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2015年 第68回 日本推理作家協会賞 短編部門

2015年 第68回 日本推理作家協会賞
短編部門

該当作品無し

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

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 第六十八回日本推理作家協会賞(ミステリーグランプリ)の選考は、二〇一四年一月一日より二〇一四年十二月三十一日までに刊行された長編と連作短編集および評論集などと、小説誌をはじめとする各紙誌や書籍にて発表された短編小説を対象に、昨年十二月よりそれぞれ予選を開始した。
 長編および連作短編集部門と短編部門では、例年通り各出版社から候補作推薦制度を適用した。なお推薦枠を持たない出版社からの作品については、従来通り予選委員の推薦によって選考の対象とした。
 長編および連作短編集部門では出版社推薦と予選委員の推薦による一一五作品、短編部門では出版社推薦と予選委員推薦による三九四作品、評論その他の部門では四八作品をリストアップし、協会が委嘱した部門別の予選委員がこれらの推薦にあたり、各部門の候補作を決定した。
 本選考会は四月二十一日(火)午後三時より、新橋第一ホテル東京にて開催された。長編および連作短編集部門は、大沢在昌、北方謙三、真保裕一、田中芳樹、道尾秀介(立会理事・千街晶之)、短編部門・評論その他の部門は、井上夢人、香納諒一、貴志祐介、貫井徳郎、山前譲(立会理事・新保博久)の全選考委員が出席して、各部門ごとに選考が行われた。
 受賞作決定後、午後六時より新保博久理事の司会進行により、長編及び連作短編部門受賞者の月村了衛氏、早見和真氏、評論その他の部門受賞者の喜国雅彦氏を迎え記者会見が行われ、大沢在昌氏と貫井徳郎氏からそれぞれの部門の選考経過の報告があった。その後、月村氏、早見氏、喜国氏が受賞の喜びを語った。また司会の新保理事より、霜月蒼氏からの喜びのメッセージが読み上げられた。
 詳細な選考過程は以下の通り。
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新保博久[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 たまたま去年まで四年間、選考委員をやらせてもらっていたが、四回とも一時間半もかからなかった。それが今年は二時間半以上。まず両部門の候補作全部(四編と四冊) に各委員に○△×で採点をお願いし、○を2点、△を1点とすると、図ったように短編部門四作とも計3点だった。10点満点に3点では心細い。昨年に続き今年も受賞作なしと結論するのに約半時間。同じ計算法で評論その他の部門では『アガサ・クリスティー完全攻略』が8点と抜きん出た高得点だが、念のため意見を交換して受賞作と決定するのにまた半時間。
 あとの一時間半は、『本棚探偵最後の挨拶』を同時受賞とするかどうかに費やされた。賛成3、反対2だが、賛成派にとっても多数決で押し切るのは本意でなく、膠着状態に。とうとう時間切れとなり、立会理事が下駄を預けられる異例の事態を迎えたが、反対意見にも理を認めつつ、「疑わしきは被告人の(失礼、候補作の)利益に」という原則(その場で作った)により同時受賞で全選考委員の承認を得た。
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選評

井上夢人[ 会員名簿 ]選考経過を見る
選評

 短篇小説にとって不遇の時代が続いているように感じる。殊に単発の短篇として書かれた作品は、シリーズを目論んだ連作ものに比べ評価を得ることが難しく、注目度も低い。
 職業作家は長篇や連作に力を注がざるを得ず、それが短篇小説の質を落とすことに繋がる──私の思い違いだろうか。今回短篇部門の候補に挙げられた四作を読み終えて、そんなことを感じた。そう思ってしまうほど、今回の候補作には光ったものが感じられなかった。
 もちろん、それぞれの作品に見るべきもの、教えられるものはある。ただ、作品としての完成度を上げるような工夫や煮詰め方が足りないように感じた。銓衡会が始まったばかりの時点で「該当作なし」という声が上がったのも肯ける。
「許されようとは思いません」祖母のお骨を村の墓へ納めようとする主人公の動機が今ひとつ響いてこない。閉鎖的な村の姿はやや時代錯誤ではあるが、それなりの雰囲気を造っている。その造りと主人公の内面が、ちぐはぐなのだ。
「死は朝、羽ばたく」読者をミスディレクトするための主人公の造りがあまりに作者の都合で出来上がっている。死刑に関わる問題の扱い方が安易すぎた。
「ドールズ密室ハウス」ドールズハウス自体は独自の世界を造る役に立っているもののその造り方が粗雑にすぎる。どう好意的に捉えてみても、このトリックは成立しない。
「ゆるキャラはなぜ殺される」私にはこの小説の良さがわからなかった。下手な芸人がスベり続けるのを見せられているような気分だった。
 対して、評論その他の部門に挙げられた候補四作はいずれも力作で、大いに興奮させられ勉強させてもらった。私の評価では四作すべて甲乙つけがたく楽しませてもらったが、役目としては優劣を判断しなければならない。
 だから、同位の候補作中、私からは最も離れたところにある『ライトノベルから見た少女/少年小説史』を一番の注目作として置いた。この分野の知識が私には皆無で刺激的だったからだ。しかし博識揃いの委員たちにとって、この小説史には新鮮味が感じられなかったようで、私は早々にこれを引っ込めた。
『路地裏の迷宮踏査』の圧倒的な知識量にはほとほと参ってしまったが『アガサ・クリスティー完全攻略』との一騎打ちに敗れた形になった。『路地裏──』は別の年の候補であれば受賞した可能性もある。
 その『アガサ──』は、実に読者をワクワクさせるガイドブックだ。取り上げた本をけなしまくるガイドブックを、私は初めて読んだ。「完全攻略」本だからこそできたことだが、そのけなし方にも楽しさがあり、クリスティーをまた読んでみようかという気持ちにさせられた。揉めたのは『本棚探偵最後の挨拶』だ。とにかく徹底した「本」への愛が溢れている。ただ推協賞に値するかという意見、完成度が低いといった意見が出て紛糾した。私としては実に楽しい読書体験でありこれを推した。二作授賞を慶びたい。
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香納諒一[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 推理作家協会賞選考委員最後の年は、推理小説について、推理作家協会賞について、改めて深く考えさせられました。私は推理小説とは、ストーリーの過程に推理的要素の様々な面白さを含みつつ人間を描く小説だと思っています。トリックにしろミスリーディングにしろどんでん返しにしろ、それらが説得力を持って読者の心を揺り動かすのは、小説としてきちんと人間が描けていた時だと思います。その意味で、今年の短編部門の候補作は、どれも受賞にはうなずけませんでした。
「許されようとは思いません」は、祖母が祖父を殺害した過去を、その孫に当たる主人公がたどり直す小説で、なぜ殺したかという動機の部分がミスリーディングでもありこの短編の肝にもなっています。しかし、私には、それは嘘臭くてそんな理由で人は人を殺さないとしか思えませんでした。同じく「死は朝、羽ばたく」は、主人公の設定自体がミスリーディングであり、どんでん返しを生みますが、なぜ主人公がそれを隠す必要があったのかという点に、説得力を感じられませんでした。意地の悪い見方をする読者にとっては、この小説のラストのどんでん返しを生むために隠していたようにさえ見えてしまうのではないでしょうか。それは、人の描き方が自然ではないからです。「ドールズ密室ハウス」のトリックは、ある仕掛けに子供を使うものですが、この作品のこの犯人が、子供をそんなふうに使う人だとは思えませんでした。その点の説得力を欠いてこういった描き方をすると、トリックはただのトリックにすぎず、小説的な説得力を持てない気がします。ただし、人間を描くとは言っても、私はリアリズム信者ではありません。「ゆるキャラはなぜ殺される」のようなタイプの短編世界もまた、面白いと思う読者のひとりです。しかし、こうしたいわば作り物的な推理ゲームで楽しませる小説として見た時、今回の候補作ははたして本当に東川さんのベストの短編だったのでしょうか。細かいところの持っていき方が、私には雑に見えました。去年に次ぐ候補だっただけに、一票を投じたいと思って拝読しましたが、残念です。
 評論その他の部門については、全員一致で『アガサ・クリスティー完全攻略』がすぐに受賞に決まりました。クリスティー全作について、一冊一冊の丁寧なブックガイドになっていて、その書きっぷりが秀逸でした。加えて、この一冊を通読した時には、クリスティーの小説作法について、そして、推理小説そのものについて深く考えさせられる、もうひとつの面白さがありました。その点に於いて、『路地裏の迷宮踏査』は、各チャプターで取り上げたテーマの見つけ方、書きっぷりともに抜群に面白かったのですが、通読した時にまた二度美味しい、といった点の面白さに於いて、『クリスティー完全攻略』に及ばなかったのが不利でした。賞の難しさを感じたのはこういう点で、『クリスティー』と並ばなければ、私はこの本を受賞作に推したと思います。『ライトノベルから見た少女/少年小説史』も面白く拝読しました。現在の「ライトノベル」の括りで捉えても、ライトノベルとは何かはわからないといったテーマの立て方に興味を惹きつけられ、その上で少女/少年小説史をたどり直す過程は、一読書人として非常に面白いものでした。しかし、結果としてもたらされた結論部分には、些か肩透かしを食った感じがしました。
『本棚探偵最後の挨拶』は、私が選考委員を務めた四年間の中で、選考がもっとも紛糾しました。読み物として面白いのか違うのか、といった議論から、二作同時受賞となる場合の受賞作のあり方とは何かといった議論まで、様々な点に於いて意見がふたつに割れました。今年もそうですが、この部門の特徴は、色合いの異なる候補作を、同じ土俵で討論し、受賞作を決めなければならないということでしょう。それに対する私の姿勢は一貫していて、「この本はもっとも面白かった」と判断した本に票を投じることです。『本棚探偵』は、古本やミステリに対する愛情がこれでもかというばかりに溢れていて、実作者であると同時に一ミステリファンである私という読者を、心底、わくわくさせてくれました。「ミステリ愛」といったものが、ひしひしと伝わってきました。その一点に於いて受賞作に推すということに対して、反対意見があったことも事実です。推理作協会賞というのは、そういう賞でもあって欲しいという内なる指針が、最後の決め手になりました。霜月さん、喜国さん、おめでとうございます。
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貴志祐介[ 会員名簿 ]選考経過を見る
選評

 残念ながら、短編部門は、昨年に引き続いて該当作なしという結果に終わった。
 私は、相対評価では、トリックに説得力のあった『ゆるキャラはなぜ殺される』を一位にしたが、全員の投票で、○を二点、△を一点、×を〇点とすると、四作とも合計三点で並ぶという結果では、受賞作なしはやむを得なかったかもしれない。短編ミステリーの秀作は毎年生まれていると思うのだが、その多くが、すでに推協賞を受賞した作家の手になるもので、新人が短編を発表できる場が少ないという指摘があった。一朝一夕に解決できる問題ではないが、今後の検討課題だろうと思う。
 一方、評論その他の部門には力作が目立った(去年も同じことを書いた覚えがある)。『ライトノベルから見た少女/少年小説史』は、ライトノベルの書き手でもある著者による、ライトノベル愛溢れる一冊である。門外漢である私には、最初にライトノベルという言葉が生まれたのはいつかとか最初のライトノベルが何かではなく、「一般文芸のライトノベル化」というイシューにこそ興味を惹かれたのだが、論がそちらに進まなかったのは少し残念だった。
 『路地裏の迷宮踏査』に、私は○を付けた。著者の圧倒的な読書量に裏打ちされた話は読み応え充分で、個人的には、ウッドハウスがクリスティやリチャード・ハルにも影響を与えていたという話がおもしろかったが、かなりの知識を要求する――読み手を選ぶ本であること、また、一部ネタが被る『アガサ……』と一緒になったことが、不運だったかもしれない。
 さて、『アガサ・クリスティー完全攻略』である。全員がのっけから高評価だったが、これには、ただ感嘆しかなかった。クリスティの全翻訳作品九十九作を読破するだけでも容易なことではないが、さらに、詳細な評価を行い全体の中での位置づけを決めるという労力には頭が下がる。本当に書店に走りたくなる優れたブックガイドであるだけでなく、クリスティという巨大な山脈の全体像を教えてくれる羅針盤としても、本棚にずっと置いておきたいと思わせた。個人的には、ミステリーを読み始めた頃には熱中したが、いつの間にか読まなくなってしまった〈クリスティ問題〉のもやもやを、見事に晴らしてくれたことに感謝している。
 議論が紛糾したのは、『本棚探偵最後の挨拶』だった。著者の本への愛と東日本大震災での素晴らしい行動は賞賛したいが、エッセイとして見ると、マンガの吹き出しのような感嘆符の多用など、ついて行けないところも多かった。最後は、三対二の多数決で授賞が決定したが、同じ文章への評価がここまで分かれるというのは、初めての経験である。
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貫井徳郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
話芸の勝利

 今回も短編部門は受賞作なしとなりました。どんでん返しを含むミステリーは、驚きを演出するためにどうしても無理をしなければなりません。その結果、不自然な部分が出てしまうわけですが、それを糊塗して初めて小説になり得ます。しかし候補作は四編とも、不自然さを糊塗する作業を怠っていました。それでは受賞に届きません。
 評論その他の部門では、『アガサ・クリスティー完全攻略』がほぼ満場一致で受賞と決まりました。題材はアガサ・クリスティーですが、同時代の作品やクリスティーから見て未来の作品まで比較対象として取り上げ、ミステリー史全体を掴む評論となっています。それだけでなく、単純に読んで面白いものでした。ぼくはクリスティーを五十冊以上読んでいますが、未読作品の紹介はもちろん、読んでいるものへの言及もすべて面白かったです。低評価を下す際にも基準がはっきりしているので納得でき、かつ面白く読ませる努力をしている点に好感を持ちました。まさに作品評のお手本であり、プロアマ問わず広く読まれて欲しいと思います。横綱相撲の受賞でした。
『ライトノベルから見た少女/少年小説史』は既存の論への批判です。批判自体はなるほどと面白く読みました。ですが、他者を批判するなら当然、著者自身の新しい論なり定義なりがあるものと思って読み進めたところ、それがないので驚きました。他の著書で独自の定義をしているのかもしれませんが、そうであるとしても賞の対象はこの本だけなので、高評価はできませんでした。
 もし三作同時受賞が許されるなら、『路地裏の迷宮踏査』にも○をつけていました。結局『本棚探偵最後の挨拶』に○をつけて『路地裏』を△としたのは、話芸の差でした。『路地裏』の面白さは、事実の面白さなんですね。だから知らないエピソードは面白く読めるものの、知っている話は「うん、知ってる」以外の感想が出てこない。特に前半は本格ミステリー作家を取り上げていたので、ぼくにとっては知っていることばかりでした。後半に入ると知らないエピソードの連続となって面白くなりましたが、果たしてこれを作品として評価していいのか迷いました。最終的に、単なるエピソードの集積であってもこれだけの数を集めることは評価に値すると考えましたが、他にいい作品があれば△にせざるを得ませんでした。
『本棚探偵最後の挨拶』の受賞は、まさに話芸の勝利でした。創作者が選考する賞ですから、何を語るかよりもどう語るかが重視されたと言えましょう。『クリスティー完全攻略』の話芸も卓越していましたが、『本棚探偵』も負けていません。ミステリーについてこれほど楽しく語ってくれるエッセイは貴重であるとも思いました。
 一般読者にミステリーの面白さを伝えてくれる作品二本に贈賞でき、非常に満足です。
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山前譲[ 会員名簿 ]選考経過を見る
一押しとはなかなか言えず

【短編部門】
 候補作の四編、それぞれに作者の個性が表れていたと思う。だが、やはり日本推理作家協会賞のハードルは高い。
 下村敦史「死は朝、羽ばたく」が一番、ミステリーとしての仕掛けを意識していて、意外性を楽しめたからと推したのだけれど、その仕掛けのための不自然さや、新鮮さのないことが指摘されてしまった。
 芦沢央「許されようとは思いません」は、恋愛小説としてはなかなか微笑ましいストーリーで、好感をもって読み終えた。しかし、謎解きの根幹となる過去の殺人事件では、不自然な動機が目立ってしまった。
 ユーモア・ミステリーのジャンルでは、もはや誰もが認める存在だろう。東川篤哉「ゆるキャラはなぜ殺される」は、お馴染みの舞台にゆるキャラという現代的な素材が乱入し、笑いながら読んだ。キャラクターの虚実性が言動の不自然さをフォローしているのだが、不可能犯罪の謎解きには十分生かされていなかったようだ。
 不可思議な密室殺人の堀燐太郎「ドールズ密室ハウス」は、肝心の密室トリックがちょっと不自然だった。犯人はすぐに分かってしまう展開だけに(論理的ではないのだけれど)、どうしても密室を期待してしまったのだ。しかも、この一作だけでは、探偵役のキャラクターを十分には伝えられなかった。
【評論その他の部門】
 強く推したいというものはなかったけれど、こちらもそれぞれにユニークなテーマで、楽しく読んだ。
 霜月蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』は、早川書房の「クリスティー文庫」の刊行順に読破していくという力業に、まず圧倒される。そうした読み方だからこそ、しだいに変化していくクリスティー作品への印象も楽しめるのだが、作家論的には、はたしてそういうアプローチが正しいのかどうか、読み終えたあとには疑問を抱いてしまった。
 杉江松恋『路地裏の迷宮踏査』はミステリー版『ちょっといい話』で、「なるほど、なるほど」と幾度となく……だが、連載のせいか、ときには知識の羅列としか思えない項目があって、トータルとしては推せなかった。レアな作品が次々と翻訳され、ネット社会にとんでもない資料が蠢いている昨今、蘊蓄を傾けるのも難しくなってきたようだ。
 大橋崇行『ライトノベルから見た少女/少年小説史』は、通史という視点は貴重だが、この分量では論の深まりがなかったのではないだろうか。通俗的な作品への言及が物足りないし、同級生に借りて、「女学生の友」で富島健夫作品を読みふけり、「少女フレンド」の「へび少女」に恐れおののいた世代としては、違和感を覚えるところがあった。
 そして問題は喜国雅彦『本棚探偵最後の挨拶』である。面白さでは他を圧倒しているが、その面白さがはたして本賞の趣旨にそっているのかどうか。この部門の選考は難しいと、あらためて感じた次第である。
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立会理事

選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第68回 日本推理作家協会賞 短編部門 小説新潮十一月号 掲載
『許されようとは思いません』 芦沢央
[ 候補 ]第68回 日本推理作家協会賞 短編部門 小説現代九月号 掲載
『死は朝、羽ばたく』 下村敦史
[ 候補 ]第68回 日本推理作家協会賞 短編部門 宝石ザミステリー冬 掲載
『ゆるキャラはなぜ殺される』 東川篤哉
[ 候補 ]第68回 日本推理作家協会賞 短編部門 ジグソー失踪パズル・フリースタイル 掲載
『ドールズ密室ハウス』 堀燐太郎