一般社団法人日本推理作家協会

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1973年 第26回 日本推理作家協会賞

1973年 第26回 日本推理作家協会賞
受賞作

じょうはつ あるあいのおわり

蒸発 ある愛の終わり

受賞者:夏樹静子(なつきしずこ)

受賞の言葉

   受賞のことば

 はるかな距離のように感じていた協会賞を受賞して、感激はことばに尽くせません。
 デビュー以来「ドメスティックなムード」が私の持ち味とされ、私自身そのあたりをホームグランドと考えてはいますが、「蒸発」ではかなり意識して、自分のカラーを破る試みをしたつもりです。それだけに悪戦苦斗で、不評も覚悟していましたので、認めていただいたうれしさは一入です。
 屡々、幼児二人ある主婦の身で・・・と同情していただきますが、ハンデや苦労は、形こそちがえ、誰方にもあるものと思います。私としては、それをハンデと意識する一種の甘えを自分に許さぬよう、心がけているつもりです。
 まだいかにも未熟で、賞の重さによろめきそうですが、今後も努力の限りを尽くしていきたいと、改めて心に誓っています。

作家略歴
1938~2016.3.19
東京都出身。慶応義塾大学英文学科卒。大学四年からNHK推理ドラマなどのシナリオを書く。一九七〇年「天使が消えていく」でデビュー。代表作は「蒸発」「第三の女」「Wの悲劇」「白愁のとき」等。エラリー・クイーンと親交を持ち、欧米での出版多数。疎開先の静岡県川根町に〈夏樹文庫〉が開設される。趣味はゴルフと囲碁。グリーン碁石を開発し、夏樹静子グリーン碁石の会主宰。毎年日本棋院で大会開催。

1973年 第26回 日本推理作家協会賞
受賞作

ふしょくのこうぞう

腐蝕の構造

受賞者:森村誠一(もりむらせいいち)

受賞の言葉

   受賞の言葉

 焼き直しのきかない推理小説には、山の初登攀にあい通じる可能性への挑戦の姿勢が、ひときわ強く感じられます。自分が小説の実作において、このジャンルに情熱を燃やしているのは、この姿勢が好きだからだとおもいます。
 いま、その情熱を燃やしつづけるためのこよない燃料をいただいて、喜びと同時に、推理小説の伝統を燃やしつづけるリレーランナーの一人としての責任を強く感じております。

作家略歴
1933~
埼玉県熊谷市生れ。青山学院大学卒。
ホテル勤務ののち一九六七年に「大都会」を刊行。六九年、「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞した。七三年に「腐蝕の構造」で日本推理作家協会賞を受賞し、2011年『悪道』にて第45回吉川英治文学賞を受賞。「新幹線殺人事件」「人間の証明」「駅」「棟居刑事の復讐」など多くの推理長編があるほか、「忠臣蔵」ほかの時代・歴史小説や「悪魔の飽食」などのノンフィクションも発表している。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
 本年度の日本推理作家協会賞選考委員会は、三月十七日午後六時より、有楽町"山水楼"において開かれた。出席者は島田理事長をはじめ、生島治郎、菊村到、陳舜臣、結城昌治の各選考委員で、さきに予選委員会で選出した左の候補作
 夏樹静子「蒸発」
 都筑道夫「七十五羽の烏」
 森村誠一「腐蝕の構造」
 山村正夫「ボウリング殺人事件」
 山村直樹「追尾の連繋」
 植草甚一「雨降りだからミステリでも勉強しよう」
の六篇について慎重な審議を行なった結果、全委員一致で夏樹静子氏の「蒸発」と森村誠一氏の「腐蝕の構造」を授賞作に決定した。
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選評

島田一男[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 このところ三、四年続けざまに乱歩賞と協会賞の詮衡委員をつとめているが、今年の委員会ほど疲れたことはなかった。例年だと、詮衡の結果を事務局から各新聞社へ通知するのであるが、今年は論議が長びき、なかなか結論が出ず、新聞社の方から先きに問い合せが来ると云う有様であった。
 聞くところによると、最近では大学の入学試験なども、コンピューターで振り落としてゆくと云うことであるが、わたしも一応七〇点を詮衡の基準として本年度の候補作品六篇を読ましてもらった。その結果は、植草さんの評論集は別格として、小説五篇のうち、七〇点が四篇、六五点が一篇であった。
 これは、わたしにとって、大変困った結果だったのである。と云うのは、実は昨年度の候補作品の中に七五点をつけた作品があったが、結局授賞作品なしと云うことになっている。そのことを考えると、本年もまた協会賞はないと云うことになるわけである。こんな気持ちで詮衡会に臨んだのであるが、わたしの感じたところでは、他の委員諸氏も、大体同じような考えであったのではないかと思う。従って詮衡会では、本年度授賞作を出すかどうかから、協会賞の性格にさかのぼって討議が重ねられ、結局多数決で協会賞を出すこととなり、各作品の検討に入ったのであった。
 同じ七〇点と云っても、そこには微妙なニュアンスの違いがある。わたしは夏樹さんの「蒸発」を第一位、森村さんの「腐蝕の構造」を第二位に押した。しかし、一位を二位にはどれくらいの違いがあるのかと云われると、わたしは困ってしまう。いまにして思えば、私の本心は「腐蝕――」の方を一位に押したかったのではないかと考えている。ただ、詮衡会までのわたしの気持ちには、ちょっぴりひっかかるものが二つあった。その一つは、前述した昨年度の七五点は森村氏の「密閉山脈」だったからである。あの作品に於ける山岳遭難者の火葬の描写はキラゝと輝く名文であり、いまでも印象に残っている。「腐蝕――」には、それに比べるものがない。もう一つは、あとでわかったことであるが、これは週刊誌の連載小説であり、そのせいか描写に重複したところが非常に多い。これは、単行本にするに当り、当然整理されねばならぬものと考え、一位には押せなかった。
 夏樹さんは一昨年も「天使が消えていく」で協会賞の候補になっている。そのときは夏樹さんの経歴を知らなかったので、このひとは女医さんかなと思うほど小児科のことが詳しく調べてあった。こん度の「蒸発」では旅客機、とくにスチュワーデスの生活がよく調べてある。こう云う取材態度には好感が持てるし、調べたことも「天使が―-」より「蒸発」の方が遥かによく生かされている。ただトリックあり、物語生る・・・ではなく、物語あり、トリックを考える・・・であってほしいとは思うが、いずれにもせよ、これからはもっと優れた作品が発表されるのではないかとの期待をこめて、わたしは「蒸発」を一位に押したのであった。
 各委員からもそれゞ真剣な意見が発表され、またそれへの反論もあり、大げさに云えば討論に討論を重ねた結果、森村・夏樹両氏へ授賞と云うことになった。この決定に対しわたしに異論はない。
 最後に、これはわたしの好みであるが、「七十五羽の烏」に現れた都筑氏の戯作者趣味に、捨て難い面白さを感じていることを付け加えておく。
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生島治郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 推理作家協会賞について、私は独自の見解を持っている。この賞は過去の業績をも加味するという含みがあるようだが、願わくば、前年度推理小説及び評論のなかでもベスト作品――それも、いままでの日本の推理小説及び評論ではみられなかったユニークな作品を選びたかった。
 過去の業績は、あくまでも二次的な要素に過ぎず、それぐらいなら、むしろ、今後の推理小説界に新風を吹きこむ可能性のある作家に賞を与えるべきではないかというのが私の見解である。
 こういう規準からすると、今回の候補作品六篇はいずれも、それぞれ力作ではあるが、ユニークな新風を吹きこむという作品は見当らなず、またこれまで発表された日本の推理小説及び評論にくらべても、特に秀れているという評価も、残念ながら、できかねるというふうに私は感じた。
 結局、その意味では該当作なしというのが正直な印象ではあったが、もし、強いて受賞作を選ぶとすれば、作品そのものよりも、作品のなかに今後の可能性の萌芽のみられる作家に協会賞を受けてもらうのが望ましい。
 それでは、この六篇の候補作のなかから、もっとも今後ユニークな作品を生みだしそうな可能性を秘めた作家は誰かという判定を下すことになると、これはなかなかむずかしいところであるが、私は、やはり、森村誠一氏の『腐蝕の構造』と夏樹静子氏の『蒸発』を推すことに決めた。
 それはこの二作とも、とにかく、前半までは一気に読ませる筆力を持っていたからである。ただし、あまりにもトリックに重きを置きすぎたために、後半はその辻褄をあわせようとして、かえって小説としての魅力、あるいは、作品のテーマを鮮明にうちだす効果を滅殺してしまっている。
 両氏とも充分に筆力のある方たちだから、今後はこの受賞を機会にトリックにしばられず、むしろ、作品のテーマを鮮明にうちだすことに重点を置き、そのために、いかに効果的に推理小説的技法を駆使するかということを考えていただきたい。
 他の作品も、それぞれ、この両氏と同じような欠点がみられた。トリックに重点を置きすぎた結果、むりな構成や説明的な描写が多くなり、せっかくの着眼点の良さが生かされていないうらみがある。
 ことに私が惜しいと思うのは、都筑道夫氏の作品で、氏はいろんなタイプの新しい海外ミステリを日本に紹介した、いわば日本のミステリ界にとっては大変な功労者であり、そのミステリに関する知識も、氏の右に出る者はいない存在である。にもかかわらず、氏があえて、過去の推理小説に登場するような名探偵を主人公にした作品を発表しなければならないという必然性がどこにあるのか、私には理解に苦しむところである。
 氏の作品は文章も氏独自のユニークさを持っているし、構成やディテールにも凝ってはいるのだが、名探偵を現代の推理小説に登場させなければならない、必然性が欠落しているかぎり、作品としての魅力は自ら失われてしまう。氏のような才能とミステリに関する該博な知識の持主がこういう点に気づかないはずはないと信ずる私はなんともくやしくてならない。かえって、氏がミステリ通であるがゆえに、私は今回の作品に対して他の候補作より点を辛くしたきらいがある。ただ、都築氏の日本のミステリ界に対する貢献した功績を評価すれば、文句なく、協会賞を受賞する資格は充分にあるであろう。その点では、植草甚一氏と双璧であると思う。植草氏も、もちろん、海外ミステリの紹介者として第一人者であるが、今回の評論集は、過去に書かれた原稿をそのまま収録してあり、評論集として新味にとぼしい点がいささかものたりたい感があったので、私は受賞作に推すことはできなかった。
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菊村到[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 「75羽の烏」(都筑道夫)
 最近流行の推理小説の一般的傾向に、かたくなに背を向けて、古典的な本格物のメカニズムに閉じこもった作品で、ソフィスティケイテッドな文体や、けんらんたるペダントリーは一部のマニアを魅了するに違いない。しかし同時にこういう擬古典主義的なダンディズムが別の何かを窒息させていることも確かで、そこに疑問が残る。

 「ボウリング殺人事件」(山村正夫)
 「アクロイド殺し」ふうのテクニックは冴えているが、三人の強盗が盗んだ金を賭け金にして殺人ゲームを展開するという着想に、もう一つリアリティの裏打ちがほしい。つまりどうしても殺人ゲームに追いこまれざるを得ない何かを描き出すべきではなかったろうか。それには当然、三人の強盗たちに個性が、もっと鮮烈に描きわけられる必要があると思う。しかしサスペンスのもりあげ方がのうまさは、さすがである。

 「追尾の連繋」(山村直樹)
 この作家にはある種の才気を認めたい。しかし残念ながら些か才気倒れの気味がある。妊婦が犯人を捜し、事件解決と同時におなかがパンクするというのも面白い。だが、墓石のダイイング・メッセージはいかにも不自然だし、それに殺人の動機がどうにも弱い。

 「腐蝕の構造」(森村誠一)
 森村氏が流行作家になった理由は、この一作を読めば、容易に理解出来るといった作品で、そのことが同時に欠点にもなっている。小説が一種の情報として読まれているという事情があるわけで、そういう時代の要請にみごとに応えているのである。荒削りな筆致にはげしいヴァイタリティがひそんでいて、強引に読者を物語の世界にひきこんでいく。ただしお膳立てが壮大な割りに肝腎の人間のドラマのほうが小粒で、そこに不満がある。

 「蒸発」(夏樹静子)
 飛行機の中で人間が消えるという着想は奇抜だが、いかにも動機が薄弱でトリックのためのトリックという印象をぬぐい難い。トンネルの中の殺人も面白いし、随所にさまざまな工夫が凝らしてあって飽きさせない。しかしあれこれ詰めこみすぎて、そのために却って思わぬ歪みや隙間が生じている。だが、ありったけの智恵をしぼりこんで、粘り強く対象に食い下っていく姿勢や気迫にさわやかさがある。

 「雨降りだからミステリーでも勉強しよう」(植草甚一)
 読んで面白いし、小説作法の上でもいろいろ勉強になった。この賞の性格としては小説優先で、評論は小説に受賞作がなかった場合のピンチヒッターという原則があるそうで、その意味では不幸な候補作であった。

 この賞の選考委員は原則としてすでに受賞している者、ということになっているらしい。その点では私は失格である。偉そうなことを言っても、お前にこれだけ書けるか、と反問されたら降参するほかない。それだから言うわけではないが、私は少々の不満はあっても受賞作は出すべきだという姿勢で選考に臨んだ。従って受賞者二人という賑やかさには充分、満足している。
 受賞作無し、という声もあって、無しにするか、ありにするか、ぎりぎりまでもめた。私はこの種の賞はプロボクシングの王座決定戦と同じように考えたらいいと思う。つまりチャンピオンが現役のまま引退し、空位になった王座を何人かで争うわけで、たとえ実力は前チャンピオンを下回るとも、最後に勝ち残った者がチャンピオン・ベルトを縛めることになるのである。
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陳舜臣[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 都筑道夫氏の『七十五羽の烏』は、綿密なプランニングのうえに、ていねいに書き込まれ、たしかに一つの世界を読者に提供するものであった。それで私はこの作品を推したが、残念ながら支持が得られなかった。
 いかにも古めかしすぎるという批判もあったが、オーソドックスかならずしも陳腐とはいえないであろう。それどころか、新しい道をさぐるときに、いったんオーソドックスに返るのが、どの分野でも永遠の原則ではあるまいか。ふるい探偵小説への逆行という見方があるかもしれないが、むかしの探偵小説はこれほど神経の行き届いた文章を持たなかった。
 ミステリー界に、われわれを驚かせるような新風を送り込めるのは、内外のミステリーに精通している都筑氏をおいてほかにはあるまい。もっとあざやかな作品を待って、氏に賞を与えるべきだというので、今回は見送られた。――私はそう解して、納得することにした。そういえば、この作品を都筑道夫的宇宙の、輝やける星とするには、私にもやや躊躇するところがあった。だから、選考委員会の席上でも、斬込み隊式のチャンバラが展開できなかった。
 夏樹、森村両氏の受賞には異存はない。あまりにきびしい『ないものねだり』は、このような年度賞の選考には考えものであろう。いろいろと両氏には注文したいことがある。『蒸発』の怜子と冬木、『腐蝕の構造』の久美子と大町の≪意外な≫関係などは、なくもがなという気がした。とくに『腐蝕の構造』では、大町の部分をカットすれば、不自然な偶然過剰がいくらか救われたに違いない。
 事務局の説明では、協会賞はあくまで小説をえらぶのがたてまえで、小説に受賞作がないときに、評論その他が選考の対象になるということだった。今回は小説の受賞作が出たので、植草氏の『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』は、公式には論じられなかったのである。このたてまえは、改正の要があるかどうか、宿題にしてよいのではないか。
 植草氏の著書のなかに、ロスの『女子高校生への鎮魂曲』が、第一作の『ハイスクールの殺人』と同一のテーマのヴァリエーションなので(おそらくそれだけのことで)日本にたいした反響がなかったことに失望した、というくだりがあった。一人の作者が、そんなに多くのテーマを抱えているわけではなく、そのふくらみ、掘り下げが大切なのだ。ヴァリエーションぎらいのミステリー・マニアはいるだろうが、前作よりも深く掘り下げたという自信があれば、作者はテーマのくり返しを気にする必要はない。
 森村氏にはとくに掘り下げを期待したい。
 乱歩賞では私のつぎが戸川昌子さん、直木賞では私のつぎが佐藤愛子さん、そして協会賞も二年のブランクはあったが、私のつぎに夏樹静子さんが出た。どうも私は女流作家受賞の先導役をつとめてばかりいるようだ。そして、私のつぎに出た彼女たちは、みなはなばなしく活躍しておられる。
 夏樹さんの健闘を祈ります。
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結城昌治[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 候補は捜索五篇に、海外の推理小説を紹介論評した評論集一篇だった。ところが、最近初めて知ったが、協会賞の対象は創作優先で、評論やエッセイは創作に該当がない場合にのみ選考の対象になるそうである。選考会の席上で島田一男氏からあらためてその説明を受けたが、やはりそういう原則があるということだった。つまり評論やエッセイは創作の補欠候補で、理事の末席につらなりながらそのような原則を知らなかった私は迂闊だが、評論その他も創作と対等に独立して賞の対象にされるべきではないかと思った。
 しかし、他の委員からも私同様の疑問が出たが、理事会にはからないで原則を変えることはできないので、今回は従来の方針にしたがって創作の選考にうつった。
 受賞作を得られなかった昨年度の水準に照らして、残念ながら本年度の作品のほうが高いとは言えなかった。しかし、私は難を挙げるより功を数え、二作でも三作でも受賞作を出したいという考えで選考会に臨んだ。
 受賞された「腐蝕の構造」と「蒸発」は、人物や事件にリアリティが乏しく、トリックにこだわった無理が目立ったが、森村氏も夏樹氏も随所に筆力充分なところが窺え、読者を作中にひきつける力を感じた。口はばったい言い方を許してもらうなら、今後の期待を含んだ受賞と解していただきたい。両氏ほどの力量があれば、もっと優れた作品が書けるはずである。
 私は都筑氏の受賞も望んでいたが、「七十五羽の烏」は最初の選考段階において陳氏と私が推したのみで、心残りな結果に終った。
 山村正夫氏の「ボウリング殺人事件」は力作だったが、着想の面白さと文体との間に誤算があったと思う。
 山村直樹氏の「追尾の連繋」も、処女長篇らしい意欲作だったが、そのせっかくの意欲が、古い推理小説観から脱け出ていないと思われる点にいちばんの不満があった。
 もっとも、受賞された二篇に新風があったとは言難いので、十余年前に発表された植草氏の「雨降りだからミステリーでも勉強しよう」が、今もなお有用であるということにわが国の推理小説の現状が示されていると思う。
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選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第26回 日本推理作家協会賞   
『七十五羽の烏』 都筑道夫
[ 候補 ]第26回 日本推理作家協会賞   
『ボウリング殺人事件』 山村正夫 (『球形の殺意』として刊行)
[ 候補 ]第26回 日本推理作家協会賞   
『追尾の連繋』 山村直樹
[ 候補 ]第26回 日本推理作家協会賞   
『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』 植草甚一