2006年 第59回 日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門
受賞の言葉
子供の頃から本といえば推理小説で、小説というのは面白くなければならないと単純に信じてきました。
大人になって自分が書く側になって、いかに先人の作品が優れているか、面白いものを産み出し続けることが、どんなに難しいことか、日々絶望に近いところで痛感しています。
「ユージニア」は、本になるまでも、本になってからも多くの方のお世話になっています。力を貸して下さった皆さんに深く感謝します。
- 作家略歴
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1964.10.25~
1964年10月25日生まれ。A型さそり座。
1991年第三回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補となった『六番目の小夜子』(新潮社)でデビュー。
趣味は読書と散歩と暴飲暴食。
以降の作品は、発表順に『球形の季節』(新潮文庫)『不安な童話』(祥伝社文庫)『三月は深き紅の淵を』(講談社)『光の帝国』(集英社)『象と耳鳴り』(祥伝社)『木曜組曲』(徳間書店)『月の裏側』(幻冬舎)『ネバーランド』(集英社)『麦の海に沈む果実』(講談社)
2005年『夜のピクニック』にて第2回本屋大賞と第23回吉川英治文学新人賞を受賞。
2006年『ユージニア』にて第59回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞。
2007年『中庭の出来事』にて第20回山本周五郎賞受賞。
2017年『蜜蜂と遠雷』にて第14回本屋大賞と第156回直木賞受賞。
選考
以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。
選考経過
- 北村薫[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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第五十九回日本推理作家協会賞の選考は、二〇〇五年一月一日より同年十二月三十一日までに刊行された長編と連作短編集、及び評論書などと、小説誌をはじめとする各紙誌や書籍にて発表された短編小説を対象に、昨年の十二月よりそれぞれ予選を開始した。
協会員と出版関係者のアンケート回答を参考に、まず長編および連作短編集二四五、短編六一八、評論その他二二作品をリストアップした。協会が委嘱した部門別の予選委員が、これらの選考にあたり、長編および連作短編集五、短編五、評論その他四の、各候補作品を決定した。
本選考会は、五月十六日午後三時より、第一ホテル東京にて開催された。長編および連作短編集部門は、有栖川有栖、北森鴻、野崎六助、馳星周、山田正紀(立合理事・北村薫)、短編部門・評論その他の部門は、黒川博行、直井明、法月綸太郎、藤田宜永、宮部みゆき(立合理事・東野圭吾)の全選考委員が出席して各部門ごとに選考が行われた。
選考経過は、以下の通り。
長編部門
立合理事 北村薫
最初に各委員が、候補作すべてについて三段階で評価を行った。その結果、『ユージニア』のみが突出し、他の四作は横一線に並んだ。二作受賞も視野に入れるため、まず対象を数作にまで絞りこむべく、個々に検討した。その段階で、『家、家にあらず』はミステリとしての魅力が今ひとつということで脱落した。ここで再度、投票を行ったが、やはり、『ユーニジア』のみが飛び抜けた評価を受けた。「何度も読み返した」「昨年の候補作よりも格段にいい」等々の声が相次いだため、『ユージニア』の受賞を決定し、もう一作を合わせて出すかの検討に入った。『隠蔽捜査』には「困難なところを狙って書きながら、さすがにうまい」、『ゴーレムの檻』には「ばらつきはあるが、天才の作」、『審判』には「現代において、社会派プラス本格の融合の試みを行った」等の声があった。しかしながら、それぞれに支持者が分かれ、残る二人の委員は「今回は一作受賞が妥当」「二つ出すとなれば反対しない作が二つあるが、積極的に推す一作はない」という立場だった。結局、「第一位と第二位の評価の差が僅少ならともかく、この状態では残念ながら、一作のみの受賞とするのが妥当」という結論に達した。
短編・評論その他の部門
立合理事 東野圭吾
短編部門
最初に各委員が、候補作品すべてについて三段階で評価を行った。その結果、『壊れた少女を拾ったので』の点数が伸びず、まず圏外となった。「作品の意図が不明」といった理由が多かったが、文章力を評価する声もあった。続いて『バスジャック』が、あまりにストーリーが優等生的で冒険心に欠ける等の理由で、『流れ星の作り方』は、おとなしくまとまりすぎているといった理由で、それぞれ見送りとなった。ただし、『バスジャック』には「最も楽しく読めた」、『流れ星――』には「才能を感じられる」といった意見があった。『克美さんがいる』については、「候補作中で最も推理小説らしい仕上がりになっている」という理由で二名の委員が推したが、「冒頭で仕掛けに気づいたため、ストーリーが退屈なものになった」、「無駄な描写、会話が多すぎる」といった意見が出たため、「エンタテインメント小説として十分に楽しめる」、「語り口が楽しい」といった理由で四名の委員が推した『独白するユニバーサル横メルカトル』が、最終的に受賞作となった。
評論その他の部門
短編と同様の投票を行ったところ、『下山事件 最後の証言』がほぼ満票を集めて、まず受賞となった。「資料に頼りすぎている」という意見もあったが、「とにかく読み物として面白い」という評価がそれを上回った。ただし他の候補作についても否定的な意見を出す委員は少なく、もう一作を選ぶとすればという条件付きで票決したところ、『松本清張事典 決定版』について検討したいという意見が過半数を占めた。そこで議論を重ね、「資料として価値があるし、こうした研究を評価したい」等の理由から、二作同時受賞となった。
選考後の記者会見には、受賞者全員が出席し、受賞の喜び、今後の豊富などを語った。
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選評
- 有栖川有栖[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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最初から『ユージニア』に票が集まった。本賞の長い歴史の中でも、異色作に属するだろう。恩田陸氏は、独特の語り口をもって、ぞくぞくするような謎を丹念に織り上げた。冒頭で提示された不可解な謎が、もつれた糸をほどくように徐々に解かれていく、というのがミステリの常套的なパターンだが、この作品はそれとは逆のベクトルを持つ。それでいながら、ミステリならではのサスペンスが横溢しているのだ。しかも、謎は部分的に解かれることで、さらに深みを増すのだから、突っ込む隙がない。前年の候補作『Q&A』でも同様の技法が使われていたが、本作の方がより美しく、完成度が高い。
その実力からすれば、これは遅すぎる受賞ではないか、と思いつつ――恩田陸さん、おめでとうございます。
他の作品からも受賞作が出そうな局面もあったが、委員の意見が揃わなかった。
『家、家にあらず』は、大名家の奥御殿に入った娘・瑞江が、御家の存亡に関わる連続殺人事件を通して成長する様を描いている。練達の文章が絢爛たる世界を構築しており、時を忘れて読んだ。さりながら、時代小説として充分に面白いために、謎解きへの興味が後退し、ミステリとしての面白さが減じた。他の文学賞ならば、そんなことは瑕瑾にもならないにせよ、私は本賞を他と差別化したい。
『隠蔽捜査』も上質のエンターテインメントであり、キャリア官僚のあるべき姿というテーマを追求したアクチュアルな作品。ぶれのない安定感が心地よい。ほとんど読者を選ぶことなくアピールし、支持が得られるだろう。反面、ミステリとしては振幅がやや小さく、小説としての落としどころが早く見えてしまった。だったらどう書けばよかったのか、私に対案があるわけではないのだが。
『ユージニア』の受賞が決定した後、その他の作品に順位をつけよ、という議論の流れになった際、私は『ゴーレムの檻』を一等に推した。この連作短編集において、柄刀一氏は「トリックを成立させるため、ミステリ作家はどこまで世界を改変する自由を持つのか?」を実験している。作者は、まさに本格ミステリのパルナシアンだ。超絶の技巧が要求される挑戦ゆえ、常に成功するのは困難で、「作品にばらつきがある」との声が出て受賞を逃がしてしまった。選考会の後、「有栖川さんがもっと推せばどうなったか……」と複数の委員から言われ、作品の素晴らしさを表現しきれなかったことを悔いた。
『審判』は、不透明な事件の真相を本格ミステリのアプローチで掘り起こすと同時に、現代の罪と罰をシリアスに描いた力作。プロットも捻ってある。これもまた困難に挑んだ作品であるが、ツイストを利かせた分だけ無理も生じて、本格ミステリとしてはアンフェアと取れる部分ができてしまった。それに付随して、犯人像が少しぼやけてしまったように感じた。これもまた惜しい結果である。
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- 北森鴻[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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「ユージニア」。わたしとしてはこれを強く推すつもりで選考会に臨んだ。ひとつの事件を複数の角度から追うという、恩田さん得意の手法で、人間の記憶のあいまいさ、崩れゆく人格の歪みなどが描かれ、着地もきれいに決まっている。実は同様の手法の作品で昨年も候補に上がっており、それがマイナスに働くかなとも思ったが、杞憂だった。おめでとうございます、恩田さん。
さて、選考会では二作目の受賞作を出すか否かについて、意見が分かれた。それぞれ力作であり、選考委員の間でも活発な意見が交わされたが、結局どの作品にも一長一短があるということで恩田さんの一作受賞に決定した。それぞれの作品に関する意見を記しておく。
「隠蔽捜査」。警察組織におけるキャリアとノンキャリアの確執。キャリア同士の間にも生じる事務方と現場方の意見の相違。さらに上層部の思惑といったものが描かれ、面白かった。が、いずれもどこかで描かれた構図であり、あまり新鮮味を感じなかった。
「審判」。最後に暴かれる真犯人の正体について、納得できなかったのが残念。どうしてその人物は、真犯人であるにもかかわらず、あのような行動をとったのか。行動の理由が理解できない。これは人格そのほかについての崩壊に至る物語であるという意見もあったが、ならばそのような描写がもっとあってしかるべきではないのか。
「ゴーレムの檻」。こうした作品にリアリティなど求めるべきではないと常に思っている。ある意味でファンタジーであり、不可能犯罪とトリックとその証明によって楽しませてくれるならそれで十分に満足すべきだろう。事実、この作品集にはそうした要素が満ちている。にもかかわらず推せなかったのは、本来ならば楽しむべき部分に、あまり魅力を感じなかったためだ。
「家、家にあらず」。もし二作受賞ならばこの作品を、と思っていた。小説としての面白さは群を抜いているという、ほかの選考委員もあったのだが、では日本推理作家協会賞授章作か? との問いに明確な反論ができませんでした。ごめんなさい松井さん。わたしの力不足でした。
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- 野崎六助[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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例年のことは知らず、今回は五作いずれをとっても賞の名にふさわしい力作、各作家の代表作が集まった。どれが受賞しても不思議ではない、どれが逸賞しても無念が残る。といった予測に、選考会の前夜は輾転反側、一睡もできない始末であった。
結果は、二回目の投票で『ユージニア』が悠々たる差をつけて抜けきった。ここに到るまでの汗みどろの激論数時間については触れないでおこう。恩田版ツインピークス・アナザーワールドへの誘い・都市伝説のあえかな旋律が三位一体となり、堂々の栄誉は当然である。作者は今、手にふれるものすべてをたちまち創作の源泉と変える絶好調の時期にいるのだろう。ちなみにこの作品に保留点をつけたのはわたし一人であった。他の作品に濃厚な書き手の冒険もしくは挑戦といった契機を認めにくく、作者が最強のフィールドで手馴れた世界を構築しているところが引っかかった。もとよりこれは作品の絶対評価ではなく、他の候補作より低位にきたという相対評価でしかない。
『隠蔽捜査』は読みやすさの点でトップだった。読みやすさは軽さではなく、警察組織の不祥事隠蔽と凶悪少年犯罪への代行復讐といった二本の大テーマをあえて背景にすえ、エリート警察官の家族の不祥事への対処をメインに置くという意図に、作者の矜持を見つけられる。全体の得点からいえば次点にきた。後半の展開にもう一山か二山あればサスペンスものとしての厚みは増しただろう、というのは各委員の共通する評価だったと思う。
『ゴーレムの檻』はこの作家の系列では最も実験的傾向の強い連作である。その意味では、この賞の顕彰対象として非常にぴったりくる。失敗作だという厳しい評価もあったが、それも、きわめて成功確率の低い挑戦であることを前提にした暖かい厳しさだったように思う。作者のさらなる求道を望みます。
『審判』も、柄刀作品とはかなり異なる性格とはいえ、「本格ミステリのかぎりなき挑戦」に挑みつづけている結実の一つだ。この作品をわたし一人が強く推し、『ユージニア』とは逆構図の四面楚歌に直面させられた。一言でいえば、本格ミステリと社会派ミステリの結合が作者のポリシーなのだが、結合イメージへの支持が今一歩という想いだ。たとえば犯人の行動についても、支離滅裂でリアリティがない、書き方がアンフェアである、という両サイドからの批判があった。そのなかで山田委員が人物の「崩壊した母性」について精緻な分析を展開したのが示唆的だった。山田氏は作者が意図してこの崩壊を追いつめたとすればこの作品を支持できるという評価。挑戦はまだなされるだろうと思いたい。
『家、家にあらず』は作品としての地力は随一だった。賞の性格上、ミステリ的側面の弱さが共通意見として出るのがやむをえず、余談だが、選考委員が男性ばかりだったことがこの候補作にとって不幸だったかもしれない。
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- 馳星周[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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選考は思いの外長引いた。
受賞作の『ユージニア』にははじめから高い評価が各選考委員から与えられたのだが、他の四作品に対する評価が分かれたからだ。結局、『ユージニア』一作の受賞という形で選考会は終わったが、どの選考委員の顔にも一様に疲労の色が浮かんでいたのが印象深い。
以下、わたし個人の各作品に対する印象を書きとめていく。
『家、家にあらず』は、江戸時代の女だけの世界を描いた時代小説、情報小説としては出色の出来だと思う。しかし、日本推理作家協会の名前を冠する賞を与えるには、あまりにもミステリの部分が脆弱だった。ヒロインの出生の秘密が明かされるシーンもインパクトが弱く、わたしは、これは作者の構成ミスだと受け取った。
『審判』は長いキャリアを誇る作者の、本格と社会派ミステリの融合を狙った佳作だ。しかし、本格ミステリの規則に拘泥するあまり――つまり、読者に対してフェアであろうとするあまり、逆にアンフェアな叙述が多くなってしまったように思う。犯人像が上手に頭の中で描けないのだ。また、社会派ミステリとしては、登場人物個々人の情念が見えにくい。これは文体の問題である。情念を読みたいというのはわたしの個人的な希望だが、しかし、それを差し引いても作者の意図が成功しているとは思えなかった。
『ゴーレムの檻 三月宇佐美のお茶の会』に関して「これは天才の仕事」だと表現した選考委員がいたことを明記しておく。わたしも収録作品の「エッシャー世界」には非常な感銘を受けた。しかし、受賞作として推すには、各作品の出来にばらつきがありすぎると感じた。連作集の弱点である。
『隠蔽捜査』は、これまでの警察小説にありがちなキャリア対ノンキャリアという構図に対する強烈なアンチテーゼをひっさげて、エリートとはなにかを問うた意欲作である。作者の意図、衰えぬ挑戦心にわたしは大いなる敬意を覚えたが、予定調和にすぎるという他の選考委員の意見にも頷かざるを得なかった。描かれるふたつの事件が引き起こす主人公の葛藤は丁寧に描かれるのだが、主人公の心の外の世界にダイナミズムが訪れないもどかしさもある。人の心はもっと汚濁にまみれているのではないか。その汚濁の底から浮きあがる清廉さを描いてこそ、作者の意図が的中するのではないかという予感がある。この作品はなにもかもが美しすぎるのだ。
『ユージニア』について、恥ずかしながら、わたしは初読では作者の意図がまったく掴めなかった。ただ、その語り口に熱中しただけだ。しかし、二度、三度と読み進めるうちに作者が意図したものをはっきりと掴み、なおかつ、一度読んだはずの物語にはからずも熱中してしまうという読書の魔力に囚われた。文句なしの受賞である。
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- 山田正紀[ 会員名簿 ]選考経過を見る
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僕はこれまで新人賞の選考は何度かやらせていただいているがプロ作家の作品を対象にして選考を勤めさせていただいたことは一度もない。正直、実力も人気もはるかに自分にまさる方たちの作品をまえにして、どう論評すればいいのか、そもそもそんなことが可能なことなのか、そのことに戸惑いもしたし、妙な自己嫌悪に駆られもした。選考が終わったあとには――多分、緊張のあまり――軽い頭痛さえ覚えたほどで、われながらおのれの小心さに愛想がつきる思いだった。
そんな僕にとって、恩田陸氏の「ユージニア」がぶっちぎりで選考委員たちの高い評価を獲得したことは一つの救いであった。僕自身、「ユージニア」を強く推薦しよう、と心に決めて会にのぞんだこともあって、それが高い評価を得たことで、まずは最低限の義務を果たすことができたように感じた。
問題は、恩田氏の受賞は当然のこととして、ほかに同時受賞作を出すべきかどうか、ということだった。同時受賞作を出すべきか、出すとしたらそれはどの作にすべきか……この点については選考委員たちの意見はきれいに分かれた。ほかの四作品がいずれも高い水準にあり、しかもまったく異なるサブ・ジャンルに属する作品であるために、それをどう同一俎上に乗せて比較したらいいのか、そのことに苦慮せざるをえなかった。
――時代小説の「家、家にあらず」、純粋ミステリーともいうべき「ゴーレムの檻」、警察小説の「隠蔽捜査」、本格推理と社会派推理の意欲的な融合を試みた「審判」……これだけ、その資質も、作品の意図するところも違う四作品に優劣をつけることなどできようはずがない。そもそも不可能なことなのだ。
気まぐれなネコと、忠実なイヌと、どちらがペットとして優れているかを問うようなもので、その問い自体が最初から成立しえないものといっていい。僕はネコよりイヌのほうが好きだが、それはたんに趣味嗜好の問題であって、それをもってしてイヌのほうがネコよりも優れたペットなのだ、などと断定するのは暴言以外の何物でもないだろう。
「家、家にあらず」は、時代小説としては非常に意欲的で優れた作品ではあるが、推理趣味にやや欠けるところがあり、推理作家協会賞を受賞するにはふさわしくないのではないか、という意見が出され、まず候補から外されることになった。
が、それ以外、三作品については、それぞれ候補作として推す選考委員がいて、しかもほかの二作を排除し断じてこれを推す、というほどの強硬な意見が出されるまでにはいたらなかった。これは、それだけ三作品が高い水準に並んでいる証左であって、それ以上、どんなに論議を重ねても、これを一作にしぼることはできそうになかった。
そういうことであれば、恩田陸氏の「ユージニア」一作をもってして受賞作にすべきではないか、という意見が出されて、全員がこれに賛意を示した。
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