼ねないし、僅かな瑕疵や誤謬が作品に与える影響も大きくなる。リスキーになるという覚悟は必要である。
しかし、たとえ特殊な設定を採用したとしても、必ずしもそのスタンスを選択しなければならないという訳ではない。デタラメでも面白い作品は面白い。もちろん、あくまで総体として評価できるなら、ということになるのだが。
小説は書き手の自己表現などではない。読者のために書かれるべきものである。その点を見失うと受賞は難しいように思う。閉じる
- 桐野夏生[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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『ブージャム狩り』は、基本的に面白く読んだ。犯罪を美学化しようとする発想や、その描写が優れていると感じた。例えば、「襲名としての殺人」という言葉や、「セックスの要素があってはならない(中略)戒律的と言い換えてもいい」という表現などである。
問題は、ブージャムという犯罪者のカリスマ性が読者に伝わらないことにある。彼のどこに「襲名希望者」を出すほどの魅力があるのか。美形であることや、犯罪の純度の高さ程度では、誰もその犯罪を踏襲しようとは思わないだろうし、ブージャミングと呼ばれる社会現象には至らないだろう。その突き詰めが少し甘い。
さらに難を言えば、後半、断章のようにブツブツと途切れるシーンが続いて、主人公はますます煮え切らなくなる。主人公が動かないと、物語はさらに動かない。作者が真犯人から目を逸らさせようとするあまり、明確に書かなくなるからであろう。
しかしながら、発想の斬新さや、時折ぎらりと光る描写には感心させられた。活躍を期待したい。
『人外領域』には、遠くへ行こう、突き抜けよう、としながらも、どこか窮屈なところがある。乱歩や横溝作品へのオマージュが根底にあるからだろうか。その意味で、パラレルワールドにする必要があったのか。パラレルワールドだから何でもアリ、とすると、逆に小説が小さくなる。縛りや枠から外れよう、外そうとするパワーが違う局面を開く。
だが、私には、乱歩や横溝だけでなく、「バットマン」のダークな世界を想起させられて、痛快な作品だった。
『家鴨たちの運動会』は力作だし、細部は凝りに凝っている。だが、出だしから違和感を覚えた。隕石が落ちて死者が十二人も出るほどの大惨事なのに、いとも簡単に大金を奪える状況があり、かつ偶然出会った三人が、あたかも「ミッション インポッシブル」のようなチームワークで、コンゲームを乗り切れるものだろうか。むしろ、仲間割れや相互不信などがあった方が、リアルというものではないか。
文章は歯切れがいいのに、時折、冗長に感じられるのは、この先どう転ぶかわからない、というハラハラ感がないせいかもしれない。行き着く先が見えていて、全員がそこを見据えて突き進む話は、よほど工夫しないと単調になる。
『運命の箱舟』は、建造中の「信濃」での殺人とスパイ騒ぎ、そして「長野の幼馴染みの大学生失踪事件」が交互に語られて、物語が進んでいくのだが、少々バランスが悪い。前者はよく調べられているが故にもどかしく、後者はもっと読みたいが故にもどかしいからである。「スパイ」や「平和主義者」という内部の「敵」を探す話でもあるのだが、どちらも生きて悩んでいる人間であるはずなのに、その実態がよくわからず、「記号」にしか見えないのは都合がよ過ぎる。
『番外、ヨーソロー』は、安易な特攻賛美ではないところは評価できるのだが、後半、謎を取って付けたようなところが気になった。また女性へのリンチは蔑視が感じられて、不快である。閉じる
- 今野敏[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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候補作を読んで、しばしば思うのは、制限枚数ぎりぎりまで書こうと無理をして冗長になっているケースがあるのではないか、ということだ。
物語の整合性やリアリティーもさることながら、読者に何かを伝えたいという情熱が何より大切なのではないかと思う。今年は、そういう観点での争いになったように思う。
『家鴨たちの運動会』は、まとまりを欠いた作品に思えた。さまざまなことを、よく調べていると思う。だが、どこまで読者に必要な情報か疑問に思った。
長い長い梗概を読まされたようで、登場人物たちに感情移入できずに辛かった。メリハリがなく、抑揚もない。情報量に比べ、物語自体の幅や奥行きがきわめて少ないと感じた。
『人外領域』を読みはじめて、まず感じたのは「やっぱり今年も来たか」ということだった。過去の有名作品や作者に依った作品では、やはり受賞作としての判断を下すことはできない。
異世界の物語という設定も、現代では受け容れられない作品を書くためのエクスキューズに過ぎないのではないかと感じられてしまう。この作品が現実世界で、何かの事件に関わっていくという物語であればよかったと思う。
ただし、ゴスロリやサイコパスなどに対する考察はたいへん納得がいく。深い思慮を感じる。それだけに、別な形で作品をまとめてほしかった。
今年は奇しくも、終戦間際の横須賀が舞台になった作品が重なった。しかも双方スパイを扱っているという共通点もあるので、どうしても比較してしまった。
『運命の箱舟』は、読み出した瞬間から安心して読める。それくらいの筆力があるということだ。いくつかも疑問点はあるものの、大きな傷とはなっていないと感じた。昨年、私が推した著者だったので、今年も推そうと思っていたが、いかんせん、昨年ほどのケレン味がなくなっていた。この作者は、リアリティーを意識するより、物語の面白さで引っぱるタイプだと思う。残念だった。
『番外、ヨーソロー』は、人物の造形もしっかりしており、ぐいぐいと読ませる。当時の軍隊のことなどもよく調べていると思う。ただ、全体のバランスが悪く、結局、作者が何を読者に伝えたかったのかよくわからないという結果になってしまった。エピソードが面白いだけに残念。
『ブージャム狩り』は、実は五作の中で最も気になるところが多かった作品だ。説明や解説が多すぎて冗長だし、主人公の過剰な被害者意識と暗さにうんざりする。叙述トリックもあまりうまくいっていない。警察機構についてもかなりいいかげんだ。ただ、冒頭に触れた、読者に何かを伝えたいという思いが一番強かった作品だと感じた。閉じる
- 東野圭吾[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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『運命の箱舟』 スパイ捜しと殺人事件の犯人捜し、並行して描かれる二つの物語が、どちらも聞き込みの連続で、しかも視点人物の人格が相似しているので冗漫な印象を受ける。また、肝心のスパイが遊郭でくつろいでいるところを見つかるのはお粗末すぎないか。そのスパイの供述を鵜呑みにしてしまう警備隊側も迂闊。職工内にスパイが一人紛れ込んでいたとなれば、艦内をくまなく捜索し、乗船する者全員の身体検査と手荷物検査をするのではないか。またこのスパイたちは頻繁に変装をするのだが、警備隊や将校の制服をどこで入手し、どこに隠し持っていたのだろうか。
『家鴨たちの運動会』 細かいカットバックが多く、おまけに視点がぶれているので誰の話かわからなくなったりして、とにかく読みにくい。内容的には、登場人物の行動に同調できない部分が多い。ふつうの人間なら、火事場泥棒で七千万円を手に入れたら、もうそれ以上は余計なことをしないだろう。使えるかどうかわからないキャッシュカードで金を下ろそうとしたり、用途不明の電子機器を正体不明の相手に売ろうとはしないと思う。またこの作者には昨年の選評で、謎解きの重要な手がかりを万能ハッカーが盗んでくるのはいただけないと注意したが、本作はそのオンパレード。読んでいて白けてしまった。
『人外領域』 小説内小説にした理由が不明。パラレルワールドを使ってはいけないとは思わないが、このような非現実的社会システムが生まれた経緯についての思考実験が粗雑。結局、作者にとって都合のいい設定にしたかっただけではないのか。おまけに現実には存在しない魔法のような化学技術が謎に大きく関わっており、読者には何ひとつ推理できず、当然結末も予想できない。しかもそういう技術が存在することが予め提示されていない。私のミステリの定義はかなり広いほうだと思うが、それでも枠外だと感じた。
『番外、ヨーソロー』 不可解なプロローグはあるものの、謎らしきものがなかなか提示されず、ミステリの要素は乏しい。鏡と無線を使った落下傘トリックは実現可能か。また実行側にとってそれほど意義のある行為だろうか。しかし話の展開は面白く、今回の候補作中、もっとも読み進めやすかった。人物描写も悪くない。特攻兵器の愚かしさ、残虐性などもよく描けている。妙な小細工をせず、ヒコーキ野郎たちの痛快譚に徹したほうがよかったのではないか。ただしタイトルはひどい。そのせいで読むのが一番最後になった。
『ブージャム狩り』 死刑になった連続殺人魔を神格化する人間が模倣犯を行う話だが、動機が不可解で弱い。多くの死体を「処分した」とあっさり書いているが、その手順の説明が一切ない。また場面転換のたびに同じような内面描写や観念的記述が延々と続くが、もっと軽快に物語を動かしてほしい。「男」、「女」といった名前を明かさない人物の行動が頻繁に出てくるのもミステリとしては効果的とはいえない。ただし、一筋縄ではいかない複雑で屈折した心理を描こうとした姿勢は評価したい。警察に関する知識は乏しいようだが、逃げずに「捜査」を描いている点は好感が持てる。贅肉をそぎ落とせば、佳品に仕上がると思う。しかしこれもタイトルが拙い。そもそも「ブージャム」というのが殺人鬼のニックネームとして魅力的だろうか。
※乱歩賞の選考に加わり今回で六年になります。これで退きますが、今後の応募者の皆さんにお願いしておきたいことがあります。あなた方はプロ作家の作品を読んで、あれこれと欠点を指摘したくなることも多いはずです。その厳しい読者としての目を、御自身の作品にも注いでもらいたいのです。「こんな奴いねえよ」とか、「こんな行動とるわけないだろ」とか、「警察は何やってんだよ」とか、あなたが書いたものに対して突っ込んでください。新奇な素材を探したり、熱心に資料調べをするのも結構ですが、あなたの都合で物語を作ろうとしているかぎり、幸運の女神はなかなか微笑んではくれません。どうかがんばってください。閉じる
選考委員
予選委員
候補作
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