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1950年 第3回 日本推理作家協会賞 短編部門

1950年 第3回 日本推理作家協会賞
短編部門受賞作

りんち

私刑(リンチ)

受賞者:大坪砂男(おおつぼすなお)

受賞の言葉

   受賞の言葉

 二月十二日、大下邸野幹事会で「私刑」等が昨年度探偵作家クラブ短篇賞を受けることに極りました。これ等「黒子」から「零人」までの八篇の、どれをも私は一所(ママ)命に書きました。そして、この内の一篇でなく、その綜合点を採用された事を、特に有難く、光榮であるとさへ感謝してをります。
 それは、私の過去、一年間の絶えざる努力が認められたのだ、と信ずるからです。私は更にこの努力を将来へも続けませう。
 ただ、私の推理小説はともすれば従来の探偵小説といふ常識から逸脱し易いと云はれてきて、この事は果して探偵文壇にプラスするか?或いはマイナスの作用をするのではないか?色々の論があることと思ひますので、私個人の寸感を記して、御挨拶に代へます。
 私は元来、洋の東西を問はず、古典を愛し敬ってゐる者なので、この敬愛の念が強いために、却って、古典の模倣こそ古典への冒涜だ、と信じている、さういふ意味での自由進歩主義者です。そして、私の推理小説は、戦爭前の傑出した探偵小説はすでに古典である、と認める点から出発してゐるつもりです。私は敗戦の作った民族の悲劇を、それほど大きく評償してゐますから。
 現在、私の前に一切は渾沌ですが、その中へ勇敢に、自分の観念する推理小説の旗印を押立てて行きたい、その爲に、群を離れて勝手な行動をとる者との非難を蒙ろうとも是非ない、ただ自己にだけ信実であろう、と、こんな風に考えてゐるのです。
 思うに、個人の勞作からのみ産まれるのが小説の本来なら、自由不■の精神こそ、その唯一の場でありませうし、従って、推理小説に餘生を捧げようと覚悟してゐる私の行動は反逆でもなくマイナスでもなく、忠誠でありプラスであると信じてをります。(二月十八日記)

作家略歴
1904~1965
東京生れ。東京薬学専門学校卒。
一九四八年、「天狗」「赤痣の女」を発表。奇抜な着想と吟味された文章で注目される。五〇年、「私刑」で探偵作家クラブ賞を受賞。翌年筆名を沙男にしたが、五三年には再び砂男に。ポー文学の継承を目指し、「閑雅な殺人」「愉快な悪人」と短編集をまとめたが、しだいに作品は減り、五〇年代末で創作は途絶えた。探偵作家クラブの幹事長を務める。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
 昭和二十四年度、探偵作家クラブ賞を決定すべき、在京幹事会は、二月十二日、午後六時より、大下邸において開催。
 午後一時より開かれた、將棋会の後、江戸川会長、大下副会長、水谷幹事長、城、香山、島田、山田、岩田、九鬼、永瀬、大坪、髙木の各幹事が出席。
 冒頭、高木書記長より會計報告あり、つづいて、クラブ賞の詮衡に移った。
 まづ、本年初頭、クラブ全員、一五〇名に往復ハガキで、長篇一篇、短篇三篇の推選を求めた結果、一月末現在で、六〇氏が回答をよせられたが、その結果を適録すると、次のような結果が得られた。
【長篇】
髙木「能面殺人事件」二十二票、宮野「鯉沼家の悲劇」八票、島田「婦鬼系図」三票、横溝「女が見てゐた」二票、以下「産院」「野獣の夜」「ソロモンの桃」「美しき山猫」「地獄島物語」各一票、棄権二十票。
【短篇】
髙木「妖婦の宿」十七票、大坪「私刑」本間「猿神の贄」各十五票、大下「蟹の足」十三票、横溝「車井戸はなぜ軋る」十一票、大坪「涅槃雪」岡田「噴火口上の殺人」各七票、岡村「盲目が来りて笛を吹く」五票、大坪「黒子」木々「老人と看護の娘」火野「亡霊の言葉」各四票、三票以下略、棄権八票。
 以上の結果を参考に、長篇賞、短篇賞の決定に移った。
 出席幹事のほか、木々、渡辺の両幹事の会長に寄せられた意見を参考に、活溌なる討論が交換され、長篇は異論なく、髙木彬光氏の「能面殺人事件」に決定、短篇賞の選定に移った。
 これについては、個々の作品の得た、前述の投票数と、個人の獲得した、総合投票数につき検討が加えられた。
【個人得票数】
大坪(二十九票)髙木(十八票)本間(十五票)大下(十三票)横溝(十一票)岡田(八票)木々(六票)岡村(五票)山田(五票)火野(四票)城、渡辺、香山(各二票)一票略。
 以上の結果を綜合し、昨年度の成績をも考慮に入れて、満場一致を以て、短篇賞は、大坪砂男氏の「私刑」等に決定した。
 新人賞については、本年も昨年の例にならって、授賞を見合はせ、なお本年度よりは、別に、探偵映画賞を創設し、最優秀探偵映画の監督又はプロデューサーに、授賞する意見が江戸川會長より提出可決された。
 つづいて、新幹事の推選が行われたが、種種の状勢を綜合して、今回の幹事會に於ては推選を行わず、次回六月の幹事会に於て更に検討を加える事に決定された。
【探偵小説年鑑」一九五〇年版の内容は、種々討議の結果、別項のように決定を見た。
 なお、クラブ書記、前田実氏が、来る三月卒業のため、退職するので、その後任問題につき種々意見が交換され、前田氏に適任者を推選願うことに決定した。
 その他、種々の問題につき、談笑裡に討議が交され、盛会裡に十時散会した。
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選考委員

候補作

[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『妖婦の宿』 高木彬光
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『猿神の贄』 本間田麻誉
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『蟹の足』 大下宇陀児
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『車井戸はなぜ軋る』 横溝正史
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『涅槃雪』 大坪砂男
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『噴火口上の殺人』 岡田鯱彦
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『盲目が来りて笛を吹く』 岡村雄輔
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『黒子』 大坪砂男
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『老人と看護の娘』 木々高太郎
[ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 短編部門  
『亡霊の言葉』 火野葦平