1949年 第2回 日本推理作家協会賞 短編部門
- 作家略歴
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1923.1.4~2001.7.28
兵庫県生れ。東京医科大卒。
一九四七年、「宝石」の第一回懸賞小説に入選した「達磨峠の事件」を発表。卓抜な発想の短編を次々と発表し、四九年、「眼中の悪魔」「虚像淫楽」の二作で探偵作家クラブ賞を受賞した。連作「妖異金瓶梅」を経て、「十三角関係」「誰にも出来る殺人」「棺の中の悦楽」「太陽黒点」などを発表。五八年の「甲賀忍法帖」を最初とする忍法帖シリーズや「明治断頭台」ほかの明治物も特徴的。
九七年に菊池寛賞、二〇〇〇年に日本ミステリー文学大賞を受賞。
2001年7月28日没
- 作家略歴
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1923.1.4~2001.7.28
兵庫県生れ。東京医科大卒。
一九四七年、「宝石」の第一回懸賞小説に入選した「達磨峠の事件」を発表。卓抜な発想の短編を次々と発表し、四九年、「眼中の悪魔」「虚像淫楽」の二作で探偵作家クラブ賞を受賞した。連作「妖異金瓶梅」を経て、「十三角関係」「誰にも出来る殺人」「棺の中の悦楽」「太陽黒点」などを発表。五八年の「甲賀忍法帖」を最初とする忍法帖シリーズや「明治断頭台」ほかの明治物も特徴的。
九七年に菊池寛賞、二〇〇〇年に日本ミステリー文学大賞を受賞。
2001年7月28日没
選考
以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。
選考経過
- 選考経過を見る
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十二月の会報によって一般会員(幹事を含む)から長篇一篇、短篇三篇の投票を乞ふた。二十二年度は別に新人賞を設けたが、二十三年度は新人の力作多く、投票が新人に集中する予想がついたので、殊更新人賞は設けないことにした。これに対し左の四十二氏から回答があった。
西田政治、守友恒、香山滋、九鬼澹、岩田賛、双葉十三郎、渡辺健治、荒正人、正岡容、黒沼健、森下雨村、横溝正史、永瀬三吾、萩原光雄、永川瀧、水上幻一郎、中島河太郎、阿部主計、高木彬光、大坪砂男、高木卓、武田武彦、北町一郎、中島親、本間田麻誉、東震太郎、三宅一郎、鬼怒川浩、服部元正、楠田匡介、白石潔、島久平、香住春作、妹尾アキ央、古沢仁、杉山清詩、向田春次、今宮一、西尾正、城昌幸、上原清信、貴司山冶
その投票を集計した結果は左の通りである。
長篇
【十七票】坂口安吾「不連続殺人事件」【十票】高木彬光「刺青殺人事件」【六票】横溝正史「獄門島」木々高太郎「三面鏡の恐怖」(二票以下略)
短篇
【十一票】大坪砂男「天狗」【八票】山田風太郎「眼中の悪魔」【七票】山田風太郎「虚像淫楽」【六票】角田喜久雄「猫」香山滋「蜥蜴の島」【五票】横溝正史「黒猫」島田一男「太陽の眼」【四票】大坪砂男「赤痣の女」(三票以下略)
右の結果を参考資料として二十名の幹事に長短各一篇の再投票を乞ふたところ、野村胡堂、延原謙両氏は棄権、横溝正史、保藤龍緒両氏は短篇のみ棄権、他の十六氏は長短篇とも投票され、その集計から左の通りになった。
長篇
【七票】坂口「不連続殺人事件」【五票】高木「刺青殺人事件」【三票】木々「三面鏡の恐怖」横溝「獄門島」
短篇
【六票】山田「眼中の悪魔」【五票】大坪「天狗」【三票】横溝「黒猫」【一票】水谷「窓は敲かれず」角田「猫」島田「太陽の眼」永瀬三吾「夢を狙ふ男」
或る幹事は短篇賞を三人に与へよといふ説で三篇を投票せられたので短篇の合計は投票者数より二票多くなってゐる。
二月十三日在京幹事会を開いた。前年度は十名の詮衡委員を選んだが郵便連絡に非常に時間を要するので、今度は地方幹事を除き、在京幹事全部を詮衡委員とした。出席者は大下、横溝、水谷、城、渡辺、香山、島田、九鬼、岩田、江戸川の十名、海野、木々、角田、延原、野村、守友の六氏は欠席されたが、木々、角田両氏は事前に会長を訪問して意見を述べられ、守友氏は手紙で会長一任の意思表示をされた。長篇については一般投票と幹事投票と一致してゐるので、異議は出なかったが、短篇は一般投票では「天狗」が、幹事投票では「眼中の悪魔」が一席となったので、これについて幹事の間で意見が戦はされた。その結果次の結論に達した。一般投票で大坪氏は「天狗」十一「赤痣の女」四、合計十五票、山田氏は「眼中の悪魔」八「虚像淫楽」七、合計十五票と両者同点であった。これは山田氏の両作に甲乙がつけにくく、票が分散したのだが、幹事投票ではそれが「眼中悪魔」の方に集中され、結局山田氏を支持するものが多かったわけで、この結果はやはり妥当であるといふ意見が勝を占め、幹事投票のままとなった。尚、前記一人で三篇を投票せられた幹事は、山田、大坪両氏に一票づつを入れてをられるので、その為の不公平はない。尚、会報〆切の都合上、今回は各詮衡委員の感想をのせることが出来なかったので、贈呈式当日のテーブル・スピーチを次号に採録したいと考へてゐる。閉じる
その他
- 中島河太郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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昭和二十三年度探偵作家クラブ賞贈呈式は二月二十六日午後一時より中央区京橋相互ビル東洋軒で行はれた。
江戸川会長の挨拶に引続き贈呈式に移り、長篇賞(不連続殺人事件)は坂口安吾氏病気にて欠席のため「宝石」編集長武田武彦氏代理で、短篇賞(眼中の悪魔)は山田風太郎氏に、拍手裡に賞品並びに賞金が贈呈された。
次いで会長の指名により左記のテーブル・スピーチに移った。
城 昌幸氏 ジャーナリズムの中にあって此の行事が定期的に進行していることに先ず満足と嬉しさを感ずる。決定については幹事間で議論百出であった。坂口氏の作品は読み辛いし面白くないが所謂探偵作家でない氏を此のクラブが重んずることにファインプレイを感ずる。山田氏は当然の順序で「眼中」は筋は目新しくないが並々ならぬ情熱を傾け文学的きめも細かい。氏は範囲が広いので将来性があり、之を結実でなく土台として上に伸びられんことを期待する。
渡辺啓助氏 私は傍観的立場で全部読んでいないが、坂口氏のはこみ入っていて疲労を感ずるものゝその情勢は買はなくてはならぬし、所謂探偵作家以外の新しい挑戦としての意味がある。「眼中」は未読だが他の作品は情熱的迫力あり文章も苦心してあり、当然獲得すべきものを獲得したと云へよう。
高木彬光氏 「刺青」は今から見ると下手で恥かしい。坂口氏の手腕に敬意を表する。山田氏のは老練なもので我々のジェネレーションを代表してお祝ひする。
香山 滋氏 坂口氏の作品には敬意を表する。山田氏には一作毎に驚嘆の眼を瞠るばかりである。今後古典的舞台中に探偵趣味を盛った方面にも十分の力を遺してもらひたい。
白石 潔氏 純文壇の人が探偵小説に情熱を持つことは有難いが読後悲観した。トリック、サスペンスを抜きにして作者自身の作品傾向の中にトリックを匿したことを悲しむ。玄関からでなく台所から入って鼠捕りに掛った感じがする。そういふ傾向を抜きにした第二作を期待したい。山田氏の作品は文壇のアプレゲール派に遜色ないもので敬意を表する。
岩田 賛氏 「不連続」は坂口氏の作風が目くらましだとは思はぬ。骨は矢張りクリスティの味があり古い型の本格だと思ふ。山田氏は私と肌あひが違い探偵小説の「事」より「人」や「物」の関係の深さを根幹とされている。新しいとは云へぬが重厚な作風を嬉しく思ふ。
島田一男氏 「旬刊ニュース」のコンクールの時も山田氏に敗けたと思ったが、スポーツマンシップの意味で私は嬉しい。投票でも新人が多いのは誇りで今後も新人励まし合って行きたい。坂口氏には私の作が徹底的にやられたので申上げ様がないが、「不連続」は好きではない。私は一般の読者から褒めてもらへる作品が書きたいしそれが本当だと思ふ。
岩谷 満氏 私には「刺青」の方が面白かったが坂口氏が書かれた点が興味深い。文壇のアプレゲール派は面白くないが、山田氏の登場人物は若き世代の悩みをもち、その上小説としての面白さが十分にある。
大坪砂男氏 短篇賞が二十代の方に当ったのは若返ったようでこんな好い事はない。佐藤春夫先生は二十五才で作家になられたのを後悔して居られるが山田氏もなるべく人生経験を豊富にして作家生命を永く保たれたい。
木々高太郎氏 旧人をさしおいて新人が両賞とも獲得されたことは画期的で意味がある。それは皆が育てようといふ熱意の表はれでもあり旧人が怠けていたことにもなる。坂口氏の作品は之が氏の表口であらうし堂々と探偵小説に努力を注いだ点を買ふ。即ち探偵小説の時は探偵作家になったとみるので、純文学が書けることが探偵小説を文学にし得るのではなく探偵小説から文学たり得るものが生れるといへるので、探偵小説から文学へ突き抜けなければいけないと思ふ。山田氏は小酒井不木の再来で、テーマに、描写に、その面影を感ずる。
高木 卓氏 坂口氏のものは素人ぽい感じがするが敬意を表したい。クラブが専門外の人に授賞した包容性を嬉しく思ふ。山田氏に対しては無事な成長を祈りたい。
萩原光雄氏 私の様な荷の軽い立場から見ると妥当な詮衡であった。坂口氏のは却って探偵小説でない部分に面白味を感じた。山田氏の受賞は当然で、尚この杯会に「芍薬屋夫人」を薦めたい。
中島河太郎氏 坂口氏の作品に対して諸氏から種々非難があったが、物足りない点はあるものゝ探偵小説の正道を踏まれ、然も文学的視野は広く大人の文章でやはり他に拔ん出た作品であった。山田氏は「眼中」の一作に限らずヴァラエティに富み、嘱望するに足る。
二宮栄三氏 山田氏には成長が見えて嬉しい。作品の味と探偵小説とが渾然として来たら新しいものが出来ると思ふ。「眼中」は種明しとなると機械的である。坂口氏のはごたゝした感じだが流石に話が捌けて行くのは経験の力だ。併し氏の態度は犯人の当てっこに始終して居り匿し方がオリヂナルでない。クリスティの「スタイルズ事件」だと思ふ。
江戸川乱歩氏 今年程長篇の力作の出た年は嘗てない。その中「不連続」「刺青」の両作が一位を争った。私の考へでは坂口氏の方に一日の長があり、作品そのものをトリックに使ったことに特長を認める。探偵が犯人であったり記録の筆者が犯人であったりするのは卑怯だといふ説があるが私はさうは思はない。それと同じことで、この作も「黄色の部屋」や「アクロイド」と同様の驚嘆があり傑作である。山田君の「眼中」は探偵味が多い意味で推したが「虚像淫楽」「芍薬屋夫人」も優れている。「虚像」は変態心理、「芍薬屋」は普通の犯罪心理を扱ったもので、寛、龍之介の作品を連想した。山田君の作風は小説の型から云へば古いもので、新人の内香山君を除いてそんなに新風といふものを感じない。もっと新風を待望する。
阿部主計氏 山田氏のは人間性が弱く、坂口氏の作品については不満許りだ。
大下宇陀児氏 昨年は新人諸君に賞を独占されたが我々旧人も大いにやる。決して新人に負けない自信がある。新人諸君ももっとゝいゝ作を書かなければいけない。
坂口安吾氏 (メッセージを武田武彦氏代読)今年度の傑作として私は「獄門島」を推すが委託殺人は薄弱だと思った。私に授賞されるとの事だが現在の探偵小説手法は底をついたと思ふし、「黙って座ればピタリと当る」式のナンセンス名探偵をノックアウトしたい。日本の探偵作家の探偵眼は決して警察庁の御歴々以上でないから、現役の警視庁の御歴々から実話を伺ふべき必要がある。
山田風太郎氏 今回の授賞は有難く亦羞しい。此の二年間何をしていたかと思ふが、授賞は「小僧しかりやれ」といふ意味と考へ、有難くお受けする。
山崎徹也氏 坂口氏のは未読だが山田氏のものは重厚味を感ずる。但し暗い点がある。
大島十九郎氏 私は探偵小説を別に大衆文学とせず普通の小説と同じ気持ちで読んでいるが、技術が喰ひ足りなく少し甘やかされている。トリック・ストーリーをまとめる点に重点が置かれ小説がおろそかになっている。新人では大坪氏に期待する。
右のテーブル・スピーチの間に江戸川、木々氏により初めて出席の宮野叢子、椿八郎両氏の紹介があった。一同記念撮影の後、長谷川智氏等の奇術の妙技に感嘆し、午後五時盛会裡に式を終了した。尚坂口安吾氏は賞金二万円を土曜会講演費として寄附された。閉じる