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1959年 第12回 日本推理作家協会賞

1959年 第12回 日本推理作家協会賞
受賞作

よんまんにんのもくげきしゃ

四万人の目撃者

受賞者:有馬頼義(ありまよりちか)

受賞の言葉

   告 白

 数年前に「三十六人の乗客」という小説を書いたとき、僕には「四万人の目撃者」以下一連の作品を書くべき必然が生じたのだと、今になって思い当たらないこともない。古い話だが、昭和二十年の夏、連合軍がはじめて日本に上陸した直後に、僕は妻と一緒に妻の実家を訪ねるべく東海道線の窓ガラスのない箱の中に坐っていたが、列車が横浜を過ぎたとき、日本人の車掌を先頭にした三人の米兵があらわれ、乗客の一人々々に自動小銃を向けて現金と時計を強奪した。勿論僕も例外ではなかったが、僕は妻をかばったために、右膝を、いやという程銃で殴られた。その時の体験が、僕に「三十六人の乗客」を書かせた。
 此処ではっきりしておきたいのは、その作品が、恐怖の体験だけによって書かれたのではない、ということだ。僕の心の中にその時あったものは、恐怖よりも少しばかり多量のいかりであったことを告白しよう。それ以来、僕はいかりなくして小説を書くことが出来なくなったようである。文明への批評とか、社会悪に対するいかりとか、つまりそれらをひっくり返して人間愛とかいう風なものが、小説の根底になければ、作品は何の意味もない、と僕は考えるようになった。
 多分、僕のこの考え方は、日本の探偵小説とは異質のものだろうし、その発想に於て、僕は、僕の小説が探偵小説と呼ばれることについて納得し得ない理由をなすものだ。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

大河内常平[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 クラブ賞選考委員会階席の記

 昭和三十四年クラブ賞選考のための委員会は、このたび転居された、高木彬光氏の新宅において、転居お祝いをかね、二月二十五日午後五時半より行われた。
 駒場の旧一高の時計台を望む、彬光兄著作の「我が一高時代の犯罪」に、何かゆかりを覚えさせられる地理の新宅である。西隣りにはもと前田邸の萬坪の樹庭をひかえ、車自由、風光よろしく、先ずは御新居のよさお目出度き限りである。
 いかに委員の末席とは申しながら、未受賞、若輩の小生が選考に加わるなどは、どうも何かと障わりが感ぜられ、また面映ゆくもあるので、お祝いのほうだけにと、八時半頃にもなって、出席することに決めていた。
 すでに昨年末から、下読委員諸氏の選考をへて、候補作にあげられていた諸作は、
 鮎川 哲也 白い密室         宝石一月
 仁木 悦子 かあちゃんは犯人ぢゃない 宝石二月
 城  昌幸 ママゴト         〃 四月
 高城  高 淋しき草原に       〃 六月
 宮野 村子 恐ろしき弱さ       〃 六月
 楠田 匡介 沼の中の家        〃 八月
 渡辺 啓助 寝(ネグリジェ)衣    〃 九月
 加田令太郎 ねむりの誘惑     小説新潮七月
 多岐川 恭 かわいい女        河出書房
 岡田 鯱彦 樹海の殺人         春陽堂
 有馬 頼義 四萬人の目撃者       講談社

 の精鋭ぞろい十一篇であった。
 木々、大下、水谷、山田、永瀬、中島、日影、高木、城、角田、江戸川(都合による欠席者島田、渡辺、香山、の三氏を除く)の十一委員がすでに出席しており、意外やわざと遅参した小生が入室した時刻に於ても、いまだに白熱の論議火を吐くさなか――といった混乱にあった。
 その論争の焦点をなすものは、
 一.クラブ賞は、あくまで一篇のみを、例えば・長篇賞・短篇賞などの別なく受賞せしむるべきものなりや
 一.今年度および来年度以降における、候補作品の選出方法にたいする批判――
 一.容易に優劣をつけ難き複数候補作家の作品選考に当っては、その該当作家のその他の年度作品上の業績ぶりをも、加味考慮して比較選考すべきこと

 などであり、加えて鋭意諸候補作の検討が進められ、三度に及ぶ投票がくりかえされ――三候補作品にしぼられるにいたった。
 この間にラジオ放送のため、やむなく角田氏に最終意見のメモを託して木々氏が中座しまたホテルで静養中であった江戸川氏が、所用のため遅れて参会し、改めて選考経過を聴取り直してから、選考に参加するなど、審議はしばしば停滞した。
 かくて拾時すぎついに、最終決選投票が行われる運びとなり、

 「四萬人の目撃者」 有馬頼義氏
    週刊読売連載-講談社版

が、圧倒的に他をリードして、受賞の栄冠を獲得するにいたった。次点は鮎川哲也氏「白い密室」、渡辺啓助氏「寝衣」であった。
 クラブ賞作品に就いては、本格物としての骨組に難があり、犯人が易々としてワレる点をあげ、反対する委員もあったが――なによりも小説としての充実感に於て、卓抜なるものとして強行に始終受賞を主張してゆずらぬ委員が多く、ついに上記の決定をみた。
 たゞちに多木クラブ書記嬢が、高木夫人が室内に運ばれた電話のダイヤルをまわし、つづいて江戸川氏が有馬氏と直接通話をかわしお祝いの言葉をつたえ――ここに長時間審議レコードとなった、選考委員会の幕をとじた。――ときに十一時を過ぎ、おりしも御夫妻で新居祝いにみえられ、隣室でテレビを見ながら待っておられた横溝正史氏も加わられ、これより高木家の好意による、焼鯛、肴あまたの日本料理卓をうずめ――祝いの酒席歓談の宴へと移った次第である。
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選考委員

候補作

[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『白い密室』 鮎川哲也(中川透)
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『かあちゃんは犯人ぢゃない』 仁木悦子 (『かあちゃんは犯人じゃない』として刊行)
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『ママゴト』 城昌幸
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『淋しい草原に……』 高城高
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『恐ろしき弱さ』 宮野村子
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『沼の中の家』 楠田匡介
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『寝(ネグリジェ)衣』 渡辺啓助
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『眠りの誘惑』 加田伶太郎
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『かわいい女』 多岐川恭
[ 候補 ]第12回 日本推理作家協会賞   
『樹海の殺人』 岡田鯱彦