1950年 第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
受賞の言葉
御挨拶にかへて
横溝、坂口両先生につづいて、探偵小説界最高の名誉である、第三回「探偵作家クラブ長篇賞」が、私に授けられたことは、光栄であると同時に、いささか面はゆいやうな気もします。
駆け出しの私などが、賞をいただくより、もっと適当な方が、いくらでもあるとは思ひますが、昨年度はさうしたお方の活動が休止状態にあったので、いはば無血入城とでもいった形です。
この受賞を機會に、益々実力を充実し、今度こそは熾烈なる抵抗を排除して、本格探偵小説の新分野を、開拓したいと思ひます。
- 作家略歴
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1920~1995
青森市生れ。京都帝大卒。
一九四八年、江戸川乱歩の推挽で「刺青殺人事件」を刊行。五〇年に「能面殺人事件」で探偵作家クラブ賞を受賞。「呪縛の家」「妖婦の宿」「わが一高時代の犯罪」「成吉思汗の秘密」などで名探偵・神津恭介を活躍させた。「白昼の死角」「破戒裁判」ほか作品多数。近松茂道や霧島三郎と検事のシリーズも発表した。書記長、幹事、理事を歴任したほか、推理作家協会賞や江戸川乱歩賞の選考委員を務める。
選考
以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。
選考経過
- 選考経過を見る
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昭和二十四年度、探偵作家クラブ賞を決定すべき、在京幹事会は、二月十二日、午後六時より、大下邸において開催。
午後一時より開かれた、將棋会の後、江戸川会長、大下副会長、水谷幹事長、城、香山、島田、山田、岩田、九鬼、永瀬、大坪、髙木の各幹事が出席。
冒頭、高木書記長より會計報告あり、つづいて、クラブ賞の詮衡に移った。
まづ、本年初頭、クラブ全員、一五〇名に往復ハガキで、長篇一篇、短篇三篇の推選を求めた結果、一月末現在で、六〇氏が回答をよせられたが、その結果を適録すると、次のような結果が得られた。
【長篇】
髙木「能面殺人事件」二十二票、宮野「鯉沼家の悲劇」八票、島田「婦鬼系図」三票、横溝「女が見てゐた」二票、以下「産院」「野獣の夜」「ソロモンの桃」「美しき山猫」「地獄島物語」各一票、棄権二十票。
【短篇】
髙木「妖婦の宿」十七票、大坪「私刑」本間「猿神の贄」各十五票、大下「蟹の足」十三票、横溝「車井戸はなぜ軋る」十一票、大坪「涅槃雪」岡田「噴火口上の殺人」各七票、岡村「盲目が来りて笛を吹く」五票、大坪「黒子」木々「老人と看護の娘」火野「亡霊の言葉」各四票、三票以下略、棄権八票。
以上の結果を参考に、長篇賞、短篇賞の決定に移った。
出席幹事のほか、木々、渡辺の両幹事の会長に寄せられた意見を参考に、活溌なる討論が交換され、長篇は異論なく、髙木彬光氏の「能面殺人事件」に決定、短篇賞の選定に移った。
これについては、個々の作品の得た、前述の投票数と、個人の獲得した、総合投票数につき検討が加えられた。
【個人得票数】
大坪(二十九票)髙木(十八票)本間(十五票)大下(十三票)横溝(十一票)岡田(八票)木々(六票)岡村(五票)山田(五票)火野(四票)城、渡辺、香山(各二票)一票略。
以上の結果を綜合し、昨年度の成績をも考慮に入れて、満場一致を以て、短篇賞は、大坪砂男氏の「私刑」等に決定した。
新人賞については、本年も昨年の例にならって、授賞を見合はせ、なお本年度よりは、別に、探偵映画賞を創設し、最優秀探偵映画の監督又はプロデューサーに、授賞する意見が江戸川會長より提出可決された。
つづいて、新幹事の推選が行われたが、種種の状勢を綜合して、今回の幹事會に於ては推選を行わず、次回六月の幹事会に於て更に検討を加える事に決定された。
【探偵小説年鑑」一九五〇年版の内容は、種々討議の結果、別項のように決定を見た。
なお、クラブ書記、前田実氏が、来る三月卒業のため、退職するので、その後任問題につき種々意見が交換され、前田氏に適任者を推選願うことに決定した。
その他、種々の問題につき、談笑裡に討議が交され、盛会裡に十時散会した。閉じる
選考委員
候補作
- [ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
- 『鯉沼家の悲劇』 宮野叢子
- [ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
- 『婦鬼系図』 島田一男 (『錦絵殺人事件』として刊行)
- [ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
- 『女が見てゐた』 横溝正史
- [ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
- 『産院』 木々高太郎
- [ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
- 『野獣の夜』 島田一男
- [ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
- 『ソロモンの桃』 香山滋
- [ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
- 『美しき山猫』 香山滋
- [ 候補 ]第3回 日本推理作家協会賞 長編部門
- 『地獄島物語』 三澤正一